第2話

「どうした、ほら。これあげるから、友達のところ行ってきなよ」

 かわいそうに思って、増田はその子にたっぷりアメ玉をあげようとした。ところが、残っていたのはたったの三つだけだった。

 しまった、これじゃ足りなかったなと思ったが、キツネのお面の子はうれしそうにうなずいて、神社の奥の方へと走って行った。


「どうしたんだ?」

「いや、今変わったお面をつけた子供がいてさ」

「ふうん、古い家の子かな。昔はみんなもっと古風なお面をつけさせられてたんだけどさ、最近じゃどいつもアニメとか仮面ライダーとかそんなんばっかりだ」

 今でも伝統を重んじる旧家では、子供に古めいたお面をつけさせるのだそうだ。あの子がひとりぼっちだったのも、そういう事情があったのかもしれない。

「そんなことよりさ、もうすぐ抽選会があるんだ。抽選券、持ってるだろ?」

 増田は、さっきやきそばを買ったときにもらった紙切れを見た。「30」と太いマジックで書かれていた。

「賞品がさ、毎年むちゃくちゃ豪華なんだ。もしかしたら当たるかもしれないし、行ってみようぜ」

 抽選の発表をする本部テントの前には、すでに人だかりができていた。ばっつんとスピーカーのスイッチがはいり、マイクの前に禿げた男が立った。実行委員長だという。

『えー、それではー、皆さまお待ちかねー、お楽しみ抽選会を開始いたしますー』

 ぱちぱちと拍手が響いた。委員長がどうもどうもと手を上げた。

 賞品は次々と発表された。電動マッサージ機やら掃除機やら、もらえればうれしいものばかりだった。

 集まった人数を考えれば、到底当たるとは思えなかったが。

『えー、続いてー、三等賞―。人気ゲーム「マスカレイドパラダイス」とゲーム機のセットですがー』

 実行委員長はそこでちらりと自分の持っている券を見た。

『残念! 30番の方―。これは私がもらいたかったー、くやしいー!』

 会場がどっと笑った。

 当たった。

 なんと当たってしまった。増田は照れながら前に出て、賞品を受け取った。

「やったじゃんか」

「な、なんかラッキーだな……」

 流行りの携帯ゲーム機と、ソフトを一本。普段ゲームなどしないから分からないが、二万円はするのではないだろうか。

「こんな高いもの、よそ者の僕がいいのかな」

「毎年賞品がやたら豪華でな。海外旅行も出たことがあるんだ。今年の一等はなんなんだろうな」

 会場が再びわっとわいた。

 振り返ると、一等賞品の巨大な米だわら三俵が当たった女子高生が、友人達ときゃあきゃあ言っているところだった。




*** *** *** ***



 増田は四番目のボスで行き詰った。

 どうしても勝てない。

 せっかくもらったのだから、できればクリアしてみたい、とマスカレイドパラダイスというその変ちくな名前のゲームを始めたはいいものの、ゲーム慣れしていないせいか、増田はさっぱり進めなくなった。

 マスカレイドパラダイスは、ゲームシリーズ「マスカレイドマーチ」の六本目、ということだった。あの人気アクションRPGがついに携帯ゲーム機に登場! というCMを、増田も何度かテレビで見た覚えがある。

『あなたは しにました』

 見飽きたゲームオーバー画面を見ながら、増田はマンションの自室のソファの上で、ごろんと転がった。

 ゲームの世界の王様に世界を救えと言われてから、一体何回この画面を見たことだろう。

 難しいのも当然だ。このゲームは、携帯ゲームならではの通信機能を使って、他のプレイヤーと一緒に戦うのがセオリーなのだ。難易度も、二人~四人で遊んだときに、ちょうど良くなるように調整されている。

 増田はふとパッケージの裏を見た。そこには大きな文字でこう書いてある。

「仲間と一緒に冒険に行こう!」

 やはり、一人では無理なような気がした。



*** *** *** ***


 会社帰りに、増田は携帯ゲーム機を持って駅前に来ていた。

 思わずおお、とうなった。

 駅前には、何人もの携帯ゲーム機をのぞいている人々がいた。若い学生が多かったが、女の子もいれば、自分と同じようなサラリーマンもいる。

 増田がここに来たのは、とあるニュースを見たからだった。

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