7.いれもの
人の美醜が、僕にはどうでも良かった。
別にいれものなんだから、それで何が変わるかなんてどうしても思えない。
「それでも一緒にいるんだったら、綺麗な人が良くないか?」
「いや、全く。」
「はー。そうですか。」
放課後の教室でまどろんで、僕達はそんなくだらない話をしていた。
げんなりした顔をしているのは、クラスメイトで一応友達である三森。
根っからの面食いで、中身よりも外見が大事だと大っぴらに言う最低な奴だ。
趣味趣向が正反対の僕達だったが、何故か馬が合った。
「つくづくお前とは全く合わないわ。」
「それはお互い様だな。」
お互いに脱力しながら笑いあって、その日は解散した。
次の日、三森はニヤニヤしながら一冊の雑誌を片手に持ってきた。
「お前が綺麗なものの良さを、分かるようにしてやるよ。俺のお気に入りだ。」
そう言って渡してきたのは、所謂グラビアというもので。
僕はパラパラとページをめくると、すぐにそれを返した。
「感想は?」
「特に何も。」
読み終わった僕を期待した目で見てきた三森に感想を言えば、信じられないものを見るような顔をされる。
「嘘だろ?お前、これ見て何も思わないなんて、男としてどうかしてんじゃないの?俺の厳選した、おすすめだぞ?」
「うるさい。周りの目を少しは気にしろよ。」
彼が騒いでいるせいで、周りの特に女子の視線が痛い。
別にそこまで気にするわけでもないが、一応世間体というものを考えてだ。
しかし三森のテンションはおさまらずに、僕の肩をがしりと掴む。
「そんな事はどうでもいいんだよ!俺はお前の将来を心配して言っているだけなんだ。」
真剣な目をして言ってくるが、内容は本当に最低だ。
僕はその意味を込めて、冷たい視線を向ける。
「別に僕は構わないから。いらない心配だよ。」
「はー。本当に心配だ。」
三森は深いため息をつき、そして手を離した。
掴まれていた肩は少し痛みを訴えている。
それを特に何も言う事なく、僕は手で肩をはらった。
「俺が汚いみたいにするな。」
「気のせいだよ。」
ちょうどチャイムが鳴ったので、首をすくめると静かに席に戻る。
その間、ずっと三森は僕を見続けていた。
彼の言う警告を聞こうとしなかったから、こんな事になっているのか。
目の前の惨劇に、僕は言葉が出なかった。
「どうだ?綺麗な奴の方が、やっぱり良いだろう?」
たくさんの死体が倒れた教室。
その真ん中で、1人の女子生徒を顔を持った三森が僕を見て笑っている。
この惨劇を作り出したのは彼だった。
どんな状況でこうなったかは分からない。
僕がいつも通り、教室に来た時はすでにこうなっていた。
それからあまりの驚きに逃げられず、ただただその場にずっと座り込んでいる。
三森は何をしていたのかというと、クラスの中で綺麗だと評判の女の子を持ち上げては僕に見せる。
そして言うのだ。
綺麗な方が良い、と。
それに対して何も答えなかった。
だから段々と、彼の機嫌は悪くなっていく。
「何だよ。お前の為に、せっかくやったんだぞ?反応してくれよ。」
顔は笑っていても、目が笑っていない。
そしてナイフを片手に、僕に近づいてきた。
「なあ。何か言えよ。」
僕はようやくショックから立ち直ってきて、周囲を見回す余裕が出てくる。
だから教室を見回して、そして素直な感想を三森に投げつけた。
「特に何とも思わない。こんなの、ただのいれものが並んでいるだけじゃないか。僕にとってはみんな同じだ。」
これは彼の機嫌を損ねてしまうかな。
僕は冷静に自分の死を覚悟した。
しかし予想を裏切って、三森の機嫌は直った。
「せっかくここまでしたのに。本当、お前ってつまらない奴。」
彼は持っていたナイフをためらいなく投げ捨てて、そして僕に手を差し伸べる。
「今回は駄目だったかもしれないけど、絶対に認めさせてやるからな。行こうぜ。」
その手を見つめ、しばらく考えたが結局その手を取った。
「まあ。少しだけならね。」
立ち上がり三森の隣りに並ぶが、たぶんこれからも考えが変わる事は無いだろうなと思う。
それでも僕の知的好奇心の為に、彼に働いてもらうのも悪くないかもしれない。
飽きたら彼にはただのいれものに、なってもらえばいいだけの話だ。
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