研究所
-Cloe.
小さな街の中心に一際目立つ時計塔。そこに彼女たちは住んでいた。
その時計塔を中心に、街の地下には研究所が広がっている。
外の世界と繋がりを絶たれた孤独な世界。
一人の好奇心から起きた彼女たちを研究するための研究所。
そして、私の新しい居場所。
***
「本日からお世話になります、
「こちらこそよろしく~」
「…あ、あの」
「ん?」
猫背でケラケラと笑いながら歓迎してくれた研究員さんは、私の上司になる人。
同じ日本出身という
伸びきった前髪とメガネで目を隠して、表情がよく見えないけど、物腰の柔らかそうな人で少し緊張が解れた。
「とりあえずはこの後、ヴァイスさんに挨拶しに行って、簡単に研究所内の案内して…今日は終わりかな?」
「よろしくお願いします!」
"ヴァイスさん"はこの研究所の設計・建設を手掛けた最高責任者。
綾芽さんや私、他の研究員さんを招待して、この研究所を成功へ導いた人。
…らしい。
簡単に説明を受けながら、地下一階の一番奥、他の部屋と比べると明らかに豪華な作りをしている大きな扉の前に到着した。
ゆっくりと重たく開いた扉の先、長い髪を垂らしてソファで寛ぐ人物が迎え入れてくれる。
「やぁ、いらっしゃい。歓迎するよ、久條くん」
この人が、ヴァイス・ハイブラヴ。
お茶を啜りながら優しく微笑む見た目とは裏腹に、赤みの深い綺麗な金色の瞳が、どこか冷たい雰囲気を放っている。
横目で見た綾芽さんからはさっきのケラケラとした笑顔がスッと消えた。
「そんなに緊張しないでよ、…ところで、久條くんは未成年?」
「23歳です!」
「ごめんごめん、ちゃんと調査済みだから揶揄っただけだよ、それにしても威勢がいいね……ふふっ」
即答がツボにはまったのか、顔を背けてクスクスと笑いだした。
低身長で幼く見えるのはコンプレックスなんだから、あまり触れられたくないのに…
「…さて、本題に入ろうか。此処のルールは綾芽くんから説明貰ってるよね?」
「あ、はい、ここに来る途中で一通り…」
「なら良かった。いったん、ペアは綾芽くんにお願いしてるから、よろしくね」
───研究所でのルール。
ひとつ、地上との関わりは最小限に抑えること。
基本的に地下だけでも十分に生活が出来るけれど、買い出しなどで地上に上がる必要がある場合はヴァイスさんの許可が必要になる。
ふたつ、いずれかの隊に所属していること。
この研究所には約700名が生活しており、それぞれの用途に合わせて、"化学隊"・"生物隊"・"実験隊"のいずれかに配属されている。
"化学隊"では生活を便利にするための化学に関する実験を、"生物隊"では自然・生物に関する実験を、"実験隊"では生物隊と協力した実験される側の存在が所属している。
みっつ、決められたペアと行動を共にすること。
広い研究所に対して研究員の数は少なく、さらに似たような景色が広がっているため、頻繁に迷子が発生する。そのため、研究員の迷子防止・別の隊との情報共有のため、異なる隊とのペア制度が導入されている。
「──ちゃんと説明してくれてるみたいだね、うんうん。じゃあ本題に入ろう」
私がここに来た理由。
生物部隊として、本来ペアとなる相手、
それがクロエ。
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