現実の裏の世界

「…」

目がさめると、まだ夜だった。

なぜか体が軽く、空が飛べる…のは普通におかしい。

そう思って足を見てみると、。つまり、幽霊みたいな状態。

そして、あたしがいるのはなぜかリンの部屋。リンはベッドで寝ていた。

ここで、ようやく時をさかのぼってることに気づいた。

すると、リンの部屋の片隅で、何かが動いた気がした。気のせいかと思ってリンの方を見ると、すでにリンは…ベッドの上にはいなかった。

「リン、リン!どこ!?」

リンはあたしの問いかけには答えなかった。

つまり、一瞬の間に忽然と姿を消した。でも、部屋の隅をちらっと見た間に家の外に出ることは不可能。

普通ならあり得ないけど…、とか言っても、もうすでにあたしは幽霊みたいな体になってるから普通じゃないことが起こっててもおかしくないんだけど。

リンの身に、ワープかなにかが起きたんだと思う。

今日攫われた人は沢山いたはず。

ほかでも同じことが起きてるかもしれないって思ったから、リンと同じ日に攫われたと思われるクラスメートの家を見に行った。



ヒントがあるとすれば、やっぱり部屋の隅で動いたものだと思う。もう一回隅を凝視してみると、人形が無造作に置かれていることに気がついた。

「え、あの人形…」

あたしの家にあるのと同じ、リンの顔をした人形。


その顔は、やっぱり恐怖に歪んでいた。

苦しそうな、

悲しそうな、

怯えているような、

そんな表情だった。

思わず人形に手を伸ばすと、その人形が意思のあるような目で見返して来た。

「何?リンなら今頃幸せになってるよ。ストレスがなーんにもないところで、のんびりしてれば時間だけが過ぎてく。そんな幸せな時間を奪わせるの?あんたって、サイテーだね」

更に人間のように毒づき、ペラペラと話し始めた。

「あたしが話せるのが不思議なんでしょ?無理もないよね、人形が話すなんてあり得ないもん。

あたしはね、鈴音の片割れとも言える存在なんだ。心の片隅にある負の感情で形作られてる。鈴音がいない今、あたしは鈴音そのものなの」

「リンが、この世界にいない…?」

あたしはリンの人形が言う一言に引っかかった。

「うん。死んだって言っても過言じゃないねー」

まるで、転んだから怪我をした、とでも言うような口調で淡々と言い放った。

「嘘だ!リンが死ぬなんてありえない…」

「嘘じゃないよ。こうしてあたしが話せたり動けるのが何よりの証拠だもん。それに、人が死ぬのは当たり前のことでしょ?何をそんなに…」

あたしは、この人形のことが許せなくて、思わず握り潰すように持ち上げた。

「何も分かってない!死んで生まれ変わっても、その人はその人じゃないんだよ…?同じ体も、性格も、声も、二度と得られない。それに…、リンはあたしの親友だもん」

人形は、諦めたような笑みを浮かべた。

「ふーん…、それが、あんたの、答えか。その答え、ちゃんと…覚えておくんだよ」

首辺りを掴んでいたせいもあって、人形は絶え絶えに言った。


その途端、あたりが光に包まれた。



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