恨みつらみは栄養ドリンクでひと飲み!

ちびまるフォイ

しっかり管理された怨念供給工場

「うぅぅ……眠い……眠くて死にそうだ……」


午後15時を俺は悪魔の時間だと思っている。

覚せい剤をもしのぐほどの強い誘惑で睡魔が襲ってくる。


キーボードを打ち込んでいればたちまち頭はただの重しとなり

電車で立っていればヒザから崩れ落ちる。


「そんなに眠いなら仮眠すれば?」

「したよ!! 全然効果ないんだよ!!」


「栄養ドリンクでも飲んだら?」

「飲みすぎて医者から止められたわ!!!」


ネットで適当に探して見つかる程度の解決策では

もはや俺に襲い掛かる強烈な睡魔を押しとどめることはできない。


それでも気休めにでもなればと、

近くのコンビニで栄養ドリンクを買ってきた。


どうせきかないとわかっていても、

「だったら栄養ドリンク飲んで目を覚ませ」の忠告されるのがわずらわしかった


それだけだった。


「ん!? ふぉ、ふぉぉぉぉ!? なんじゃこりゃあああ!!!」


飲んだ瞬間にたちまち筋肉が膨れ上がり内側から服を破いた。

騒がしかったオフィスは一瞬で静まり返り、

その視線の先には突如出現した筋肉モリモリの全裸筋肉ダルマへと注がれた。


「い、いったいこれはなんだ……!?」


こうなった原因は間違いなく1つ。

さっき飲んだ栄養ドリンク『霊体Z』であることは明らか。


ついさっきまで頭を覆っていた睡魔は消し飛び、

体に感じていたけだるさは抜けていた。


「こんなに効果あるドリンクは初めてだ!!」


もう感動しかない。

俺は工場に連絡して箱単位で栄養ドリンクを注文した。


工場に出荷連絡する際に、すっかりドリンクのファンになった俺は聞いてみた。


「このドリンクは何がほかのと違うんですか?

 今までいろいろドリンクは飲んでましたけど、

 この栄養ドリンクほど強烈な効能があるものははじめてです!」


「ええ、実はこのドリンクには幽霊を使っています」


「はい!?」


「この世に強い未練と執念と純情な感情を持って死んだ幽霊ですから

 それこそ、生きている人間よりも生命力は強いわけです。

 それをドリンクに溶け込ませることでエネルギーがもらえるんです」


「それって……飲んで大丈夫なんですか?

 飲んでも憑依とかされませんか?」


「大丈夫ですよ。幽霊は炭酸に溶けるんです」

「そうなの!?」


でも、効能を聞いて少し納得した。


怒っている時や悔しいときは眠気なんて感じない。

それだけ負の感情には強いエネルギー原動力があるのだろう。


負の感情の純粋決勝みたいな怨霊を飲むのだから効果はてきめんだろう。


除霊もできて一石二鳥だ。


「いやぁ、佐藤君。最近頑張ってるみたいだね」


「はい!! 最近はなんだか力が有り余ってしまって!

 もっと仕事ください! バリバリこなしますよ!!」


「頼もしい! 給料アップだ!」

「ありがとうございます!」


霊体Zのおかげで24時間フルタイムで最高のパフォーマンスを維持できるようになった。

もう二度と手放すものか。


と、思った矢先。

俺の家に霊体Zの箱が届かなくなった。


「あの! 今月分の霊体Zが来てませんけど!? 注文しましたよね!?」


「ええ、実は供給が間に合わなくなっているんですよ」

「なんですって!?」


「怨念のこもった幽霊なんてそう現れるものじゃないでしょう。

 いろいろ探してみたけれど、幽霊が決定的に足りないんですよ」


「なん……だと……!?」


「しばらくは供給ストップします。

 今は心霊スポットで取ってきた怨念を使って

 ほそぼそと販売させてもらいます」


それは俺にとっての死刑宣告に等しかった。


最近では有名な心霊スポットで怪奇現象がめっきり減ったり

幽霊特番でも心霊写真が出なくなったのは、霊体Zによるものだろう。


とはいえ、数秒で飲み終わるドリンクと怨念。


自殺大国などと呼ばれていてもそんな簡単に幽霊になれるわけじゃない。

まして強い怨念など希少価値は高い。


「はぁ……もう飲めないのか……残念だ……」


いっそ誰かを殺してでも、と思ったけれど

そんなことすれば元も子もない。

怨念を得るために人生終わったら意味がない。


さまざまな霊体Zの復刻方法を考えあぐねてみたけれど、

どうしても思いつかないまま最後の1本を飲み終わった。



しばらくすると、宅配便が届いた。


「おまたせしましたーー。霊体Zの1ヶ月分です」


「えっ!? 復活したの!?」


以前のように箱詰めされた霊体Zが送られてきた。

あれだけ方法を考えても思いつかなかったのに。


「長い間お待たせしてすみません。

 これからは安定供給できるようになったのでもう大丈夫ですよ」


「それはよかった……ってそうじゃなくて!

 いったい、どうやって怨念を集めたんですか!?」


「工場の場所を移動したんですよ」

「は?」



「食肉加工工場の隣に、霊体Zの工場を移動したんです。

 毎日、ものすごい数の人間への怨念が集まるんですよ」

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