視界
「あの植物の名前を、君は知っているかい?」
私は首を横に振った。
「あれは、ナミダソウ。あの植物の香りを嗅ぐとなぜか涙が出るんだ。ほら、せっかくだから君もかいでごらん」
私は先生に言われたとおり、瞳を閉じてその植物の梢についた小さな蕾に鼻を近づけた。
その刹那、鼻の先から直接瞳に吹き付けるような香りが、私を襲った。それは甘くもなく、臭くもない。ただ、なんだか懐かしい。
すると、先生の言ったとおり、私の瞳から一筋の涙がこぼれた。
「涙は華の蜜。その涙に誘われて、多くの蜜蜂たちが集うだろう」
私が再び瞳を開いたとき、眼下に広がっていたのは大切な先生の笑顔だった。
なぜ、私が涙を流したのか。
視界の中、薄れていく先生の笑顔を見て、なんとなくわかった気がする。
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