第30話
護衛のクエストを終えた翌日、『フォルティス教育機関学校の生徒2人が行方不明になった』という情報がソフィアとココナにジャネットを通じて届けられた。
そして今、ジャネットの個室でジャネットとディケイルから話を詳しく聞くことになり、俺とソフィア、ココナが集まっていた。
「どういうこと?」
「2人の殺され方に違いがあるけど、2人から魔力の検出はなかったのよ。たった一晩経った状態でね」
魔力はその人が死んでからも、その身体に数日は残留するものなのだ。
それが一晩で無くなっているものをのは不自然なのだ。
「そして、そのことが昔にあったとある事件に類似していることがわかったのだ」
話を引き継いでディケイルが説明をしてきた。
「とある事件?」
ココナは首を傾げながらジャネットを見る。
「私は知らないわ。ディケイルが気付いただけだから」
ジャネットは首を横に振り、視線をディケイルに向ける。
「男子生徒は首と右腕が切り落とされていたが、女子生徒の方は服を破り捨てられ、裸の状態で見つかった。こちらの女子生徒の殺され方はまだ判明していない。特に外傷らしい外傷は擦り傷ぐらいしかなかったからな」
(ん?外傷が無いのに死んでいる?)
ディケイルの説明に、俺はその死に方をしている人を見たことがあることを思い出した。
だけど、実際に遺体を見ないことには断定は出来ない。
「・・・ジャネット先生、ディケイル様、私にその遺体を見せて頂くことは出来ますか?」
これまで黙って聞いていたソフィアが真剣な眼差しで言った。
☆ ☆ ☆
ココナは遺体を見たくないということで、ジャネットの個室に残ることになった。
なので、俺とソフィア、ジャネット、ディケイルで、被害者の2人の遺体の安置されている部屋に向かった。
安置されている場所は学校の敷地内にある死体安置所だ。
レジスタンスの学校だけあって、やはりこういった施設を自分達で管理していた方が、色々と楽らしいとのことだ。
建物には警備のレジスタンスメンバーが付いており、ディケイルとジャネットの顔を見ると、すぐに扉を開けてくれた。
部屋は幾つかあるが、俺達は今回の被害者2人が安置されている部屋に直行する。
そして、俺達は1つの部屋に入った。
そこには白い布が掛けられた2人の遺体が横に並んで床に置かれていた。
俺達は遺体に対し、両手を合わせて祈りを捧げる。
そして、ソフィアは静かに右側の遺体の側に行き、しゃがんだ。
俺もソフィアの後に付き、遺体の側に行く。
「・・・失礼します」
ソフィアは緊張したような手付きで、白い布を捲る。
そこには男子生徒の青白い顔が、遺体があった。
服は着ているが、首と右腕が切断されているので、身体から僅かに離れている。
ソフィアは何かに怯えるような顔をして、震える手で白い布を掛け直した。
「ミールさん、大丈夫?」
「・・・はい」
ジャネットの心配してくれる声に簡単に答え、ソフィアはもう片方の遺体の白い布を捲った。
そこにいたのは女子生徒の遺体だ。
こちらは服を一切身に付けておらず、外傷も無いため、まだ生きているように見える。
(・・・・・・似てるな。9年前のあの時と)
俺はある事件を思い出しながら、女子生徒の遺体を見ていた。
「・・・じだ」
(え?)
ソフィアがぼそっと呟いた。
俺はその言葉を信じられずにソフィアの顔を見る。
ソフィアの顔は真っ青になり、歯がガチガチと音を鳴らして震えていた。
「同じだ・・・あの時と・・・・・・・」
「ミールさん?」
ソフィアの異変にジャネットが気が付き、声を掛ける。
「いや・・・・いやあ!!!」
「っ!?ミールさん!!」
ソフィアは自分を抱き締めるように腕を回して叫ぶと、ソフィアから尋常ではない程の魔力が吹き荒れた。
その魔力の衝撃波で2人の遺体に被さられていた白い布は飛ばされてしまう。
俺もいきなりの衝撃波だったので、壁まで吹き飛ばされてしまった。
「いやっ!!いやっ!!もういやあ!!!」
「ソフィア・ミール!!」
ディケイルも尋常ではないソフィアの様子に声を上げるが、ソフィアにはまったく聞こえていないようだ。
ジャネットとディケイルはソフィアに近付こうとするが、ソフィアから放たれる膨大な魔力の嵐に近付けずにいた。
(このままだとソフィアも危ない!)
これは普段無意識でしている魔力制御がまったく出来ていない錯乱状態だ。
このままではソフィア中心に魔力爆発が起こっても不思議ではない。
「にゃあ!!!」
俺はソフィアの魔力を制御することが出来る。
だが、暴走に近い魔力をソフィアから離れた位置で全て制御なんて出来ない。
せいぜい自分の僅かな周囲にある魔力を制御出来るぐらいだ。
でもそのおかげで、ディケイルでさえも近付けない魔力の嵐の中を俺は少しずつ、ソフィアに近付いていった。
「いやだよぉ!!死にたくない!!死にたくないよぉ!!!助けて、誰か助けて!!!」
ソフィアはつらい過去を思い出したように、自分をきつく抱き締めたまま錯乱し続けている。
ピシッ
魔法障壁が施されて強化されているはずの壁に亀裂が入る。
「不味い!ソフィア・ミールの『障壁貫通』のギフトか!このままでは建物が崩れるぞ!」
「ミールさん!!落ち着いて!!」
ディケイルとジャネットも建物が崩れるかもしれない状況に焦りだす。
ソフィアの膨大な魔力の嵐の前に2人は近付けず、大声でソフィアに訴え続けるが、ソフィアの暴走は一向に止まる様子はない。
「助けて・・・助けてよ!!リアンさまぁ!!!」
ソフィアがふいに俺の名前を呼ぶ。様を付けていることから、呼んだのは人間の俺だろうが、猫でも俺は俺だ。
その助けを求める声に答えるように、俺は
近付くに連れて荒れ狂う魔力の嵐の中、前へと進み続ける。
「にゃあ!!!」
俺は何とかして、ソフィアの元に辿り着く。
そして、申し訳ないが肩には登れそうにないので、スカートの中に尻尾を入れ、ソフィアの下腹部に這わせる。
「助けて・・・・・・リアン・・・さま」
俺は無理矢理ソフィアの魔力を制御して鎮圧すると、ソフィアは力が抜けたように、その場に倒れ込んだ。
「ミールさん!・・・息はある。早く医療室に」
ジャネットはソフィアを抱き抱えて走り出す。
「・・・・・・そこの使い魔」
俺もジャネットの後に付いていこうとすると、ディケイルが話しかけてきた。
「・・・助かった。感謝する」
「・・・にゃあ」
俺は軽く返事をして、追い掛け始めた。
ディケイルも後からゆっくりと付いてくるのだった。
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