かりそめの止まり木

@Wakeupfront

第1話 バー「扉」のはじまり

一枚板のウッドカウンター、6席の客席、三段の陳列棚。キッチンは無し。

バー「扉」はおよそオーセンティックなバーとして必要となる最小限だけで構成された店だ。

カウンターに立てる者は一人きり。

そのカウンターに立ち、芦原雄一はこれからの始まりに思いを馳せていた。

バー「扉」の営業はこの日が初日。

営業開始となる19時にはまだ少し時間がある。

氷の準備は終わっている。フルーツの仕込みも終わった。グラスも何度も磨いた。近隣の店舗への挨拶も済んでいる。準備は万端であった。少なくとも雄一が思いつく限りのことはやったつもりだ。

オーナーからは利益は求めていないとは言われている。そもそも雄一は正社員ではなくアルバイトだ。そのアルバイト一人に開店を任せる時点で尋常ではない。が、それでも出来る限りをやるのが勤めであろう。


「よし、これから頑張ろう」


19時5分前のところで雄一は気持ちを引き締めた。

遂に始まるのだ。

開店に併せた広告なんかは殆どやっていない。

むしろ広告は極力控えろと言われている。

そのため、開店したとしても客は疎らであろう。

もしかしたら1日に1人も来ないかもしれない。

そうは言っても、営業中を示すランプを灯す時には緊張するものだ。


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