桜の木の下には

カゲトモ

1ページ

「桜ってさぁ、思っているよりピンクじゃないわよね」

「あー、確かに」

 桜=ピンク色ってイメージがあるけど、実際見ると意外と白っぽくてびっくりする。あぁこんな色だっけって毎年思っているような。

「なんか、満開になるにつれて薄ピンクから白になるんですって。昨日お客様が言ってた」

「へぇ」

 白っぽいピンクの花が丸まっているから、蕾はピンクなんだろうか? 考えたことなかったな。

「でもいい天気になってよかったわねぇ。晴天よ、晴天」

「むしろ暑いくらいだっての」

「いいじゃない、暑いくらいの方が。ビールが美味しくなるでしょ」

 春の陽気、と言うにはいささか暑過ぎる日差しを浴びて、ミケと歩いているのは桜並木の美しい公園だ。店の近くの桜はまだ満開ではないものの、少し南に向いて電車で走れば驚くほど木々は花を付けていた。この情報をくれたのも、さっきミケが話していたお客様だそう。だからこそ、昨日の夜に『明日お花見行くわよっ!』って急な連絡が入っていた訳で。ミケとの花見は毎年の恒例だ。

「用意してなかったから大したつまみ作ってないけど」

「いいじゃない、いいじゃない。あたしだって大したもの持って来てないわよ」

「まぁ酒があればいいか」

「もしつまみが欲しくなったら、近くのコンビニまで行ったらいいじゃない。ちなみになに持って来たの?」

「タケノコガーリックバターソテー」

「絶対に美味い奴」

 タケノコご飯にでもしようと昨日の昼間に買ったやつだ。ナイスタイミング。

「ミケは?」

「あたしは乾きものと、枝豆茹でて来たわよ」

 そう言ってミケが見せた袋は結構膨らんで見えた。重くないの?

「結構持って来たな」

「今回は人数が多いしね」

 確かに、俺もそれを見越してポテサラとだし巻も結構多めに作って来た。今日はミケの店のスタッフと合同の花見で、いつもより参加人数が多いから。うちのバイトも来ているし。

「ミヨが場所取りしてくれてんだっけ?」

「そうそう、あの子今春休みだから。昨日休みだったし、俺が行きますよーって言ってくれて」

 大学生も春休みだもんな。若い子が動いてくれて助かるわー。

「朝早くから悪いな」

「その分手ぶらで良いって伝えてあるからね。他の子は参加費貰うし」

 まぁ、飲み物の調達は自分らの店からだしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る