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たはしかよきあし
第1話
ミオは、あの子ではなかった。
いや、あの子じゃなかったのが問題なのではない。結局ミオが誰だったのか、分からずじまいだったこと、もう、ミオと二度と会えないと思うことが悲しかった。
ミオは、画面の中で、ショウタに背中を向けていた。
「ミオ、どこにいるんだ。隠れてないで、出てきてくれよ」
あわててチャットを入れた。
しかしミオは、ただ、ひとつだけ手を振って、そしてすっと消え入るように画面の奥へと去っていった。
呆然として、ゲーム機を閉じた。
そのときになって、ようやく気付いた。
ここは、あの祭りがあった、神社の前じゃないか。
*** *** *** ***
居間でぼんやりテレビを見ていると電話が鳴った。学生時代に仲の良かった
「なあ増田、祭りに行かないか?」
聞けば、今日は近くの神社で縁日があるのだという。
「お前、最近こっちに越してきたばかりだったろ。面白い祭りなんだ。行こうぜ」
そういえばもう何年も、お祭りなんていってないな、と増田は思った。子供のころは、夏のたびに楽しみにしていたというのに。りんごあめなんて、今でも売っているのだろうか。
「いいよ、分かった。いつ落ち合おうか」
三十分後に、鳥居の前で。神社まではあるいても十分とかからないはずだ。増田はテレビを消して、準備をしようと立ち上がった。
「そうだ、来る前にどっかでアメ買ってきたほうがいいぞ」
電話を切る間際、池端はそんなことを言っていた。アメなんて、どうするのだろうか。
神社は、少し小高い丘の上にあった。このところはエレベーターばかり使っていたせいで、曲がりくねった石階段を登るだけで、増田はぜいぜい言った。
池端はゆかた姿に雪駄といういでたちだった。ジーンズにTシャツを着ただけの増田は、自分ももう少しそれらしい格好をしてくれば良かったかなと後悔した。
池端の右手にも、コンビニ袋がぶら下がっていた。純和風な見た目の中で、そこだけ妙に浮いている。
「買ってきたはいいけどさ、どうするんだこれ」
同じく右手に持った袋を指して、増田が聞くと、
「行ってみればわかるって」
池端はにっと笑って答えた。
鳥居の向こうはまるで昔に戻ったような光景だった。
広い境内に、ずらりと出店が並んでいる。たこやきに、やきそば、それにりんごあめの屋台。笛の音と、太鼓の音が胸を揺らす。奥の社では、杯をかたむける老人達の姿が見えた。
ぼんやり輝く提灯の明かりの下で、たくさんの人が祭りを楽しんでいた。若い恋人達や、家族連れが多く見受けられる。ゆかたを着て、金魚すくいに興じる子供もいた。やはり、増田たちのように男二人は珍妙なとり合わせだった。知り合いの女の子でも誘えば良かったかな、と池端が言った。
「町内のやつらががんばっててさ、けっこう力が入ってるんだよ」
なるほど、確かに。いわゆる屋台の他にも、簡易テントで店をやっているところもあった。宮下町内会と書かれたテントの中では、年さまざまな男たちが、汗を流しながら慣れない手つきでやきそばを焼いたりしていた。
へえ、と増田が感心していると、二人のところに三人の子供がやってきた。
小さなゆかたに、三人が三人とも子供向けアニメのお面で顔をおおっている。
三人はそれぞれ両手をさし出して、元気に言った。
「おにーさん、おかしをちょうだいな!」
おどろいた。見ず知らずの子供に、いきなりそんなことを言われるとは思ってもみなかったのだ。ぎょっとする増田をよそに、池端はコンビニ袋の中からアメ玉を一握り取り出して三人の手に乗せた。子供達は「ありがとう!」と口々に言って去っていった。
「なんだよ今のは」
「おもしろいだろ。お面をつけた子供にはさ、お菓子を上げることになってんだよ」
この祭りの古くからの風習なのだという。池端も、小さいころはお面をつけて走り回ったものだと言った。
「俺が子供のころに一度、PTAかなんかが危ないからやめさせろって言ってきたことがあったんだが、その時はみんなで反対したっけなあ。年に一度の稼ぎ時だろ?」
池端はしみじみとしていた。昨今、子供が巻き込まれる事件が増えたからだという。しかし、それでも今まで問題もなくこの風習は続いているのは、この地域の住民の人柄の良さがなせるわざだろう。
「なんだか、ハロウィンみたいだな」
「地元じゃ、宮下ハロウィンなんて言われてるよ」
子供たちは増田たちの顔を見るなり、どいつもこいつも突撃するように寄ってきてはお菓子をねだった。増田は、なんとなくほほえましくなって、持ってきたアメを渡してあげた。
もちろん子供達の標的は増田たちだけではないようで、お面をつけた子供達は、皆忙しく走り回っていた。会場のすみでは、お互いの戦利品を山分けしあう子供達の姿も見られた。
子供達は大抵、二~三人の徒党を組んでいた。その方が戦果が上がるのだろう。でも中には一人きりの子供もいた。増田が見たその子は、キツネのお面をつけて、もの欲しそうに増田たちのことをちらちら見ていた。その子はお菓子を一つも持っていないようだった。
ひっこみ思案な子なのだろう、と増田は思った。
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