第53話

 見事に準決勝を勝ち抜いたソフィアは、対戦相手のミレイにヒーリングを掛けた後、観客席に向かった。


 理由は決勝の相手を見るためだ。


 俺も見やすいようにソフィアの肩に乗ってアリーナを見下ろしている。


 戦うのは主席のアレイン・クリフォードとカルヴィン・ルノアという男子生徒だ。


「アレイン!今回は勝たせてもらうぞ!!」


 カルヴィンはクリフォードを指差して大声で叫んだ。

 この言い方だと、どうやら2人は戦ったことがあるようだ。


 クリフォードはカルヴィンの言葉に対して、何も反応しない。


「おい!聞いてるのか!!」

「・・・・・・・・」


 どうやらカルヴィンが一方的に騒いでるだけで、クリフォードは少し鬱陶しいそうな顔をしている。


「それにしてもあのルノアさんって人、凄い大きな声だね」


 確かにソフィアの言う通り、カルヴィンの声は観客席にいてもはっきりと聞こえるぐらい大きい。


 あ、カルヴィンが煩くて審判に注意されてる。


「準決勝第2試合・・・開始!」


 そして、お互いが定位置に付いて、試合開始の声が掛かった。


「おらぁ!!ファイアボールだ!!」


 カルヴィンはクリフォードの方に走りながら、ファイアボールを放った。


 俺はクリフォードなら風の魔法で吹き飛ばすのだと思っていたのだが、予想外に横に逸れて避けた。


 避けた先にカルヴィンが大きな拳を繰り出す。が、これもクリフォードはギリギリのところで回避して、刃の潰れた剣でカルヴィンの横腹を斬り付けた。


「ぐっ」


 カルヴィンは打たれた場所を押さえつつ、後方に下がる。

 俺はクリフォードがそのまま追撃をするものかと思ったのだが、クリフォードもカルヴィンから距離を取るように下がった。


 次の瞬間、カルヴィンの目の前に地面が爆発し、火柱が立ち上った。


(なるほど。ヴォルケーノか)


 ヴォルケーノは火属性中級魔法の1つだ。ある程度地面下に魔力制御で魔力を貯める必要があるため、出は遅いが威力はあるのだ。


 カルヴィンは誘うためにわざと打たれ下がったんだろう。

 先程のクリフォードの剣にもギリギリで、自身に物理障壁を張っていたしな。


「トルネード!」


 距離を取ったクリフォードは火柱を巻き込むようにトルネードで竜巻を発生させた。


 竜巻は火柱を巻き込んで、炎の竜巻となり、カルヴィンに向けて動き出す。


 カルヴィンはあろうことか、その炎の竜巻に突っ込んで行く。


「おりゃあぁぁぁ!!」


 そして、多少傷付きながらも炎の竜巻を突破して、一気にクリフォード目掛けて拳を繰り出す。


 クリフォードは魔力制御で次の魔法の準備をしていたが、それを中断してカルヴィンを迎え撃つ。


 2人のぶつかり合いは、時間が経つに連れ、激しくなっていく。

 速度ではクリフォード、一撃の重さならカルヴィンに分があるが、現状ほぼ互角だ。


 そして2人は剣と拳を繰り出すのと並列して、エアロショットやファイアボール等の初級魔法も織り混ぜるようになってきた。


「エアロブラスト!」「ファイアブラスト!」


 ファイアブラストは目の前に炎の爆発を起こすエアロブラストの火属性バージョンだ。


 互いに近距離で同種の魔法を撃ち合ったため、2人は互いに吹き飛ばされ、一気に距離が開いた。


 が、クリフォードは着地と共に目に留まらない速度で、カルヴィンに切迫する。


「っ!?ファイアウォール!」

「遅い」


 次の瞬間、クリフォードの高速の刺突がカルヴィンを襲った。

 カルヴィンの両肩と両太腿に赤い鮮血が舞った。


 そして、カルヴィンは白目を剥いて、その場に倒れた。


 防御のために使ったファイアウォールだったが、クリフォードは炎の壁が作られる前に通り抜け、カルヴィンを攻撃したのだ。


「勝者、アレイン・クリフォード!」


 こうして、ソフィアの決勝戦の相手が決まった。


 因みに決勝戦は翌日に執り行われることになったので、他学年の準決勝も見てから、俺達は帰路に就くことになった。



 ☆     ☆     ☆



「今年の1年生は有望な者が多いな」


 準決勝を見ていた教師を担当しているレジスタンスのメンバーが言った。


「だな。俺達が戦ったとしても苦戦するかもな」

「本当にその通りだ」


 準決勝を行ったソフィア含んだ4人は、教師陣から絶賛されていた。


「それにソフィア・ミールだったか?あいつの魔法の連続発動、速すぎないか?」

「そうだな。しかも上級魔法も織り混ぜてのあの速度だろ?相当出来るぞ」


 使い魔のリアンが関わっていると知らないので、自然とこういう評価になる。


「俺としてはあのアレイン・クリフォードの動きも凄いと思うがな」

「あれってギフトだよな。あんな強力なギフトで羨ましいぜ」

「でも対応しようと思えば出来そうだな」


 教師とはいえ、やはりレジスタンスのメンバーだ。

 どうしても、強いだの対策等と色々と考えてしまう。


「お前達」

「ん?え、ディ、ディケイルさん!?いたっ」


 メンバーの1人が、いつの間にか後ろに立っていたディケイルに驚いて、後ろに引っくり返ってしまった。


「何をそんなに驚く?」

「いや、ディケイルさんの威圧感が凄いだけですから」


 ディケイルは強面で身体も大きい。

 それにメンバーはディケイルとは普段あまり会わない。

 なので、久しぶりに見るディケイルの強面が突然後ろにあったので、驚いてしまったのだ。


「それはすまなかったな。それよりこれを調べてほしいのだ」

「これは・・・・・・」


 メンバーの1人がディケイルから渡された資料を読んでいく。


「まだ噂の域を出ない案件だが、この前のこともある。早めに手を打っておこうと思ってな」


 ディケイルは補足でそう付け加えた。


「・・・わかりました。用意出来次第、出発します」


 そこにいたレジスタンスのメンバー3人はそれぞれ準備に取りかかった。

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