40.危険な人
この人と一緒にいたら絶対に不幸になる。
私が今の夫に会った時の第一印象は、こんな感じでとてつもなく悪かった。
見た目は好みのタイプで、性格も表面上は優しかったにも関わらずだ。
どこか危険な雰囲気を感じながらも、私は彼に急速に惹かれていた。
それは彼も同じだったようで、お互いに運命の人だと思い、そう時間の経たないうちに結婚した。
周囲の反対が無かったわけではないが、その全てを彼は解決してくれて、最後にはみんな賛成派になった。
それから数年が経ったが、未だに私達はラブラブカップルである。
毎朝、彼の食事を作っている時、とても幸せな気持ちになる。
私の作っている全てが、最終的に彼につながる。
それの何て甘美な事だろうか。
鼻歌を歌いながら、私は簡単ではあるが数品を作り上げる。
そして手際よくテーブルに並べれば、ちょうど彼があくびをしながら起きてきた。
「おはよう。」
「おはよう。美味しそうな香りだね。」
私が笑顔で挨拶をすれば、彼も穏やかに微笑んで返してくれる。
こんな些細なやり取りだけでも、幸せでしかない。
友達に言うと、のろけだと呆れられるが、本当の事なんだからしょうが無いと思う。
「今日は早く帰って来るから。」
「そうなの。じゃあごちそうを用意して待ってるから。」
「君の料理はいつも美味しいから、楽しみだなあ。」
久しぶりに彼が早く帰って来ると聞いて、私の気持ちは高まる。
これは腕によりをかけて、色々と準備をしなくては。
彼を玄関先まで見送ると、気合を入れた。
あらかた準備は出来たな。
私は満足すると、疲れていたのでソファに横になった。
少し仮眠を取ろう。
そう思って目をつむったのだが、いつの間にか深い眠りについてしまっていた。
次に覚醒したのは、自然とではなく息苦しさと首への強い圧迫感のせいだった。
「かはっ!」
私は目を見開いて、首を絞めている犯人の腕を掴む。
そうすればそこにいたのは、無表情の夫の姿で。
目が合うと、更にぎりぎりと力を込めて来た。
呼吸が出来ない。そのせいで、私の視界はどんどん狭まっていく。
このままでは死ぬ。
そう思った私は、懐に隠し持っていた簡易的なスタンガンを取り出して、ためらいなく彼に押し当てた。
「がっ⁉」
残念な事に失神するレベルの強さでは無いのだが、手を外す事には成功する。
私は慌てて距離を取って構えた。
彼もこちらを睨んで、お互いに膠着状態が続く。
このままどう動くべきか。
私が更に取り出そうとした手は、ぐーっという間抜けな音のせいで力が抜けた。
「お腹減ったな。」
音の方を見れば、恥ずかしそうにお腹を抑える彼の姿。
それを聞いて私は、気持ちを切り替えて笑う。
「そうね。ご飯にしましょうか。」
そしてスタンガンをしまうと、家の中を見て用意していた物のほとんどが不発だったのを確認した。
今回も、彼に傷1つつける事は出来なかったみたいだ。
それは向こうも同じなので、お互い様か。
私は床に落ちているごみを急いで片付けると、食事の準備を始める。
「次は必ずやるから。」
「それはこっちの話よ。」
そうしていると後ろから、彼が言葉を投げかけて来た。
私は彼を見ることなく言い返すと、さっさとその場から離れる。
彼との生活は刺激的で、生きているという実感が凄くわく。
だから、最初の不幸になるという第一印象は間違っていた。
たぶん死んだとしても、私は不幸だとは思わないはずだ。
こんなにも楽しいのだから、絶対にそう言い切れる。
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