食材世界。

坂戸樹水

第1話

 この地球は、食材が住まう。

沢山の食材が、意志を持って生活している。


 プチトマトである私は『キミは甘すぎるんだ』何て、上司のレモンに毎日どやされるんだけど、どの辺が甘いのかサッパリ分からないから聞き流す。

コロコロ転がってたまに傷を作ってしまうのだけど、自然や世界ってそんなもので、

キレイばっかりじゃいられない。

トマトなのに、何だか錆びそう。(トマトは酵酸化作用があるのにね)


 そんなある日、幼馴染みの伊勢海老チャンが私のハウスに遊びに来た。



「私、結婚するの!」



 この第一声には驚いたけど、わざわざ報告しに来てくれたんだ。

何か、嬉しい。


「へぇ、おめでとう! お相手は?」

「サーロイン君!」

「そう! って、……え? サーロイン君と?」


 伊勢海老チャンとサーロイン君は、食材祭りで知り合った。

お互い名品だった事もあって、意識しあったみたいで、

アッと言う間に意気投合して、アッと言う間に付き合う事になったっけ。

ちなみに、私もその食材祭りに呼ばれてチョロっと添え物で参加したのだけど、

誰にも見向きされずに終わってしまった。


 私、物見知りなんだ。


「プチトマトぉ、式には必ず出席してね!」

「勿論だよ!」


 幼馴染みの晴れ舞台。見ない訳にはいかないよ。

名品である伊勢海老チャンの友達として、恥じる事なくキレイに磨いてピカピカにして行こう!


 式の当日は天気も良くて、海をバックに伊勢海老チャンはキレイに輝いて、何だか安心した。

実は、サーロイン君との結婚を聞いた時、私は ちょっと、何て云うか……


 合うのかな?


 って。そんな風に思ったから。


 だって、そりゃ、サーロイン君は肉業界では注目を浴びているけれど、

伊勢海老チャンだって、海老業界では目立つ存在で……

その辺はお似合いなのだけど……

トマト業界ではプチな私が、兎や角 云う事じゃないけれど……


「質が合わないって言うか……」


 思わず口から飛び出していた、私の独り言。あぁ良かった。誰も聞いてない。

折角の良き日だもの、2人の門出を祝う事に専念しよう。


 そうして、お祝いも二次会になれば、何となく場の空気に飲まれる。

友達の1人くらい出来ないかな……贅沢を言えば、ステキな方とお会いしたい。

私だって、恋愛したい。

例えば、長ネギのような渋い方。逆に、金柑のように、私と目線が合う方。

そんな方を期待しちゃう。

だから、物見知りは隠して、なるべく多くの皆サンとスキンシップ。


 笑顔。笑顔。笑顔。それなのに……


「隣に座ってもイイかなぁ?」

「え!? ぁ、はい! どうぞ!」


 何故か、たまごチャンとお友達になっちゃった。

でもね、このたまごチャン、とてもステキな たまご何だ。

真っ白でツルツルで、ちょっとやそっとじゃ傷にもならないような美しさ。

磨き抜かれている! そんな感じがした。お姉サマと呼びたい。


 ステキな彼氏候補とは出会えなかったけれど、ステキな友達が出来たから、

今日の結婚式に来て本当に良かったと思う。

頑張って笑顔でいて、良かったと思う。


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