第16話

「こ、来ないでよぉ!!」

「ココナ!!」


 ソフィアはココナに向かって叫んだ。


「ソフィア!逃げてぇ!!」

「逃げないよ!んっ・・・グレイブ!」


 グレイブは地属性魔法で、地面から石の槍を出す魔法だ。


 グレイブはロックゴーレムの走る道に突然生える。


 そして、ロックゴーレムはそれに躓いて、物凄い音を発てて転んだ。


「し、死ぬかと思った」

「大丈夫?」

「にゃあ!」


 まだ終わっていない。

 俺はソフィアに注意喚起をして、意識をロックゴーレムに向ける。


 ロックゴーレムは岩で出来た魔法生物。

 奴を倒すには体の何処かに核となる物があるので、それを破壊しない限り、奴は岩を集めてまた動き出す。


 取り敢えず部位を破壊して、核を探さなければいけない。


「ココナは下がってて!」

「ご、ごめんね!」


 ココナはソフィアの後方に下がっていく。


 その時にはロックゴーレムは立ち上がり体勢を整えていた。


「んっ!り、リアン!合図してよ!」

「にゃう!(嫌だ!)」


 俺の言葉を理解していないだろうが、はっきりと否定はしておく。


「んんっ・・・ふ、フレアバースト!!」


 近付こうとしているゴーレムの下半身部分で大爆発が起こる。


 その衝撃で下半身が崩れ、上半身も地面に落下する。


「っ!?にゃにゃ!!」

「きゃっ!!」


 突如、崩れたロックゴーレムが腕を振るって、小さな破片を数個飛ばしてきた。

 小さいといっても拳大の大きさはある破片だ。


 ソフィアはその破片がお腹に当たってしまう。

 本来ならこれぐらいなら防いでくれる制服の障壁なのだが。


「うっ・・・けほっ!けほっ!」

「にゃにゃにゃあ!!」


 ソフィアの制服は破れ、障壁の魔法が発動していなかった。


「り、リアン。大丈夫だから・・・」


 ソフィアがふらつきながら立つが、ロックゴーレムも既に元通りに戻って、こちらに向かい走ってきていた。


「にゃう!」


 とにかくロックゴーレムの足止めをしないとまずい。


「んっ・・・もう1回・・・フレアバースト!!」


 もう一度下半身を破壊して、足止めをする。

 俺はそのまま魔力制御を切らずに、次の魔法の準備をする。


「あっ!んんっ!・・す、ストーンウォール!!」


 そして、ソフィアは連続で魔法を発動した。


 先程のような攻撃を防ぐために、ロックゴーレムとの間に石の壁を作ったのだ。


「にゃう?」

「んっ・・・だ、大丈夫だよ」


 顔は赤いがまだ大丈夫そうだ。

 連続で魔法制御をしたから、刺激も強かったのだろう。


「まだ大丈夫だから・・・リアン、あいつを倒す魔法を」

「・・・にゃ!」


 それなら期待に応えるために高難度魔法の1つを作り出すことにする。

 これは魔力制御が複雑で、ソフィアのことを考えて使わなかった魔法だ。


「んっ!?んあっ!!」


 ソフィアは仰け反り、足がガクガクと震え出す。


「んんっ!!ら、らいじょうぶっんっ!?」


 俺が心配したのがわかったように、ソフィアは大丈夫と言ってきた。


(よし!これで完成だ!!ソフィア!頑張れ!!)


「んっ!あ、こ、これって・・・・め、んんぅっ!?」


 ソフィアは何の魔法かわかったようだ。

 だけど、快感が強くて魔法が唱えるのが難しいようだ。


「ふぇ・・・んっ!め、メテオフォール!!」


 ソフィアは何とか魔法を唱えた。


 すると、ソフィアの頭上に3mはある巨大な炎の塊が出現する。


 その時、壁であるストーンウォールがロックゴーレムの拳によりは破壊された。


 そして、ストーンウォールを破壊した後にロックゴーレムが見た物は、巨体な炎の塊が自分に向かって墜ちてくる光景だった。


 メテオフォールは見事にロックゴーレムに命中し、そのまま地面に押し潰すようにしてめり込んでいく。


「にゃう!!」

「ふぁうっ!!んんっっ~~~~っ!!」


 俺はソフィアを地面に押し倒すように首筋辺りを押した。

 すると、ソフィアは今までにないくらい大きな嬌声を上げた。


 ソフィアは色々と感じていたのか、力が入らなかったことと、いきなり変なところを押されたからなのか、猫の俺でも押し倒すことが出来た。


 次の瞬間、メテオフォールはロックゴーレムを中心に大爆発を起こした。


 その時発生した暴風に飛ばされそうになるが、地面に伏せていたため、飛ばされずに済んだ。


「にゃ」


 俺は爆発が収まった後を確認する。

 そこには戻ることのない岩の瓦礫が散らばっているだけだった。


(ふぅ、思ったより近くでメテオフォールが爆発したから危なかった)


 本当はもう少し離れた場所でやる魔法なのだが、状況的に難しかったのだ。


「あぅ・・・あっ・・・んん・・・」


 ソフィアは俺の下でガクガクと震えていた。


 何処か怪我でもしたのかと確認しようとしたら。


「にゃう!?」

「リアンの・・・バカっ!!最後押し倒したせいでっ!!~~~っっ!!もうっ!!!」


 ソフィアの顔は今まで見た中でも一番赤く、涙やよだれで凄いことになっていた。


「ソフィア!!無事!!」


 そこにココナがやってくる。


「そ、ソフィア、その顔は・・・」


 ココナはソフィアのだらしない顔を見て、呆然とする。


「もう!放っておいて!!」


 ソフィアは顔を俺に押し付けるようにして隠した。


 ソフィアはしばらくの間、その場から動くことはなかった。



 ☆     ☆     ☆



「はい、確かにロックゴーレムの討伐の確認をしました。お疲れ様でした」


 セリカはソフィアとココナの学生証を確認して、にこやかに言ってきた。


「それでは次回からはCランクのクエストも受理出来ますので」

「「・・・・・・え?」」


(おいおい、まさか・・・)


 俺は最初から疑問に思っていたことが、確信になった。


「今回の昇格試験はCランクになるためのものです。おめでとうございます。なんと、Dランクを飛ばしてのCランク昇格です!」

「「え、えええぇぇぇぇぇぇ!!!」」


 そりゃ驚くわな。

 俺も飛び級で昇格なんて初めて見たし。


 叫んだせいか、周りでは飛び級や悪魔の子がとかのひそひそ話が聞こえてくる。


「やったよ!ソフィア!」

「え?え?いいんですか?」


 素直に喜ぶココナと事実を信じられないソフィア。


「はい、これからも頑張って下さいね」


 こうして、フォルティス教育機関学校に新たな歴史が刻まれた。


 それは僅か2ヶ月でEランクからCランクに昇格する黒猫の使い魔を持つ少女として語り継がれることになった。



 ☆     ☆     ☆



 その日の夜。


「・・・・・・リアン」

「にゃ?」


 場所はお風呂。

 声が辺りに反響する。


「リアンはどこまで私に付いてきてくれるの?」

「・・・・・・にゃう?」


 それはわからない。

 人間に戻れたらそれまでだし、このままだったら・・・もしかするとずっとこのままかもしれない。


「私もリアンがいなくても魔法をしっかりと使えるようにならなきゃね」


 でも最近はファイアボール等と基本魔法は一般レベルまで使えるようになってきている。

 だが、それ以上の魔法にはまだまだ魔力制御が足りない。


「それにしてもリアンはなんであんな凄い魔法を知ってるの?」


(それはレジスタンスで最強クラスの魔法使いだから・・・とは思ってないだろうな)


 それに今日使ってわかったが、魔力制御が難しくなると、ソフィアにかなりの負担が掛かってしまう。


 やはり、ソフィアのためにも強い魔法は控えるべきだ。


「うぅ・・・思い出しちゃう」


 ふとソフィアが湯船の中で変に身動ぎを始めた。


(おいおいおい!!まさか・・・まさかだよな!?)


 俺はこの日、いつもより長風呂になってしまうのだった。


 これは本当に気を付けないと、俺が色んな意味で死ぬ。


 風呂上がりのソフィアは少し疲れた顔をしていたが、心なしかすっきりとした顔でもあった。

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