発明品の利用法

 ちょっと変わった機械が完成した。


 一定の空間のみ温度と湿度を完璧に調整できるものだったのだが、それはエアコンと何が違うのかと問われそうである。炬燵だって湿度はともかくとして温度はある程度一定に保つことができるのだ。

 この装置のすごいところは、仕切りを必要としないところである。まるで空間を切り取ったかのように指定した部分のみを変化させることができるのだ。


 この機械を発明した彼はいろいろな企業に売り込みを開始した。温度と湿度をコントロールすることが必要とされる分野を徹底的に調べ上げて、この装置がいかに素晴らしいのかを説明して回ったのだ。


 ところが、どの企業も首を縦に振ることはなかった。

 どこに欠陥があるのか彼にはさっぱり分からない。機械としての欠陥は見当たらないからだ。断りの文句も「当社には夢のような機械ではありますが、設備投資分の資金をすべて使い切ってしまうので」という当たり障りないものだった。


 たしかに装置価格は安くない。しかし、試算によれば長期的に考えると非常にお得となるはずだった。保管する建物そのものを借りる必要もなければ建てる必要もない。賃料や固定資産税がかからないのだ。


 彼は決定的なことを見落としていることに気づかない。建屋がないということは、誰でも簡単に侵入できてしまう。大切な商品を泥棒に開放しているようなものだ。

 本質的な理由に辿りつけない彼は、売り込んでは失敗したあらゆる企業を恨んだ。


 そして梅雨が明けた頃の夜、凶行に及んでしまう。

 断りをいれた人たちの家を指定して温度と湿度を人間が住める環境ではない設定にしたのだ。


 翌日、変死体として発見される。

 彼は気づいた。この機械のお金になる利用法を。


 次の日から、彼は世間から姿を消した。

 そして裏の世界に生きることとし、莫大なお金を手に入れる──

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