50.誘拐



「お前の息子は預かった。返して欲しければ、16年前にやった事を懺悔しろ」


 そんな電話が来たのは、ちょうど家に帰ろうと会社から出た時だった。

 いつもだったら、非通知に設定されたものは出ないのだが、妙に嫌な予感がした。


 しかしまさか、そんな事を言われるとは思わなかった。

 私は持っていた携帯を落としそうなぐらい、動揺してしまう。

 そんな私に気が付かずに、電話の向こう側では勝手に話が進められていく。


「タイムリミットは明日の正午までだ。それまでに懺悔出来なかったら、息子は死ぬ。懺悔は、お前が考えて実行しろ。……私は見ている」


 そして切られてしまった電話。

 私は信じられない気持ちで、携帯を見つめていた。


 これは一体、どうしたらいいんだろう。


 突然の展開に、未だについていけない私は、とりあえず考える。

 警察に連絡する事は、絶対に駄目だろう。

 そうすると、16年前の懺悔をするのが一番の方法かもしれないが。



 私には、心当たりが全くなかった。

 いくら考えても、昔の事を思い出しても、何も無い。

 すでに、もう行き詰まってしまった。





 そしてそこから、私は何かをすることもせずに、約束の時間が来てしまう。


 正午ちょうど。

 また非通知で電話がかかってきた。


「もしもし」


「まさか、何もしないとは思わなかった。そんなに懺悔をするのが嫌か、それとも息子は大事じゃなかったのか。……まあ、いい。俺はうそが嫌いだ。息子は、ちゃんと殺す」


 電話に出れば、また勝手に話を進められる。

 私はそのまま聞いていて、何も話さなかった。


「いいんだな。……ちゃんと殺した。あとで遺体をおくる。はは、お前何も言わないんだな。やっぱり、そういう奴だよ」


 そうすれば向こうで、何だかガッカリされる。

 そのまま電話が切られてしまいそうだから、最後に私は聞いた。













「あの、私に息子なんていないんですけど。それにあなたは誰ですか?」




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