29日目
風歩日記。……深夜、教会。私は息を潜め物陰に隠れる。突然教会の電気が消え、教会の扉が開いて何者かが飛び込んできた。その誰かは一瞬で神父の前まで間合いをつめ何かを神父に向かって突き出した。教会のステンドグラスの向こうから月明かりがその何かを鈍く光らせる。鈍く光るのはナイフ。
風歩日記。……神父はそのナイフを手に持っていた聖書で受けた。ナイフが聖書に深く突き刺さる。神父はナイフの突き刺さった聖書を投げ捨て侵入者を思い切り殴り飛ばした。侵入者は顔面を殴られ床に倒れた。神父が倒れた侵入者に襲い掛かろうとした瞬間。何かが爆発する音。神父が倒れた。
風歩日記。……神父が膝をついてその場に倒れる。音のした方を見ると小さな陰が見えた。窓から入る光が小さな陰の持つ黒光りする金属の物体を照らす。鈍く黒く光っていた。暗くて見えないけれど神父は地面に倒れたまま動かない。「アリス」沢代君の声が聞こえた。「なあに、お兄ちゃん?」
風歩日記。……「もう止めるんだ。こんなことしちゃいけない」「どうして? 人を殺すのってとっても面白いよ? さっきまで元気に動いていた人もわたしが引き金を引くだけで動かなくなる。電池が切れたオモチャみたい。お兄ちゃんも、死んでみる?」そう言ってアリスは銃口を沢代君に向けた。
風歩日記。……アリスはクスクスと笑いながら沢代君に向けて銃を構えている。沢代君はアリスに向かって説得を続けている。私に出来ることは何? アリスは人を殺すことを楽しんでる。利用されているんじゃない。自ら望んで人を殺している。そんな子供をどうやって説得すればいいの?
風歩日記。……突然沢代君が倒れた。アリスは銃を撃っていない。神父に殴られた侵入者が立ち上がり後ろから沢代君を殴ったのだ。沢代君は床に倒れ侵入者は沢代君に馬乗りになり首を絞める。その時侵入者の顔が窓から差し込む光に照らされた。ばっちゃんの喫茶店の向かいのとんかつ屋のおじさんだった。
風歩日記。……「やめて!」私は叫んだ。沢代君の首を絞めているとんかつ屋のおじさんとアリスが私の方を向いた。おじさんは驚いていた。アリスは私に銃口を向ける。おじさんがアリスに「撃つな」と命じる。アリスは銃を下げた。「風歩ちゃんだってコイツが憎いだろう!」「違う! あの時……」
風歩日記。……沢代君が首にかけている携帯電話の画面が見えた。そこには「ある程度のところまでやったら力を抜くからそのタイミングで逃げろ」という内容の文章が書いてあった。沢代君が考えた最後の手段だった。10年前に商店街が抱えた闇。アリス。アリスに会うために沢代君が選んだ最後の手段。
風歩日記。……最後までやれと、挿入して犯せと、沢代君に命じたのは私。私が犯すように命じた。そうしなければダメだと思った。そうしなければ沢代君はアリスに会えないと感じた。最後までしなければアリスは動かない、そう判断したから沢代君の耳元で囁いた。いれろ、と。だから沢代君は私を犯した。
風歩日記。……「私が命じた。あれは私の責任」私の言葉におじさんは動揺した。沢代君の首を絞める力が弱まった。その瞬間、沢代君は右手を動かした。その手にはナイフが握られて。「ダメ!」私は叫んだけど沢代君はおじさんの脇腹にナイフを突き刺した。引き抜いて何度も腹をナイフで突き刺した。
風歩日記。……沢代君の上に馬乗りになっていたおじさんはナイフで腹を何度も突き刺されて、力なく倒れた。沢代君がおじさんの拘束から逃れて立ち上がる。その瞬間。また大きな音が聞こえた。立ち上がった沢代君が再度倒れる。「動かないでよお兄ちゃん。狙いが外れちゃうじゃない」アリスが銃を撃った。
風歩日記。……私は沢代君に駆け寄る。沢代君は床に倒れて呻き声を上げていた。撃たれたのは太ももだった。沢代君は仰向けになりその後上半身を起こしてアリスの方を向く。「もう止めるんだアリス。お前を守る大人はもういない。このまま続ければお前は……」「それがどうかしたの?」アリスが答えた。
風歩日記。……「くだらないことでわたしの邪魔しないで」アリスはそう言って銃口を今度は私に向けた。私は怖くて身体が硬直した。「止めろアリス!」沢代君が叫ぶ。「もうわたしに命令するうるさい人もいなくなった」そう言ってアリスは私に銃口を向けた銃の引き金を引いた。大きな音がした……。
風歩日記。……私は死んだ。そう思った。でもアリスが銃を撃っても私は死んでなかった。私は何が起きたのか確認する。音がした瞬間。アリスが倒れた。教会の扉の方を見る。扉は開けっ放しになっていた。ひとりの陰が見えた。月明かりがその人物を照らし出す。そこには銃を構えた青先輩が立っていた。
風歩日記。……「ゲームは終わりだ。アリス」青先輩はそう言って倒れたアリスに近づく。「止めろ……止めろ!」足を撃たれた沢代君が這いつくばりながらアリスに近づこうとするけれどそれよりも早く青先輩はアリスの隣まで来ていた。「死ね」そう言って青先輩はアリスの頭に向けて銃を撃……「待て!」
風歩日記。……声を発したのはアリスに撃たれて倒れていた日比野神父だった。「待ってろ。アンタもアリスの後に殺してやるから。何せ妹の仇だからな」青先輩は銃口をアリスの頭に向けたまま神父にそう言った。「待て、お前の妹、青野紫歌は生きている」神父はそう言った。「だから止めろ……復讐など」
風歩日記。……「10年前。初代アリスの青野紫歌を殺しかけたのは事実だ。だが紫歌は死んではいなかった。そこで私は治療を施し教会のネットワークを使って孤児ということで紫歌を青森の田舎に預けた」神父は息も絶え絶えにそう言った。神父の腹から血が流れていた。明らかに出血量が多かった。
風歩日記。……「私の部屋の机の引き出しに写真と手紙がある。紫歌を引き取った先から送られてきたものだ……」神父の声は段々と小さくなって言った。もう身体を起こしておくことも出来ない様子で床に突っ伏して倒れながらの言葉。「青野紅歌……すまなかった……それと……後は任せる……」
風歩日記。……それが日比野神父の最期の言葉だった。青先輩は迷っていた。銃口をアリスの頭に向けたまま迷っていた。するとアリスの上に何かが覆いかぶさった。沢代君だ。沢代君が這いつくばったままアリスのところまで行って、アリスに覆いかぶさった。「お前ひとりを死なせはしない」沢代君……。
風歩日記。……青先輩は銃をしまって携帯電話を取り出した。そして電話をかける。すると数人の黒服が教会に入ってきた。「おい、風歩。死体はこれだけか?」青先輩に尋ねられた。私は混乱していて何を言っているのか分からなかった。反応しなかったら青先輩に引っぱたかれた。私は正気に戻った。
風歩日記。……青先輩が呼び込んだ黒服の動きは迅速だった。死体を片付けて血の痕跡を綺麗に消した。沢代君とアリスも黒服が連れて行った。残されたのは私と青先輩。「余計なことに首突っ込んで疲れただろ。モモに連絡してやるからさっさと帰って寝ろ」私は青先輩の言葉に従うことにした。
風歩日記。……まだ深夜。教会でのことは長かったような気がしたけれど実質それほどの時間は経っていなかった。でも日比野神父ととんかつ屋のおじさんは死んで沢代君とアリスは重傷。私と青先輩は無傷だったけど、運が良かったとしか思えない。いや違う。私はおじさんや青先輩に守ってもらったんだ。
風歩日記。……モモ先輩の部屋でお風呂に入って身体を綺麗にする。沢代君のことを考えると股に変な感触を思い出す。処女喪失があんなのだとは我ながら馬鹿げている気がするけど私が命じた結果なんだから悔いはない。モモ先輩は私がレイプされたと誤解しているのでその誤解は解いて謝った。それじゃオヤスミ。
なんでも知ってるムジークン。
アリスは思わず息を呑むほどの可愛らしさコポ。
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