第一話 眠らない工場の密室
テーマ:密室
眠らない工場の密室 1
「おい
と、ラーメン屋で椅子に座るなり
「お前なあ、ラーメン屋でカップラーメンの話すんなよ」
俺が返すと松任谷は平気な顔で、
「いやカップラーメンとラーメンは別の種類の食いもんだから。そもそもカテゴリーが違う」
「お前の意見よりも店長の意見の方が重要だと思うがな」
あくまでも俺は常識人である。松任谷と一緒にいるせいで出禁になっても困る。
「ちゃんと店に食いに来てるじゃねーか。ああ俺大盛り全部増しね」
ここ俺たちの行きつけのラーメン屋はいわゆる二郎インスパイア系で、本家よりややマイルドかつ煮干し風味が強い。大盛り上等、普通盛りと変わらない値段なので人気だ。
「俺は普通盛り野菜増し背油少なめ」
「なんだ相楽、
「ラーメンに戦闘的も
「なるほどなるほど」
なんか恥ずかしくなってきたので、話題を変えることにした。
「で。どん兵衛がなんだって」
松任谷はわざとらしく辺りを見回して、
「なあ相楽、ラーメン屋でカップラーメンの話をするのもどうかと思うぜ」
「お前が! 振ったんだよ! 話を!!」
こいつと話してると、たまに動かなくなるまで鉄棒でぶっ叩きたい衝動に駆られる。
これが殺意というものだろうか。
「この前、弟が社会見学とやらで半導体というかLED照明を作ってる、でっかい工場に行ったんだと」
と相楽が話を続ける。
「外に液化窒素の大きなタンクがあって、ドライアイスみたいに白い煙がもくもくと這っていて、『歌手のステージごっこ』してて引率の先生に怒られたとか」
「血は争えんな。ああ、LLエレクトリックか。川沿いの」
「なんで知ってるんだ」
「こんな田舎に半導体系の大きな工場って言ったらその辺だろう」
「まあそうか。んでお土産にと先方が用意してくれてた安っぽいお菓子の詰め合わせの中にグリーンカレーどん兵衛が入ってたと」
「ちょいちょい失礼だよなお前。それを兄の権限で横取りして食った」
「辛さは十分なんだが、『うどんの汁』とういう前提なんで水っぽくてな。ただブロッコリーが入ってたのは評価する。カップラーメンにブロッコリーを投入する勇気!」
「なあ松任谷。盛り上がってるところ悪いが、ちょっと黙れ」
「何だよ」
ラーメン屋に申し訳なさそうについてるテレビが、ニュースを伝えていた。
「○○市、LLエレクトリック工場の情報管理室で、バラバラにされた遺体が発見されました。遺体は行方が分からなくなっている工場長のものとみられ、捜査が進められています――」
「おい相楽、弟に自首するよう説得したらどうだ」
「小学生に大人を処理できるかよ」
「そんなこたあ判ってるよ。冗談だ」
「なんでLLエレクトリックなんだ。縁起が悪いな」
「お前は存在自体が縁起が悪いと思う」
「俺じゃなくて弟だろ。ただなあ……」
「心当たりあるのか」
「あくまでも弟を犯人にしたいのか。弟の話だと、工場の入り口にはセキュリティがかかってて、非接触式のカードで開錠する仕組みなんだと。おそらく記録は残ってるから警察は真っ先に調べるだろ」
「そうだろうな。まず確実に内部の犯行だろうし」
「まだ犯人が確定してないってのは、何故だ?」
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