第63話
「アンデッドはここの辺りからここまでに多く出るという情報があります」
俺達は今、受付嬢のシエルが出してきたルマルタ近郊の地図を見ながら、作戦を立てている最中だ。
「あら?確かこの辺りは・・・」
アンデッドが出現する付近の話をしていると、カリーナが何かに気が付いて、声を漏らした。
「カリーナ様、ここ辺りに何かあるのですか?」
「確か・・・わたくしの家の古い屋敷があったと思いますわ。数年前からある男性に貸していると記憶してますが」
「ある男性?」
「ええ。・・・アランさんという方ですわ」
カリーナは男の名前を言う時、少し言い淀んだような気がした。
(うーん、そのアランって奴が怪しそうだな)
「そのアランさんは無事なんでしょうか?アンデッドの群れの中にいるってことですよね?」
俺はそのアランという男が怪しいと考えたのに対して、ソフィアはアランの心配をしていた。
(ま、ソフィアらしいって言えばソフィアらしいか)
人の命や無事を第一に考える。助けるためになら全力で頑張る。俺が昔に無くしたものをソフィアは持っている。
「そう、ですわね。出来るだけ早く助けたいですわね」
「でもどうやって助けるの?アンデッドを正面から倒してくの?」
ココナが作戦らしくない作戦を言う。
「いえ、それは危険過ぎます。数が多い所に攻め入っても、囲まれるのが落ちです」
確かにシエルの言う通りだ。それに相手はアンデッドだけでなく、魔獣もいるのだ。
地の利がある相手に突出した戦いは避けるべきだ。
(・・・・・・いや、ソフィアがディケイルから教わった光属性の上級攻撃魔法。あれなら囲まれても何とかなるか)
俺がそんなことを考えていると。
「・・・ここ、川ですか?」
ミレイが森の中にある青い線を指差した。
「そうですわ。屋敷の近くに川が流れていますの」
「・・・・・・一時的に森を凍らせても大丈夫・・・ですか?」
『・・・はい?』
ミレイの言葉に皆は疑問符を浮かべるのだった。
☆ ☆ ☆
それからも作戦会議は続き、ミレイが森を凍らせて、その隙に一気に片付けるという大掛かりな作戦き決定してしまった。
この作戦にはソフィア達だけでなく、ルマルタのレジスタンスも一緒に戦うことになる。
理由は森が広く、ソフィア達だけでは手が足りないからだ。
アンデッドを討伐出来なくても、普通の魔獣を減らしてくれるだけでも、かなり助かるのだ。
そして昼過ぎ、ルマルタ側の森に面した場所にレジスタンスのメンバーが配置に着く。
俺やソフィア達も例の川へと、森と海の境を移動している。今回は俺達の他にも何人かレジスタンスのメンバーが付いてきてくれている。
「ミレイさん、本当に森を凍らすなんて出来るんですか?」
「・・・水があれば、出来ます」
静かな声でミレイは力強く答える。
そして、歩いていると、海に流れる川を発見する。川の水は少し濁っているように見える。これもアンデッドが関係しているのか?
「ここですわ」
カリーナがそう言うと、ミレイは静かに川の方へと歩いていく。
「・・・・・・・お願いね。グラシア」
ミレイが呟くと、ミレイから莫大な魔力が溢れだした。それはミレイの持つ杖の水晶から放たれているようにも見えた。
「契約・・・基づき・・・全てを鎖す・・・氷結の・・・棺・・・」
詠唱を唱えるミレイ。普通なら詠唱を使わないで魔法を発動出来るのに詠唱をする。
理由としてはイメージをしやすくするためだと思うが、普通の魔法と何かが違う。
「・・・鎖せ、『氷精の息吹き』」
ミレイが唱え終わると、川から冷気が物凄い勢いで森を走り抜けて行った。
途端に、冷気が触れた場所は白く凍てついていく。それは木々だけでなく、鳥や虫も、魔獣やアンデッドも凍てついていった。
「今のは・・・」
ソフィア達全員がこの光景に驚いている。
(今のはまさか、精霊喚起魔法・・・なのか?あの古代魔法と呼ばれる1つの)
精霊喚起魔法とは、今は無き精霊と呼ばれる存在に力を借りる魔法と伝えられている。魔力を精霊という存在に与え、精霊という大きな自然そのものの力を行使する魔法だったはず。俺も初めて見たが、間違いは無いだろう。
そして、数秒という短い時間で森は氷で鎖されてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
流石のミレイもこれだけ大きな事象を起こしたから、かなり疲弊しているようだ。
「皆さん・・・行って、下さい」
「ソフィア、行きますわよ」
「はい!」
「ココナも行くよ!!」
俺もソフィアの肩に乗って、臨戦体制を取る。
ミレイが作ってくれた大きな好機。これを逃すわけにはいかない。
疲弊しているミレイをレジスタンスのメンバーに預け、俺達は凍ったアンデッドや魔獣を倒しながら、カリーナの案内で屋敷がある方へと駆け抜けていった。
☆ ☆ ☆
「皆さん!今です!!」
『うおおぉぉぉぉ!!!!』
ルマルタ方面に面した森付近では、雄叫びを上げながら攻め立てるレジスタンス達の姿があった。
指揮をしているのは受付嬢のシエルだ。
シエルは森が凍ったことを確認すると、攻めるように指揮を飛ばしたのだ。
「シエルさん!凍っていないアンデッドが来ます!」
「足を切断して遠くへ飛ばして下さい。そうすれば時間を稼げます」
「大型魔獣の氷が溶けました!」
「遠距離で牽制しながら戦って下さい。あまり突っ込み過ぎないように注意を」
シエルは出来る限りの指示を飛ばす。
「シエルさん!アンデッドが多過ぎるぞ!!」
「でしたらこれを使ってください」
シエルはタリスマンと呼ばれる護符の魔法具を渡す。
「1度切りですが、発動すれば数秒間は光属性を付与出来ます」
「おう!わかったぜ!」
タリスマンはココナが持つブレスレットの魔法具の護符バージョンだ。
今回は魔力を多量に持つソフィアに光属性だけを、レジスタンス支部にあったタリスマンに入れて貰ったのだ。
これを使えば数に限りはあるが、ソフィアやカリーナ以外でもアンデッドを倒すことができる。
「皆さんもアンデッドに押されそうになったらタリスマンを使ってください!」
戦闘が始まってから順調に魔獣を倒し、アンデッドも処理を出来ている。
このままいけば、今回のアンデッド掃討戦は問題なく終わるはずだ。
「なっ!?だ、大丈夫か!?」
「し、死んでるぞ!」
「お、おい!そこの奴っ!!何しやがった!!」
突然森の奥からレジスタンスメンバーがざわつき始めた。
「・・・何か騒がしいですね」
シエルはざわつく方に視線を向ける。
「・・・・・・っ!?」
シエルが見たモノは大の男の胸を素手で貫き、心臓を手にしている黒い影を纏った人の姿だった。
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