復唱の章 第2話 重出

鑑連

「では、ここでワシを斬るかね」

種実

「なに」

鑑連

「ワシとこの下郎二人、貴様らは四人。千載一遇の好機だぞ。ワシが消えれば、筑前を切り取り次第できるかもしれん」

種実

「いいや、斬らない」

鑑連

「ほう、理由を言ってみろ」

種実

「ここは戦……」

戸次武士

「……」

鑑連

「なんだ。聞こえんぞ」

種実

「いや、その」

鑑連

「?」

種実

「や、やはり」

鑑連

「やはり?なんだ」

種実

「者共戸次を斬る!かかれ!」

鑑連

「遅いわ!」

秋月武士

「ぐわっ」

秋月武士

「ぐわっ」

秋月武士

「ぐわっ」

鑑連

「クックックッ!好都合だ!ワシの鉄扇をくらえ!」

種実

「ぎゃあ!」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の脳みそか!クックックッ!」



種実

「うおっ!」

秋月武士

「と、殿?」

種実

「……あ、あれ?ここは……」

秋月武士

「はい。櫛田神社はもうすぐです」

種実

「う、嘘」

秋月武士

「間違いありません。この町の事は、殿が熟知されている通りと思いますが……」

種実

「……」

秋月武士

「……」

種実

「そ、そうだな。うん。で、島井は来てるかな」



鑑連

「ほう、理由を言ってみろ」

種実

「ええと」

鑑連

「?」

種実

「あーその 、なんだ。戸次伯耆守鑑連が消えるということは、佐嘉勢を押し止める者もまた消えるということだから……だ」

鑑連

「クックックッ!ワシについてその程度の価値は認めているわけか」

種実

「……」

鑑連

「クックックッ、クックックッ」

種実

「……」

鑑連

「ワシを低くみおって、許さん」

種実

「げっ」

鑑連

「殺してやる」

秋月武士

「ぐわっ」

種実

「戸次伯耆守は鉄の扇で人を殴殺すると聞く!」

鑑連

「下郎どもなど素手で十分だ」

秋月武士

「ぐわっ」

秋月武士

「ぐわっ」

種実

「ま、まて」

鑑連

「命乞いか。大したことのないガキめ」

種実

「ガ、ガキだと?」

鑑連

「おっ、やる気かね」

種実

「さすがに許せ、ぎゃあ!」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の臓物か!クックックッ!」



種実

「うぐっ!」

秋月武士

「と、殿!」

種実

「……」

秋月武士

「な、何か異変でも」

種実

「ここは……櫛田神社近く」

秋月武士

「はい。約束の場所はもうすぐです」

種実

「……」

秋月武士

「殿。お加減でも……」

種実

「……いや、さっきから妙な気分というか」

秋月武士

「……は」

種実

「見覚えのある風景というか、かつて通った感じの道というか」

秋月武士

「さすがは殿。あの戸次鑑連を出し抜くには、博多で情報を仕入れるのが一番ですからな」

種実

「い、いやそういうのとも違くて……」

秋月武士

「?」

種実

「……いや、なんでもない。あのあばら家だったな」

秋月武士

「はい。よくご存じで」

種実

「……」



種実

「ま、まて」

鑑連

「命乞いか。大したことのないガキめ」

種実

「ガ、ガキ……いやいや。私を斬って、いや、斬ったとしよう」

鑑連

「しようではない。斬るのだ」

種実

「斬っ……いや斬った後、どう佐嘉勢とやりあうのだ?」

鑑連

「龍造寺?関係ないだろうが」

種実

「大いにある。佐嘉勢と結んだ和睦は必ず破綻するぞ……えっ」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「薄汚い口を閉じろ、下らんガキめが。だとしても貴様には関係ない」

種実

「ぐはっ」

秋月武士

「と、殿!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の心臓か!クックックッ!」



種実

「うわっ!」

秋月武士

「殿?」

種実

「はあはあ……」

秋月武士

「い、いかがなされましたか」

種実

「ここは……櫛田神社近くだったな」

秋月武士

「?」

種実

「そうだろう?」

秋月武士

「あっはい。約束の場所は近くです」



種実

「私を斬って、いや、斬ったとしよう」

鑑連

「しようではない。斬るのだ」

種実

「斬った後……えっ?」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「もう斬った」

種実

「ぐはっ」

秋月武士

「と、殿!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の心臓か!クックックッ!」



種実

「うがっ!」

秋月武士

「殿?」

種実

「はあはあ……」



鑑連

「しようではない。斬るのだ」

種実

「斬っ、斬っ、斬っ、き、き、き、き……えっ!」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「なんだコイツ。猿の啼き声をするようなヤツだったとはな」

種実

「さ、猿……ぐはっ」

秋月武士

「と、殿!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の心臓か!クックックッ!」



種実

「うぐっ!速すぎる!」

秋月武士

「と、殿?到着が、ですか?」

種実

「はあはあ……い、いや」



鑑連

「しようではない。斬るのだ」

種実

「……」

秋月武士

「……」

戸次武士

「……」

鑑連

「というわけだ」

種実

「……えっ!」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「沈黙寡言はすなわち観念、ということだな」

種実

「……ぐはっ」

秋月武士

「と、殿!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の心臓か!クックックッ!」



種実

「無言の行でもだめか!」

秋月武士

「と、殿?」

種実

「はあはあ……お、おい」

秋月武士

「はい」

種実

「仮に、私が戸次鑑連に倒されたとして、だ」

秋月武士

「殿、滅多なことは……」

種実

「仮にだ。その場合、戸次鑑連に不利益があるとしたら、それはなんだと思う?」

秋月武士

「……無い、と思いますが」

種実

「……」

秋月武士

「……」

種実

「そうだよなあ」



種実

「私を斬って、恥ずかしくなのか!ここは戦場ではない!」

鑑連

「恥ずかしくない」

種実

「えっ?」

戸次武士

「うわっ!」

鑑連

「ここはワシの支配地。迂闊な貴様の愚かさを嗤ってやろう!」

種実

「ぐはっ」

秋月武士

「と、殿!」

鑑連

「クックックッ!これが秋月次男坊の心臓か!クックックッ!」



種実

「ふうぅ!」

秋月武士

「と、殿?」

種実

「しまった。さては詰んだかな……」

秋月武士

「?」

種実

「今日はこのまま引き上げよう」

秋月武士

「えっ!島井が情報を持ってくるはずですが」

種実

「今日は日が悪い。また後日にしよう」

秋月武士

「……」

種実

「いいから帰るぞ!」

秋月武士

「は、ははっ!」

種実

「急ぎ引き上げる」

秋月武士

「承知しまし、ぎゃあ!」

種実

「うおっ!」

鑑連

「おや。誰かと思えば……貴様は秋月種実。クックックッ!内田、貴様の得た情報の通りだぞ!」

戸次武士

「はっ!秋月一党を皆殺しにせよ!かかれ!」

種実

「ば、ばかな!」

秋月武士

「殿!お逃げください!」

戸次武士

「戦乱の元凶を逃がすな!」

種実

「こ、こんなところで終わってたまるか!あぐっ!」

秋月武士

「殿!」

種実

「た、短筒……」

鑑連

「止めだ」



種実

「に、逃げてもダメか」

秋月武士

「と、殿?」

種実

「はあはあ……お、おい」

秋月武士

「は、はい」

種実

「島井と会う件について、戸次鑑連に漏れている恐れは?」

秋月武士

「いえ、考えられません。島井本人としか話を進めていない以上」

種実

「島井が我らを裏切っている恐れは?」

秋月武士

「と、特別な報告はありませんが……ご懸念が?」

種実

「歩みを止めるな」

秋月武士

「は、はっ」

種実

「このまま予定通りの地に向かいつつ考えるのだ。我らが消え失せた後、何が戸次鑑連にとっての憂いとなるかを」

秋月武士

「はあ……」

種実

「……」

秋月武士

「く、櫛田宮はもうすぐです」

種実

「島井が指定した場所か」

秋月武士

「左様です」

種実

「ここの由来は確か……肥前にあったような」

秋月武士

「はい。上古の頃に肥前から勧進したというような話だったはずです」

種実

「深い考えは無いだろうが、場所からして露骨だな。島井のヤツめ」

秋月武士

「し、島井が豊後勢に疑われている、ということでしょうか」

種実

「……のような気がする」

秋月武士

「今回は流しますか」

種実

「だが、戸次鑑連を憎む島井から情報を得たいのも確かだし……」

秋月武士

「場所を変更しますか」

種実

「それもいいが、社付近が一番目立たない」

秋月武士

「櫛田宮の南に住吉宮が」

種実

「ううん。どうしたものか。あっ」

秋月武士

「櫛田宮に着き……ました」

種実

「……」

秋月武士

「……」

種実

「いや、何となく逃げられない気がする。このまま行こう」

秋月武士

「に、逃げられない?」

種実

「そう言えば」

秋月武士

「はっ」

種実

「この町に宗像宮はあったか?」

秋月武士

「いえ、ございません」

種実

「そうだ、無かった。博多の連中ども、あれほど奉納しているのにな」

秋月武士

「いずれも海をお祭りしていますし、確かに不思議な気もします。総本宮が近いから、社をこしらえる必要が無かったのでしょうか」

種実

「そうかもしれん。近いと気が付かないこともある、ということか。戸次鑑連も、宗像大宮司と蜜月のようではあるが、考えてみれば我らが消え失せた後、戸次と宗像は抗争を始める、ということも大いにあるということだ」

秋月武士

「そもそも和睦の為の縁組、すなわち争いを防ぐための縁組、という見方もあるのでしょうな」

種実

「よし、この危機、それで乗り切るぞ」

秋月武士

「?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る