第15話

 早いもので、ソフィアがこの学校に入ってから2ヶ月が経とうとしていた。


 そんなある日。


「あなた達の功績ならば昇格試験を受けることが出来るけどどうする?」


 そう話しかけられたのは、クエストを受けようと受付に依頼書を持っていった時だ。


「セリカさん、昇格試験って受けられるクエストのランクが上がるってことですか?」


 クエストの受付の仕事をしているセリカ・ベリーニだ。

 年は確かジャネットと同じ20歳のはず。

 魔法は平凡だが、書類等の処理能力の高さを買われて、レジスタンスに入ったのだ。


 そして今はアルビレオの教育機関のクエストの受付嬢をしている。


「ええ、そうよ。ソフィアちゃんとココナちゃんはクエストの達成数ももちろんだけど、道中に討伐している魔獣の強さも本来ならCランク相当のも混じってる。これならDランクに・・・いえ、Cランクでも大丈夫ね」


 セリカは微笑みながら言ってきた。


「あれ?この前、ジャネット先生に学生は1年上がるごとにランクも1つ上がるって聞いたけど?」


 珍しく授業の内容を覚えていたココナ。


「それは何もしなければの話よ。あなた達2人はクエストに貢献してるじゃない」


 セリカは簡単に説明をしてくれる。


「で、どうする?試験受ける?」

「えっと、試験って何をするんですか?」


 ソフィアの疑問は最もだ。


「こちらが用意したクエストを受けてもらうだけよ。まぁ、いつも受けているクエストよりは難易度高くなっているけどね」


 確か次のランクのクエストの中から選ばれるはずだから、Dランクのクエストから選ばれるはずだ。


「やろうよ!ソフィア!」

「う、うん。いいけど」

「ランクが上がるなら報酬も増えるよ!」

「そうなんだけど・・・」


 恐らくソフィアが懸念しているのは、自分だけの功績でないことだろう。


 クエスト中で少しでも危険な時は俺が魔力制御をして、手助けをしている。


 だから、そんな自分が昇格試験を受けていいものなのか迷っているんだろう。


「試験受けます!」

「ココナちゃんは受けるっと・・・ソフィアちゃんは?」

「えっと・・・その」

「あなた達2人はパーティーでの評価も高いから一緒に受けてくれるとこちらも助かるのだけれど」

「ソフィア!やろうよ!」

「う、うん、わかったよ。受けます」

「はーい、ソフィアちゃんも受けるっと」


 セリカは何かの書類に書いていく。


「因みに言うとね、1年生で2ヶ月目で昇格試験受けた生徒はリアン先輩以来よ」

「「へ?」」


 その言葉を聞いて、ソフィアとココナは目を丸くした。


(セリカのやつ。よく知ってるな)


 そう、俺もここの卒業生だ。

 そして、ギフトのおかげで、2年生の真ん中辺りでAランクまで上り詰めたのだ。

 更に3年生になると、機密の仕事であるSランクのクエストを受けることになったりした。


「これで合格したら快挙ね」

「うん!頑張る!」

「が、がんばります」


 ソフィアは変に緊張してるようだ。


「えっと・・・クエストはこれでいいかな」


 セリカは2人の学生証にクエストのデータを打ち込んでいく。


「2人の昇格試験の内容はフォルティス平原に迷い混んでしまったロックゴーレムの討伐です。町や旅人達から危険なので排除してほしいと依頼がありました」

「ロックゴーレム・・・ですか」


 ソフィアは生唾を飲んだ。


 ロックゴーレムは3mはある巨大な石でできた魔法生物だ。

 でも、あれはCランク相当の魔獣のはずだが。


「わかった!ソフィア!早速探しに行こう!」

「あ、ちょっと!引っ張らないで!」

「いってらっしゃーい」


 ココナに引っ張られて行くソフィアに俺も慌てて付いていくのだった。

 そんな2人にセリカは手を振って見送った。



 ☆     ☆     ☆



「どうやって探せばいいの?」

「はぁ・・・はぁ・・・え?ここでそれ言うの?」


 俺達は今、フォルティス平原のど真ん中にいる。


 既に街道からも外れており、所々に木や岩があるぐらいで、後は草原が広がっているだけの場所だ。


「はぁ・・・情報集めてきてないからわからないよ」

「あ!そっか!町の外から来た人に聞けばよかったんだ!」


(今さらそれに気付くか)


 俺とソフィアはそれを聞いて、げんなりしていた。


(猫になってから運動あまりしていなかったから、結構疲れたな)


 ここまで走ってきたが、人間の時と比べて身体が小さい分、移動距離も増えたのだ。


「はぁ・・・ふぅ・・・リアンは大丈夫?」


 ソフィアも運動慣れはしていないので、肩で息をしていた。


「にゃう・・・」

「疲れたよね。そこの木陰で少し休もっか」

「にゃあ・・・」


 俺とソフィアは木陰に座り込み、休むことにした。


「じゃあ私は適当にそこら辺見てくるね!」


 ココナはそう言うと、走ってすぐに行ってしまった。


「「・・・・・・・・・」」


 俺とソフィアはその後ろ姿をただ呆然と見ていた。


「なんであんなに元気なんだろうね」

「にゃあ」


 俺とソフィアは何も話さずに、木漏れ日とそよ風を感じ、自然の心地良さを感じていた。


「もうすぐ夏かぁ」


 確かに最近は日差しが強くなってきた。

 といっても、このレジスタンス教育機関学校に夏休み等の長期休みはない。


 レジスタンスは犯罪組織を相手にすると共に、治安の維持にも力を入れているので、実質休みがないのだ。


 それを学生の時から経験させるのも、学校の方針の1つだ。


「・・・にゃ?」

「どうしたの?」


(何か遠くから叫び声が聞こえたような)


 俺は声が聞こえた方に意識を集中させる。


「来るなぁ!!投げるなぁ!!潰すなぁ!!」


 遠くからココナが走りながらそんなことを叫んでいる。


(って、後ろにいるのって!)


「っ!?ロックゴーレム!!」


 ココナはなんとロックゴーレムに追われていたのだ。


 よく見ると、ロックゴーレムの肩部分が壊れている。


 恐らくココナが魔法でダメージを与えたのだろう。


 しかし、ココナは単発でしか強い魔法を放てない。


 だから逃げ出した、というところだろう。


「リアン!お願い!」

「にゃあ!」


 俺はソフィアの肩に乗る。


 そして、ココナを助けるためにロックゴーレムに向かって走り出した。

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