第28話
「ジャネット先生、怪我の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、魔力はまだ回復していないけど、身体の方は治癒魔法掛けてもらったからね」
コロシアムが襲撃された日の翌日、ソフィアとココナはジャネットの個室までやってきていた。
「あのジャネット先生がこんなになるなんて信じられないです」
「あら?それは私が人間じゃないってこと?」
「い、いえ!そういうことではないです」
ジャネットの言葉に慌て始めるソフィア。
「ふふ、冗談よ」
ジャネットはレジスタンスの中でも強い部類に入る。
そんなジャネットが魔力を使い果たし、大怪我をしたなんて、ソフィアには信じられなかったのだ。
「それより貴方達は大丈夫なの?襲われたって聞いたけど」
「うん!皆で頑張ったんだよ!」
「はい。でも今考えると、私が決闘を受けたのが原因なんじゃないかって思うんです」
「どういうことかしら?」
「あのですね」
ソフィアは自分がヘンリー・ヘイグから決闘の申し込みを受けたことが、発端だったことをジャネットに話した。
それからどういう経緯であんな事件になったのかも、わかる範囲で順に話していく。
「そう・・・。確かに仕組まれていたかもしれないわね」
ジャネットは手を顎に当てながら言う。
「やはりそうなのでしょうか?」
「というより、私の追っていた犯人が言ったのよ。『私の新たな部下が貴方の教え子を狙っている』ってね」
「新たな部下?それって」
「話を聞く限りだと、決闘を申し込んできたヘンリー・ヘイグでしょうね」
ソフィアはその事実に驚きを隠せない。だって、レジスタンスになるための学校の生徒が、魔法犯罪組織に加担をしたのだから。
「で、でも!先生が倒したんでしょ!その犯人!!」
「・・・・・・いえ、逃げられたわ。奥の手を使ったんだけど・・・。怪我の半分はその代償だしね」
「そ、そんな・・・」
ココナも驚きを隠せないでいる。
ジャネットがこんな状態になっても、逃げられるなんて思っていなかったのだろう。
「で、でもその犯人はどこにいったんですか?」
「え?ミールさんの所にいったんじゃ」
「ココナ達の所にいたのはヘンリー・ヘイグとレジーノっていう裏切り者の先生だけだったよ」
「・・・・・・それじゃあ、あいつは何処に・・・」
ジャネットが悩んでいると。
「失礼する」
ノックの音と共にディケイルが入ってきた。
「あら?どうしたのかしら?」
「お前の見舞いがてら報告することがあってな」
ディケイルは真面目な話をする雰囲気で告げてきた。
そんな空気を読み取り、ソフィアとココナは腰を上げた。
「では、私達は席を外しますね」
「構わん。ソフィア・ミールとココナ・ユースフィアにはいてもらっても構わない。いや、いてもらいたい」
「そ、そうなんですか」
ソフィア達は立ち上がろうとしていたので、座り直した。
「で、報告って?」
「この学校で保管していた機密文書が盗まれた」
「・・・・・・まさか」
「そうだ。君が逃がした犯人の仕業だろう」
(なるほどな。ソフィア達の方のは囮で、本当の目的はその機密文書だったというわけか)
やたら大きな騒ぎになっていたから、コロシアムの方が本命だと考えていた。
それにジャネットの顔を見ていると、俺は何となくだが、相手もわかったような気がした。
「機密文書の内容は公表出来ないが、あいつらが機密文書を元に動き出せば、ヘンリー・ヘイグのような犠牲者が増えるのは確実だ」
「な、何とかならないの!?」
ココナは不安そうな顔で解決策を聞く。
(・・・ヘンリー・ヘイグのような犠牲者が増える?まさか
俺は話を聞きながらそう当たりをつける。
「私がこの話を君達に聞いてもらったのはそこなのだ」
「え?」
「ディケイル!貴方まさか!!」
ジャネットは掴み掛かる勢いで、ディケイルに詰め寄る。
「ソフィア・ミール、ココナ・ユースフィア。君達に極秘任務を与える。今回盗まれた機密文書、及び犯人の手掛かりを探れ。あわよくば捕獲しても構わない」
「ディケイル!!この子達には危険過ぎるわ!」
ジャネットは我が子を守るようにディケイルに抗議する。
「一応他の厳選したメンバーで犯人を追っている。ただ残りの少ないメンバーで生徒達の守護もしなければならない。頼みの綱であるジャネットはこんな状態だ」
厳選したメンバーというのは、信頼が置けるメンバーのことだろう。
昨日の事件にはレジスタンスのメンバーであるレジーノ・ノバルが裏切っていたのだから、当然の考えだ。
「そうだとしてもよ!他に候補はいるでしょう!この子達はまだ1年生なのよ!」
確かにジャネットの言う通り、ソフィア達の先輩である2年生と3年生と候補はいる。
「私は考えたのだ。ソフィア・ミール、君になら出来るような気がしているのだ」
「わ、私ですか?」
ソフィアはまさかの指名に驚いているようだ。
「以前、私は君が戦うところを見させてもらった。向かってくる敵に対しての適切な判断。相手の魔法にも対する適切な対応。十分な実力があると判断している」
ソフィアが犯罪グループの人達に襲われて、返り討ちにしたことを言っているのだろう。
「それに純白のパンツを晒して戦う姿は魅了されるものがあった」
「パっ!?」
ソフィアは見られていたことがわかり、顔を真っ赤にする。
「この・・・エロ親父が!!」
「ぐふっ!?」
ジャネットがぶちギレて、学校のトップであるディケイルに腹パンを入れる。
「ま、魔力が無いのに良いパンチだ。ジャネット」
「それはどーも」
ディケイルは腹を押さえつつ、ジャネットを宥めるように称賛をする。
「でもココナはどうして・・・」
ソフィアは自分が選ばれた理由はわかった。でも、ココナが選ばれる理由はわからない。
「ココナ・ユースフィアは君の相棒だろ。気の知れた友人の方が連携を取りやすいからだ」
ディケイルがそう告げるとソフィアは申し訳なさそうな顔をして、ココナを見た。
「ごめんね。ココナを巻き込んで」
「気にしないでいいよ。ソフィア1人で行くっていっても付いていっちゃうし」
「ココナ・・・」
ココナは当たり前のように答える。
ソフィアはこれまでココナのような友人は1人も出来たことがなかった。
だからソフィアはうっすらと涙を溜める程に嬉しい言葉だった。
「ココナ、一緒に頑張ろうね」
「うん!石船に乗ったつもりで任せておいてよ!」
「それ沈むよ?それに泥船でもないんだね」
そんな2人のやり取りをディケイルとジャネットは微笑ましそうに見ているのだった。
☆ ☆ ☆
「いやー、今回のクエストは思ったより手こずったな」
「あなたが突っ込み過ぎなのよ!バカ!」
その日の夜、町に男女2人が少し疲れた様子で歩いていた。
時間も遅く、この2人以外に人の姿はない。
「そういえばさ。この前の決闘の事件あるじゃん」
「ああ、あの悪魔の子がやってたやつでしょ?」
「そうそう。あの悪魔の子って言われてるけど、普通に可愛いよな」
「あんた、ああいう年下が好きなわけ?」
2人はいつものように、適当な話題で盛り上がっていた。
「そりゃあ可愛いとは私も思ったけどさ」
「その子の名前って何ていったか覚えてるか?」
「確か・・・ミール。ソフィア・ミールだったと思うけど」
「今度一緒にクエスト行こうって誘ってみるか。実力はありそうだしな」
「私は別に構わないけど」
2人の服装は学校の制服を着ているので、フォルティス教育機関学校の生徒だ。
この2人はあるクエストから帰る途中だった。
「「っ!?」」
そんな2人が目の前にいきなり現れた人の形をした黒い影に戦闘体制を取った。
「ねぇ、あれなに?」
「知らねぇよ。でも殺意はあるみたいだな」
黒い影は赤い瞳を女子生徒の方に向ける。
そして気が付くと、女子生徒の目の前にまでやってきていた。
「っ!?」
「させるかよ!!」
男子生徒は女子生徒を守るように黒い影の胴体を殴る。
身体強化しての拳だ。
本来ならそれなりのダメージを与えるはずだった。
「なっ!?」
気が付くと、男子生徒が振るった拳は地面に落ちていた。
黒い影が目にも止まらない速度で、何かをして男子生徒の腕を切り落としたのだ。
「ぐああぁぁぁ!!」
「な・・・な・・・なにを」
女子生徒は恐怖で身体が固まってしまう。
男子生徒は腕を切り落とされた痛みで気を失ってしまったのか、叫んだ後は動かなくなってしまう。
黒い影は女子生徒の服を切り裂き、破り捨ててしまう。
「い、いや・・・いやっ!」
女子生徒は身体を隠しながら、恐怖で後退りをする。
「・・・・・・チガウ」
「な、なにが・・・・っ!?」
黒い影の背中から生える黒い触手のようなものに、女子生徒は絡めとられてしまう。
女子生徒は触れられた場所から何かが抜けていくのを感じた。
そして翌日、フォルティス教育機関学校の生徒2人が行方不明とされ、捜索された。
その後、2人が殺されたことは教育機関学校の一部にだけ報告されることになった。
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