第2話 降下
◇
「先輩、もうそろそろ日が暮れますけど、どうします?」
結局、本日進めたのは15キロメートルほどだろう。進み出しが遅かったことと、今回はスキーマを用いる移動手段をしてこなかったからだ。何しろ、緊急事態に陥っている今、下手にそれを扱うのは拒まれるからだ。それでも進んだ方であると感心したが。
スキーマとは単純に言えば雪原地帯を効率よく進むための装備だ。両足に長さ30センチメートル程の刃を取り付け、付属するエネルギーの爆発による推進力で滑走していく、まさに雪原上では欠かせない存在である。薄い刃2枚でバランスを取らなければならないことと、エネルギーの噴出が下からであることの要因で扱いには相応の訓練が必要になるのだが、機動戦が主流である現代にはもはや必須と言って良い。エンジン自体は背負えるタイプのバックパックもあるのだが、重さがあるため好まれない。
普段であれば今頃用いていることだろう。移動は徒歩に比べれば圧倒的に速い。最高時速は200キロメートルに及ぶソレは――但し、最高時速で動かすと10分ももたずに故障する――こういった雪原地帯での貴重な移動手段になり得るのだ。
しかし、現状それを扱うのは最善ではない。
確かに便利ではあるが、現状の自分たちのいる位置を正確に把握していなければ、それも意味を為さない。それに、各国の目もある。下手に好戦的な国家や集団と対峙することだけは避けたい。何より慎重に進めなければならない場では温存しておくことが最善であろう。もし、望まぬ戦闘にでもなれば逃走手段がなければ意味がないというものだ。そして、現段階で慎重を着せねばなるまいことは先のことからわかっていたことだ。
そんなわけで、本日はただひたすら歩を進めて日が暮れてしまったのだった。マコトの言葉にユウヤは苦い顔になり、振り向く。
「不本意だが、今日はここで野営するか。最近は天候の変化も激しい。下手に進める必要もないだろう」
そう言い、ユウヤは自らが背負う大きなバッグを雪上に下ろす。かなりの重量を伴っているが、これによる疲れ自体はない。寧ろ、雪上を進むのにバランスを取るのにちょうどよいと感じるほどだ。
それはともかくとして、ユウヤはバッグから何かしらのリモコンを取り出すと、同様にバッグを下ろしたマコトに投げる。
「……今日は“下”ですか?」
投げつけられたリモコンを片手でキャッチしたマコトは、すぐに理解したようにユウヤに問いかける。
「ああ。最近天候の移り変わりが激しい。最近は野良の
マコトの問いに、ユウヤは指で下を示す。見るからに真っ白な雪の上にいる。しかし、“下”という表現の仕方は正しい。
「了解です」と答えるマコトは手に持つリモコン自体が収納するコネクトのようなものを引っ張り出す。それは長さ1メートル程度のコードであり、その先端を雪上にざくりと差し込む。そして、リモコンの電源を起動させている。
そんなマコトを背に、ユウヤはバッグの中から更に色々と取り出し、準備を続ける。
五十メートル長の極細ザック、ストッパー、エレキボード、小型無線、電波探知機、小型イヤホン、そして複数のバッテリ。
まず、電波探知機に小型無線を繋げると、無線の発信量を最小に設定する。そのまま電波探知機を操作すると小型イヤホンの端子を電波探知機に差し、両の耳に付ける。
――そのまま目を閉じて静止。
時がゆっくりと流れていく。空を泳ぐ雲は緩やかに形を変え、照り付ける太陽にさらされ赤黒く靡く姿が彼らを見下ろしている。
辺りに響いてくる雑音は掻き消え、今は集中するイヤホンの音しかわからなくなる。微妙に手に持つ電波探知機を操作し、ひたすら確認作業をしていく。
しかし、そこからは何の音も聞こえてはこなかった。
そうしていること10分。ゆっくりと目を開けイヤホンを外す。
ユウヤが再び起動したことで、今まで黙々と作業をしていたマコトが訊ねる。
「何かありました?」
「……いや、何もないかな」
深く息を吐き、呼吸を整える。脳をフルに活性化させていたところを落ち着かせ、ユウヤの問いに十分な間隔を持って答えた。
それはユウヤたちの近くには無線を発信させたり、通信手段を持つ人間はいないことを指している。
電波探知機と小型無線をそれぞれ取り外し、イヤホンも加えてバッグの中に丁寧に収納する。
「よく、それでわかりますよね。だって、旧式使ってますよね?」
マコトは驚くでもなく、ただその手法を珍しそうに呟く。
基本的に、逆探知といったものを使用することは珍しくない。しかし、それは専用の機材が存在しているし、今のような複数の物を用意してやるものではないのだ。
マコトは不思議そうに眺めるが、対してユウヤは首を横に振った。
「いや、最新型は確かに有用だが、しかし一体型にしたおかげで周囲2キロメートルの存在だと逆探知される可能性が高い。そこはギリギリに抑えて限りなく傍受されないようにアナログを選ぶのが妥当な線だろう」
「今時、アナログな人もいないと思いますけどね。時間がかかりますし」
「……そうでもないさ。確かに時間は新型の2倍以上はかかるが、精密さを求めるなら機械と人間、両方を併用した方が良い。時と場合に応じて扱うものを選ばないと、俺は他の人とは対抗できないしな」
マコトの純粋な疑問に、ユウヤはどこか自嘲するようにして返す。
ユウヤ自身、分析は苦にならない方である。只管情報を集め分析し、最良の結果を導き出すことに意義があると考えていることもあってか、どうすべきかよいか判断を怠らないようにしているわけだ。その代り、自身の能力も照らし合わせる必要があるわけで、そういった要素を加味しユウヤはなんとも言えない表情をつくる。
「そっちの状況はどうだ?」
準備の手を止めないままユウヤはマコトに訊ねる。先ほど投げ渡したリモコンのことである。マコトはリモコンを見る。
「――問題ないようです。少し座標を調整すれば下に降りられるかと思います。……それにしても、」
「――ん?」
「先輩ってエレキボードまで持ってきてるんですね」
マコトは無造作に置かれたそれをちらと見る。そこには比較的大型な機材が覗いている。一か所からは銃のような先端が見える。しかし、それは厳密には銃口ではなく、もっと別の用途にある。
「まあ、使えれば便利だからな」
「確かに便利なのは認めますけど、重量とかどうなんです? ただでさえ先輩の荷物はあまり一般向けの装備ではないんですから」
マコトの疑問を耳にしながら、ユウヤはエレキボードに2本のバッテリを差し込む。その際にはどこかに損傷の痕がないかも一緒に確認し、正常に稼働できるかどうかを判断、その後スイッチを入れた。
ブンと、低い駆動音が鳴る。機能的には問題ないことを確認し、ユウヤはマコトに手を振り合図を送る。
「――ここです」
ユウヤのその動きにいつの間にか少しユウヤとの距離を離していたマコトが呼びかける。その位置までエレキボードを持って歩いていき、マコトの足元に置くと、エレキボードを中心に雪上に半径1メートルほどの円を描く。
その間にマコトはエレキボードの取っ手近くにザックをきつく縛り付け、更にザックのまだ何もつけていない方にストッパーを取り付ける。
「……ストッパーって何メートルぐらいエレキボードから離した方が良いんですか?」
「ここら辺なら10メートルほどで充分だろう。氷板もここら辺は安定している。ストッパーに付属しているバーの方は最低でも5メートル差し込めば問題ないだろ」
「了解です」とユウヤの助言を聴くマコトはエレキボードを背に歩いていく。助言通りに大体10メートルほど進んだところで、あまり目立たたない場所を選定し、ストッパーをその場に固定する作業を行う。
ユウヤの方はマコトがいるところを確認すると、ストッパーまで繋がれているザックを軽く手に取り、先ほど描いていた円とザックが交わるところに小さな滑車をザックに沿って設置する。
「準備オーケーです」
マコトは繋ぎを入念に確認してユウヤに声をかけた後、ストッパーに全体重を乗せる。
ユウヤはそれをチラと見ると、右手を掲げて合図を送り、エレキボードの稼働レベルを操作する。
瞬間、エレキボードが動き出す。上面は固定されているが、ノズルに当たる部分はゆっくりと回転を始める。
エレキボードの下部が回転しているのだ。そのまま回転速度は高速化し、目で追えないほどになったとき、全体が下に下がる。
ノズルが雪上に接触する。高速回転によりエレキボードを中心に吹雪始める。
小さくではあるが、キーンとした接触音が響く。氷が段々切れていく音だ。
エレキボードが下に下がり続けていく。吹雪も強くなり近くで見るユウヤを襲うが、ユウヤは動じない。
起動させて10分ほどが経った。エレキボードはすっかり見えなくなり、それでも吹雪は収まらない。
しかし、それもやがて終了した。
感覚的に先に理解したのはマコトの方だ。ストッパーに上部へ押し上げようとする力が加わり、それを全体重で阻止する。
更に、ザックが勢いよくエレキボードの方に引っ張られていく。長さ的に余裕があったものが、数秒でエレキボードに吸い込まれていく。滑車も勢いよく止まる。
──そして、
エレキボードの駆動音が消えた。
正確に言うと、ユウヤが手に持っていたリモコンで電源をオフにしたのだ。
ユウヤは慎重にエレキボード付近に立つと、エレキボードのあった、今は半径が50センチメートル程度の円状の穴を覗く。
「……よし」
その様子を確認し、ユウヤは呟き、マコトにサインを送る。
結局、できたのは1つの穴だ。
ユウヤは穴へとつながるように伸びるザックに手をかけると、力をグッと込めて慎重に引っ張る。
ザックを引っ張った先には舞っていた雪を全面に被っていたエレキボードが顔を出す。
それを穴から慎重に取り出して、被っている雪を手で払いのける。
ザックはエレキボードから外し、しかし、仕舞わずにまた穴へと放り込む。
「……さて、と」
入念にエレキボードを確認し、それをバッグへと仕舞うと、マコトの方へと首を向ける。
「降りるか」
「こちらもカムフラージュ終わりました。下はどれくらいですか?」
「大体20メートルくらいかな。時間かけて降りることになる。獣種への警戒も怠るな」
「了解です」
あとの作業は流れ的に進む。垂らしていたザックに安全装置やら何やらを取り付けて、ザックを引っ張り強度を再確認する。
「先に降ります」
マコトはそう言うと、穴に向かってゆっくりと入っていく。エレキボードと同様に、マコトの身体も下へと降りていき、雪上から消えた。
その様子を確認し、ユウヤは再度逆探知機を用いて周囲に何者かがいないかを調べる。
その中には1つの反応がある。超微弱の電波を出す装置をマコトに起動させているのだ。そうして、今のマコトの状況に不備がないかを調べているのだ。
生憎、何かあるわけでもなく、ゆっくりと下降を続けていたマコトの動きがピタリと止まり、数秒後には多少の横の動きが観測される。
降りたのだ。
すぐ後に微弱な電波は不規則にぶれる。しかし、それは規則的なものであるとユウヤは理解する。単純に、それを信号としてマコトがユウヤに伝えているのだ。
問題ないことを理解し、ユウヤも下降の準備に入る。周囲は既にストッパーやザックの類いは見えない。降りる前にマコトが雪を使って隠したのだ。
また雪上に出るために。
恐らくだが、1日もすれば風等の影響で今日進んできた跡もなくなり、この場に立ち止まる人間もいないだろう。
周囲を見渡した後、そう結論付けてユウヤは異様に空いている直径1メートルほどの円を見つめる。
◇
大きく見てしまえば、この世界は四つの環境に分けられる。
まずは先ほどまでユウヤたちがいた雪上。もっと範囲を拡張してみれば、そこには太陽の光を直接浴びることができる地帯を示している。名称を“本域”や“銀界”という。特に、軍人たちからは“軍事拡張領域”とも言われる。
この世界にいる人口の約8割がここで生活をしている。住民からすれば、生活基準区域とも呼べるだろう。
理由としても簡単で、そこが一番暮らしやすいからだ。陽の光を直接浴びることができることにも起因する。
そして、対照的に残りの3つは直接陽の光を浴びることができない場所を指している。
即ち、それは本域よりも“下”に展開されているのだ。
今、ユウヤとマコトがいるところがそのうちの一つだ。
床、壁、天井の全てが氷に覆われている世界がそこにはある。通称“準域”や“下核領域”、“暗銀界”などと呼ばれる。準域には無数の通路が形成されていて、世界の人口の2割がそこに住む。本域のような太陽が直接当たるところではなく、光が少し漏れてくる程度だ。しかし、準域は本域よりもきらきらと輝き、見る人を魅了することも少なくはない。
気温は準域の方が比較的高く、野営になるとこちらに移動する人間も少なくはない。最近では専用通路の改築に目覚ましいものがある。
なかなか風情を帯びている様子があると思われるが、その分危険も多い。
その一つとして、準域に降りるのに苦労することが挙げられる。平均的に見れば準域の高さは20から30メートルであり、本域と準域を隔てる氷の分厚さは10メートルから酷いところで200メートルにも及ぶ。本域の足元が抜け崩落の危険がかなり低いことを考慮に入れても、降りるのが大変なのは言うまでもない。
「生物反応は?」
マコト同様に準域に降り立ったユウヤは周囲の状況を確認しつつ、訊ねた。
「問題ないです。取り敢えず、引っかからないんで身の安全は今のところ十分かと」
周囲は氷が一面に貼られた10メートル四方の小部屋だ。
床も勿論氷ではあるが、先に何があるのかはここからでは見えない。それは天井も同様で、陽の光が通り明るさは保たれているものの、上に何があるかなどよくわかりはしない。特にここら一帯は雪が積もりに積もっているので他と比べてしまえば部屋は薄暗いとも言える。
「今日はここで野営ですか?」
「いや、少し通路に部屋の構造を確認したいから移動だ。ここに留まって万が一交戦にでもなれば上昇は難しくなるしな」
マコトの疑問に、部屋で唯一通路へと繋がる方を見ながら答える。
ユウヤはそう言うとまたバッグを開け、ごそごそと中に手を入れて何やらを探している。その間、マコトは先ほど2人が下りてきた天井にある穴の方へ、手に持つリモコンを掲げて操作を行う。すると、ザックはシュルシュルと上へと昇っていき、最終的に見えなくなった。下手に見つかるのもまずいので、こうして隠しているのだ。勿論、上に昇る際にはザックを下ろすことも可能だ。
ユウヤはバッグから探知機と通信機を取り出すと、氷の上にそっと置く。
先に通信機に手をかけると、通信機に付属しているつまみをほんの少しだけ回す。更に探知機も起動し、あたりも通路への道を確認する。
「……ジャミング、反射の気配なし。行くぞ」
「……了解」
既に動き出すユウヤの背中を見つめ、マコトは小さく返事をする。同時に溜息も気づかれない程度にこぼす。ユウヤのこの場における冷静さと行動力に呆れかえっているのだ。普段は一歩引いた位置にいるユウヤを見ているマコトにとってはなんとも珍しい光景になっているのだ。
そのまま、ユウヤを追う。
自身たちがいた一室から抜け出し、通路を進む。そこは変わらずの氷の世界であり、透き通るように光の反射する世界だ。けれどもそこに少しの感動も覚えずにただユウヤの後を辿る。
「周囲に外敵の反応はないみたいですね」
「ああ。……だが、一応注意しながら進むぞ。上の崩壊はなさそうだし比較的安全ではあるが、一つ一つクリアにしていく。取り敢えず、武装レベルは“1”にしておけ」
「――了解」
ユウヤの忠告の前に既にマコトは武装をしている。右肩に長さ80センチメートルほどの白い銃がかけている。見た目からして重量は白を基調としているでいか軽く見える。その実、重さは7、8キログラムはあるので全く重さがないわけでもない。マコトに聞いてみればこれでもかなりの改良を遂げているらしく、色々と便利らしいがユウヤがよく扱う得物でもないのでスルーしている。
一方、ユウヤの両手には探知機と通信機で埋まっているため武装関連のものの装備はない。しかし、それにマコトが指摘することもなく、辺りの警戒に務めている。
――結果、探索は1時間にも及んだ。最終的には元居たところに戻ってきて休憩を一息入れている。ユウヤは手ごろな氷の上に腰かけ、1つの端末を操作している。
「敵影はなし。全体の繋がりのマップは周囲3キロメートルでは危険は当分はなさそうではあるが……」
傍らで水分補給をしているマコトは先ほどまで自分たちが進んだ道を記してある、ユウヤが作った即席のマップを覗く。
そこには黒で描かれた通路と赤でバツ印やら三角やらが描きこまれている。
「バツと三角は何です?」
「三角が調査不十分でバツは警戒域」
「……警戒域? 危険とかなかった気が……、そもそもそんなの調べてましたっけ?」
「警戒域と言っても色々対象になるからな敵影、崩落、床抜け、電波障害、光の行き届き不良、他にもさまざまだ。特に目で確認くらいはしたが現状がまだつかめないからな。それに──」
最後の接続詞は自らが確認する程度であるためにマコトまで届かない。逆に、考えられる障害をつらつらと挙げていくユウヤに対し、マコトはへえと意外そうに呟いていた。
「じゃあ、区域調査とかもする感じです?」
「いや、そこまではしない、というよりできないな。今は遭難の身だし、一々調査に乗り出る余裕はないかな。軍に帰還できれば後々報告する必要は出てくるが、ここは安全面を重視する。取り敢えず、マップから一番安全で移動しやすいところを拠点にする」
そういってユウヤはマップを精査し、どこに身を置くかを決定する。マコトはそれを脇で見ながら、疑問に思った点は洗い出してユウヤとともに確認していく。
「よし、では移動だ」
拠点を決定したのち、荷物をまとめて立ち上がる。
マコトもそれに倣い移動の準備をし、現場の確認を再度行った後移動を開始した。
◇
「お疲れ様です」
「……おう」
目的の場所に到着し、野営の準備を整えたあとにユウヤとマコトは向かい合いながら飲み物を片手に乾杯する。中身は身近な氷を溶かして含まれる塩や塵を濾す等で除いた後で、レモン等で味を付けた簡易なものである。サバイバル訓練を受けたことのあるユウヤたちにとってはその場にあるものでも生き残るための手段を模索するのは日課となっている。当然、身の回りにある氷に有害物質が含まれていないかの調査も忘れてはいない。
「……悪いな」
「何がです?」
不意に、ユウヤが謝る。対してマコトは軽い様子で受け答えをする。しかし、ユウヤの表情は険しくなり、溜息を1つ溢す。
「……いや、俺がマコトを巻き込んだ形になってしまってな」
数日前に遭ったことに関してだ。丁度、遭難が確定した4日前であり、話の内容がそれであることはマコトはすぐに理解した。
けれど、マコトの方は苦笑いを向ける程度で、そんなことはないと話し、続ける。
「確かに最終的な判断は先輩に任せる感じで付いてきましたし、それで責任を負うことになるのは先輩になるのでしょうけど、別にそこに問題はないと思いますけどね。個人的には隊長、副隊長の方がもっとちゃんとやるべきだとも思ってますし。むしろ被害者でしょうに」
「まあ、そうは言ってもな」
マコトは全然気にしていないようではあるが、ユウヤにとってはそれが煮え切らない思いであることは確かだ。
あまり深く考えすぎるのも問題に思い、マコトは多少本線から話題を外したものに切り替える。
「それとも、食糧事情が危うい感じですか?」
「ん、それはまだ問題ないかな」
「携帯食料はあとどれくらい持つ感じですか?」
マコトの問に、ユウヤは首を傾げてどれくらい持つかどうかを頭の中で逆算する。
「……ん、2人でならそれほど危機的状況にはならないな。このまま2人で身体機能が落ちない程度に節約しながら行けば2、3ヵ月はもつ」
「……意外と食糧には困ってないっすね」
マコトは意外そうな顔をしていたがユウヤは何食わぬ顔で携帯食料が入った箱を取り出し、シャカシャカと振って見せる。結構な長期間でも問題ないような言い回しではあるが、その箱はそれに見合わず小さい。
「まあ、携帯食料だし。こんな小さい粒1個でも1日の栄養管理は可能だ」
「時代の進歩って本当に目覚ましいですよねえ」
「全くだ」とユウヤは応えると丁度手に持つ携帯食料を一粒取り出し、口に含む。それをマコトに差し出すと、マコトもそこから1つだけ取り出してユウヤに返した。
「世知辛いっすね」
「……我慢しろ」
マコトの文句は適当に聞き流しながらも、ユウヤはじっとマコトを見る。
「それで、話を戻すが」
「はい」
「ちょっと前にも話した通り、俺たちは隊長たちの捜索はしない。これは任務規定に従うものだ。更に、今回の任務は失敗とみなして動くものとする」
非情な選択であろう。同じ部隊に所属する仲間を呆気なく切り捨てようというのだ。軍を統制していくにあたってしまえば、リスクを犯す行為は愚鈍であろうし、ユウヤたちにも理解はできている。それが、本心から来るものかは置いておいて。
「で、これからどうするんです」
軍の事情がわかっているからこそ、隊員に関する質問をマコトは敢えて避ける。下手な追求も無意味に等しいからだ。
「まずはこの状況をどうにかせねばなるまい。周りに中四強国の中隊規模が複数潜伏している中、下手は打てない。今以上に上での行動は困難になる。最悪、
ユウヤは神妙な面持ちで断言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます