第3話

「リアン、汚れてるんだからそこにいて!」

「にゃう!」


 ソフィアは暴れる俺を風呂場の中に閉じ込める。


 この借りているという部屋には、少し狭いがお風呂が付いているらしい。


 俺は風呂場から抜け出そうと閉められた扉を開けようとするが、猫なので開けることが出来ない。


 そして、曇りガラスになっている扉の向こう側には肌色面積が増えていくソフィアの姿があった。


(流石に風呂はまずい!出会ったばかりの・・・しかも教え子予定の女の子とお風呂なんてなおさらまずい!!)


 だが現実は残酷で、裸になったソフィアが扉を開けて、風呂場に入ってきた。

 もちろんタオル等で身体は一切隠していない。


 俺は咄嗟に視線を外し、背を向ける。


「ちゃんと良い子にしてたんだね」

「っ!?」


 ソフィアは俺を後ろから抱き抱えた。


 つまり、ソフィアの柔肌や胸が直に俺に当たるわけで・・・って考えたら駄目だ!


「リアン、先に身体の汚れを落とそうね」


 ソフィアは女の子座りをして、膝の上に俺を向き合う形で置いた。


 つまり、ソフィアの身体を隠すものがないまま、俺の目の前に見惚れる程綺麗なソフィアの裸身が晒されるわけで・・・。


(やばい!おっぱいとか意外と大きいし、先端部のピンク色で綺麗!!それに肌も白い!!下の毛もまだ殆ど生えてない!!!)


 俺は内心混乱しながら、駄目とわかっていても、ソフィアの裸身に目を奪われてしまう。


「ほら、身体洗うよ。あ、リアンって男の子だったんだね」

「っ!?」


 俺の男の象徴を教え子のソフィアに見られてしまった。猫のだけど。


「あ、もしかして恥ずかしいの?猫なんだから恥ずかしがらなくてもいいのに」


(いやっ!人間なんですけどっ!?)


 俺の心の声はもちろん届くことなく、ソフィアの手により、身体を隅々まで洗われてしまう。

 時折、胸が当たったり、ソフィアが足を開いたりしたので、俺は無心になろうと頑張っていた。


「私も洗っちゃうね」


 俺を洗い終えたソフィアは自分の身体を洗い始める。


 俺は風呂場から出られないので、背中を向けて、ソフィアが洗い終わるのを待つ。


「ふぅ。リアン、お風呂入ろ」

「にゃっ!?」


 またもや後ろから抱き抱えられてしまう。


 そして、そのまま湯船の中に浸かる。


「やっぱりお風呂の付いている部屋にしてよかったぁ。気持ちいいもんね」


(確かにふよふよと背中に当たるおっぱいは素晴らしく気持ちいい)


「・・・リアンって結構大人しいんだね。実家で飼っていた猫はお風呂が嫌いですぐに逃げたのに」


(逃げたくても逃げられなくしてるのはソフィアだぞ!?)


 そんな俺の心情を理解することなくソフィアはお風呂を満喫している。


「・・・・・・はぁ」

「にゃう?(なんだ?)」


 突然ソフィアがため息を付いた。


「またいじめられなきゃいいけど」


(いじめ?)


 いきなり話し出したソフィアの言葉に耳を傾ける。


「リアン、私ね。元々住んでいた所の学校ではいじめられてたんだ。目の色が可笑しいって」


(オッドアイのことか)


 確かにオッドアイは場所によっては、不吉の象徴とまで言われているからな。その噂が一人歩きして一般的にも云われるようになっているのが現状だし。


 ソフィアの目は右目が蒼色、左目が翠色をしている。

 俺は綺麗だと思うが、ソフィアにとってはいじめの対象になるかもしれないという懸念が大きいのだろう。


「それに私にはギフトがないの」

「・・・・・・にゃにゃ!?(・・・・・・なんだって!?)」


 ギフトは誰にでも与えられていると云われている。

 確かにギフトの能力の目覚めや気が付くのにばらつきがあるのは確かだが、遅くても10歳になる頃には目覚めてわかるはずだ。まぁ、中には分かりづらいのもあるが。


 ソフィアは学校に入るわけだから15歳のはず。

 それは目覚めていなければおかしい年齢だ。


「魔法は使えるけど器用貧乏なのかな?これといって得意な属性もないし」

「・・・・・・・・」


 魔法は人によって得意な属性が存在する。

 これは体内で作り出す魔力気管に個人差があると云われているからだ。


 もしかすると、得意な属性がないということは、ソフィアは万能型に入るのかもしれない。


 万能型は数万人に1人ぐらいの確立のはずなので、一般人が知ることはないぐらい珍しい。


「はぁ・・・学校怖いな」


 ソフィアの顔は不安で彩られていた。

 もしかしたら、俺を使い魔にしようとしているのは、心細かったからかもしれない。

 使い魔契約とはお互いの魔力のパスを繋げる契約だ。

 そうすれば、俺とは魔力で繋がっていられる。


 そうすれば、孤独にはならないから。


「・・・・・・にゃう」

「ん?なぁに?」


 ソフィアは俺が突然振り向いたので、どうしたのかと聞いてきた。


「にゃうにゃにゃ(契約)」

「・・・なんて言ってるかわかればいいんだけどね」


(ここは察してくれよ!!)


 ソフィアは変なところで鋭かったり、鈍かったりするようだ。


「にゃうにゃにゃ(それなら)」

「な、なに?」


 俺は無理矢理ソフィアの唇を奪おうとする。

 だが、ソフィアに抱えられているため、届くことはない。


「ど、どうしたの!?リアン!」


 使い魔契約は接吻が必要なのだ。


 言葉で伝えられないなら、行動で示すしかない。


「あ、もしかして契約してくれるの?」

「にゃう」


 俺はソフィアの目を見て、しっかりと頷く。


「・・・ありがとね。リアン」


 ソフィアは俺を抱き抱えたまま立ち上がる。

 そして再びソフィアの裸身が俺の目の前に晒される。


 だが、俺はソフィアの蒼と翠の目を見つめ続けた。


「コントラクション」


 ソフィアがそう魔法を唱えると、俺達を中心に魔法陣が広がる。


「リアン、これからよろしくね」


 ソフィアはそう言いながら、俺にキスをするのだった。


 こうして、俺はソフィアの使い魔となった。



 ☆     ☆     ☆



「それで、リアン・ユーベルは何処に行ったのだ?」

「それが・・・その、行方不明でして」


 ジャネットは部屋を破壊してしまったことと、リアンが行方不明とのことで、フォルティス教育機関のトップに君臨し、断罪の悪魔と呼ばれるレジスタンス最強と呼ばれる1人でもあるディケイル・アスマンに呼び出されていた。

 年はすでに50を越えており、貫禄もかなり出ている。


「あいつめ」


 ディケイルは憤った低い声で呟く。

 ジャネットはその声に恐怖を感じた。


「取り敢えずはあいつの担当する生徒はジャネット、お前が引き継げ」

「え、は、はい!」


 ジャネットは驚きながらも、気迫に押され同意する。


「それとお前の尻を揉ませろ」

「はい!・・・ってええぇ!?」


 ジャネットは自分のお尻を押さえながらディケイルから距離を取った。


「冗談だ」

「で、ですよね」


 ジャネットは少し困惑しながら苦笑いをする。


「ああ、お前は胸の方が揉み心地良さそうだ」

「そっちですか!?」


 まさかの回答にすっとんきょうな声を出してしまう。


「冗談だ。まぁ、あいつに見てもらう予定だった生徒は2人だけだから安心するといい」

「そ、そうですか」


 ジャネットは変な汗をかきながら、返事をする。


「どんな子なんです?」


 専任教師が就くのは問題のある生徒と聞く。

 だから、どんな子を担当するのか気になったのだ。


「1人はソフィア・ミールという名の少女だ。この子はギフトがないらしい」

「え?ギフトがないのですか?」


 そんな子は見たことないので驚いてしまうジャネット。


「みたいだな。もう1人はココナ・ユースフィアだ。こちらはギフトが厄介でな」

「厄介・・・ですか」


 厄介なギフトは確かに存在する。


 例えば『癒し』のギフトだと、攻撃魔法も治癒魔法になってしまったり、『熱』のギフトだと、その人の周囲まで暑くなってしまったりするのだ。


「ああ。本来、ギフトの内容は人に教えないものなのだが、ユースフィアからはどのようなギフトなのかを直接聞かされた」

「そ、そうなんですか」

「ユースフィアからはそのギフトの扱いと、何のギフトかを調べてほしいとのことだ」

「わかりました。期待に応えられるよう頑張ってみます」


 ジャネットは気合いを入れて、その仕事を請け負うのだった。



 ☆     ☆     ☆



「・・・・・・・・リアン・・・かぁ」


 私は枕元で丸くなって寝ている黒猫、リアンを見て呟いた。


「不思議な猫さんだなぁ」


 人の言葉を理解して、文字を書いて自己紹介をして、私の愚痴に反応したように使い魔契約を承諾してくれたり。


「まるで人間みたい」


 私はそう考えるが、人間が猫になるなんて聞いたことがないから、すぐにその考えは消えていく。


「・・・リアン、ダメダメな私だけど、これからよろしくね」


 私が優しくリアンの頭を撫でると、耳がピクッと反応する。


 私は今日から1人ではない。


 そう考えると、明日からが楽しみになってきた。


「おやすみ、リアン」


 気が付くと、私は夢の中へと入っていった。

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