空を舞うクラゲ.07


あの後、私達は同じルールで何度も勝負をした。私は1度シュートを決めただけで、後はボロボロに負けた。それでも、先生に見つかり怒られるまで何度も勝負をして、何度も負けた。ただどれだけ負けても不思議なことにストレスなんて微塵も感じなかった。本当に楽しかった。


クラスで整列する際、私達2人だけが息を切らし汗だくになっていた。呼吸を落ち着かせ、次第に汗が冷える。それと同時に少しだけ恥ずかしさがこみ上げる。私はその恥ずかしさから逃れるかのように椎名の顔を見た。こいつも今、同じ気持ちなのだろうか。椎名は私の視線に気づく。すると、ニカッと笑って「楽しかったね」と囁いた。


こいつ、こんないい顔で笑うんだ。

私はまた少し、恥ずかしくなった。


授業が終わり、男子はバスケットボールを入れたカゴと共に体育倉庫に帰って行く。私達は教室へ戻った。

少しの汗と多めの清涼剤の匂い。私はこの匂いが嫌いだ。この後もここで授業を受けるのに、甘ったるい香りが教室に蔓延する。やめてくれと思いつつ、私も使うのだが。


「海ちゃん今日元気だったね。」

着替えを終えた早紀がやって来た。

「バスケだしね。椎名が相手してくれたし。ボロ負けだったけどね。」

「椎名、やっぱり海ちゃんのこと好きなのかな…。」

私は思い出した。早紀に頼まれていたんだった。早紀を差し置いて椎名とバスケで熱くなったのは間違いだったのかもしれない。


なんで間違い?友達の好きな人と遊ぶことはいけない事なのだろうか。


そんなことが頭をよぎったが、それは言ってはいけない。それが普通なんだろう。

「絶対ないよ。暇してたんじゃない?」

「かなぁ。」

「大丈夫だよ。ちゃんと今日中に椎名に聞いとくね。もっと話せるように協力するし。」

「ホントに!?ありがとう!」

「任せなさい。はは。」

「頼りになるなー。」

そこでチャイムが鳴る。「入るよー?」と言う確認の声と共に廊下で待機していた男子が教室によそよそしく入ってくる。つくづく男子は大変だ。



午後の現代文の時間。

給食を食べた後の眠たい空気。先生も欠伸を隠しきれていない。私は適当に黒板の文字をノートに写すが、理解はしていない。窓の外から見える青い空がどこまでも続くようで、なぜか溜息が出る。青いなあ。


「幸せが逃げちゃうよ、海月さん。」


椎名がこちらを見ていた。

「うるさいな。こっちみんな。」

私は椎名を睨みながら小声で返す。

「海月さんこそ。この辺りは俺の領空だよ。」

椎名は小さく手を広げ、おどけて見せた。

「見るだけならいいだろ。」

「なら俺もじゃね?はは。」

「椎名はダメだ。あー眠い…。」

私はぐったりと前に倒れ、机に身体を預けた。

「さっきどこ行ってたの。」

「ん?気になる?」

「気になる。」


眠気のせいか、思っていることが素直に言葉になって出てくる。

「んー。そうだなぁ。」

「早く言えよ。」

「海月さんならいいかなぁ。はは、びっくりするよ?」

「お?なになに。」

椎名がポケットからゴソゴソと何かを取り出そうとしている。


「これ。」

チャリン、と1本の鍵を取り出した。

『屋上』と書かれている。


「は?」

私は身体を起こし椎名の方に向き直る。

「海月さん静かにね。これ、さっき職員室から持ってきた。はは。」

「お前…!」

「ストップウォッチが1個ないんですけど先生の机から取りに来ましたーって。その隙にちょろつとね。」


ストップウォッチ。私は咄嗟に『体育館倉庫3』と書かれたストップウォッチを椎名が所持していることを思い出した。


「おま、お前…!」

「海月さん。」


「今日2人で、屋上に忍び込んでみようか。」

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