第20話 告白しました
「コータさん!!!!!!!」
「………さく、せん……せーこー………だぜ…………」
あ、だめだこれ。顔が濡れて力が出ない状態だこれ、意識飛びそー。見たかよ、あのイリスの眼。涙ぐんでたな。俺ってば泣かれたんだな。
薄れゆく意識の中、イリスの顔を思い浮かべる。さっきまで、殺気に満ち溢れたような目から、一変していた。一体、何の目かは解らんが。
……未来どころか…人まで変えちまったぞ。俺って以外とすこいんじゃね?
イリスがこっちに向かって必死になんか言ってるけど、全く解んねえ。焦ったときの顔もかわいいーな。
て、おいこら、犬ども。そんなゆっくりきて焦らしてんのか、さっさとサクッとしてくれたほうが嬉しいんですけど。だって俺ってば生きるって決めたから動けない今がチャンス何すよ。動けちゃうと俺暴れちゃうからさ!コータ流奥義コボウ術使っちゃうからさ!
現在、魔獣と魔熊が餌を巡って睨み合っている。
向こうに逝ったら、なんて言われるだろうな。褒められるかな、いや褒められるな、うん。こんだけ頑張って、女の子だって助けたんだ。
早くみんなに会いたいな………………そう、なのかな。
家族に一秒でも早く会いたい。これは本当だ。……だけど。
視界が暗転する。意識が奥へ奥へと沈む。
目を開けたとき、俺はどんな顔をするかな。
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助けないと!!
コータさんを助けられるのは、私しかいない。でも、身体が言うことを聞かない!
「動いて!動いて、私ぃ!!動いてよぉ!!」
イリスの『スキル:自然治癒』によって意識は回復したが、逆にそれがイリスにとって地獄を叩きつけるスキルになる。
獣化どころか、動くことすら出来ない。出来ることといえば………必死に彼の名を呼ぶことのみ。
「誰か、お願い!助けてぇええ!!!」
来るはずがない。結界に入っているとはいえ、ここは森の奥。わざわざここに来るものはスパイなどの類の者しかこない。
「コータさん!………!……意識が……ない………?」
なぜこんなときに、私は動けないの!!このままじゃ……………また………………。
”ゴミが粋がるんじゃねぇよ。お前は所詮無力な生ゴミなんだよ”
あの日から、私が人を信じたことはない。あの日受けた屈辱と現実は、私の脳に焼き付いている。私が人に心から思い入れすることは、ない。
けど違った。
彼が私を庇って魔物に立ちはだかった瞬間、背中が大きく見えた。心の底から安堵と安心感が湧き上がってきた。まるで自分が吟遊詩人の歌にでる、姫君になったような気さえした。姫を颯爽と助ける騎士、それが彼と重なった。
彼に抱え込むように持ち上げられたとき、心臓が口から飛び出るかと思った。夢見る馬鹿な吟遊詩人の夢物語を思い出した。でも、その通りだった。本当の騎士様はか弱い乙女を抱きかかえながら、守りながら戦うのだと。世界中の吟遊詩人には頭が上がらない、と強く反省するほどに。
私は出会ったときからどこかで、彼に惹かれていた。
私は心の底から欲した。彼を知りたい、彼と一緒にいたい、彼と肩を並べて歩きたい、彼に触れたい、彼に求められたい、彼が欲しい。初めて願った。
この短い時間で、沢山のことに気付かされた。初めての感情も芽生えた。初めて欲求心が出た。もっと別の出会い方、接し方をしていればこんな気持ちには早く気づけただろうか。今は変わっていたのだろうか。それでも私は。
私はコータさんが好き。
目の前で想い人が魔物に囲まれてる。
地面に倒れ伏せている私に出来ること。
「……う…………く、…………」
そんなの、考えるまでもない。
「私、が………コータさん、を…………」
出来る出来ないじゃない。やるんだ!!
「助ける!!『自然治癒』!!!」
全神経を自然治癒に集中させて、回復速度を急速に速める。身体の傷がみるみるうちに修復され、元の美しい白肌に戻るが、体力の消耗や出血した分の血はどうにもできないらしい。依然と苦しそうに、イリスは肩で呼吸する。
だが、今のイリスにそんなことはどうでもいい。その瞳に宿しているものは、ただ愛する人を助けたい一心。それが、イリスの原動力。
結界の位置にいたイリスは、魔物たちに囲まれているコータの下までひとっ飛びで到着する。仰向けに倒れて気を失っているコータをみたイリスは
「私はあなたを愛しています」
桃色の唇を頬に当てる。
それは、短く長い口づけ。
「コータさんのほっぺた、柔らかいんですね」
早速、コータを知れたことに嬉しくなって微笑を浮かべるイリス。
愛しています。それは、一言では足りない愛の言葉を、状況と差恥感ですり減らした愛の告白。
それから、コータの顔を見て頬を赤らめてから、周りの魔物を見渡すと。笑みを浮かべて。
「この人を食べていいのは、私だけです!!固有スキル『獣化』!!!」
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