カクヨムキタイして三次会(みじかい)O話たち
@nuneno
コリオリの恋
舞台は地球の引力圏から少ないコストで脱出できる今のところ宇宙エレベーターなどと称されている、ケーブルによって静止軌道までヒト・モノを運んでしまうシステムが実用化して間もない頃。
間もないと言っても、貨物輸送は商業的に成立し、観光目的に人を運ぶビジネスが始まったくらいの時代設定です。
静止軌道と言えば、地上から3万6000km弱となかなかの距離ですから現在、エレベーターと称されている部分にはイメージ的には豪華客船的なものが用意され、クルージング感覚で何日も旅行を楽しむ感じです。
この北半球に建設された客船的な巨大エレベーターに乗り遅れた場合、ロケットで追いかけるのではコスト的にも身体的にもきついので、もっと小さな貨物用の高速エレベーターで追いかけるサービスといってよいのでしょうか、そのようなフォローが用意されている設定です。
ある日のエレベーター旅行でも乗り遅れた何組かの客が貨物用高速エレベーターに乗り込みます。その中に仕事帰り直接に仲間の集まりに参加するための二十代の女性が一人。部屋の西側に座った彼女はなぜか、ある一人の男が気になってしょうがない。離れて座っているのに、なぜか、気になって、知らぬうちに、その男の方をみてしまうのだ。恋かもと考えた女性は意を決して話しかけるなら今だと。高速エレベーターが巨大エレベーターに追いついてしまった後では、人が多過ぎてお目にかかれなくなるかもしれない。
さて、回転すると生じるコリオリの力と言うものがありまして、地球の自転でも発生します。といっても日々、我々に働いているコリオリの力は生まれたときから受けているので
多くの人は今更感じることはないでしょう。でも、宇宙エレベーターと称されるような乗り物で低いところから高いところへの移動には東向きに力を感じてしまう恐れがあります。
もちろん、豪華客船的な巨大エレベーターでは、そういった不快になりかねない力を感じさせないシステムが備わっています。しかし、観光目的に人を運ぶビジネスが始まったばかりの頃のお話。乗り遅れた人のための小さな貨物用の高速エレベーターにはコリオリの力をキャンセルする設備が取り付けられていないばかりか、そういった現象が起こるかもしれませんの注意書きもないと推測される。
だから、コリオリの力をたまたま対面に座っていた男性への恋心と勘違いしてしまった……。
話しかけられた男はコリオリの力についての知識があったから女性に、この物理現象について先ず説明する。続けて、荷物運び用に過ぎないこの小さなエレベーターにはコリオリの力をキャンセルさせる装置が付いてないのでは、と推測を述べた。
そう聞かされた彼女は、なんだろう、そのようなことは黙っておいて、若い女性と楽しくおしゃべりというか楽しい時間を持てたかもしれないのに、しなかった男へ本当に好感を持ってしまう。でも、思い切って話しかけたにも関わらず、冷静にコリオリの力では、と説明されたことは、男が自分に全く興味がないとしか思えず、彼女から、これ以上は進めない心境になるのは致し方ないだろう。
さて、男の方は魅力的な女性に声をかけられて‥・・・・。いろいろ悩んだけど、今度は自分の方から話しかける。
少なくとも、自分には貴女(あなた)の方へコリオリの力は働いていないので
自分が気になるのは純粋な好意であると。
ほどなく、豪華客船エレベータに追いつきました。
(おしまい)
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