"居場所"

いそじん

第1話 "居場所"---

「最悪だ。死んでしまいたい。」


 そう考えるようになったのはいつからだろうか。…きっとあの時からだろう。

 私は大学一年生になりたての頃、付き合っていた彼女を振った。いや、振ったというよりは、信じて手放したというべきだろう。




「卒業後、告白するよ。今は勉強に集中したい。」


 そう言い残して彼女を手放した。当時の私は誰もが知る大手企業に入り、彼女と幸せな家庭を築きたかった。その為に今別れないと、付き合っているうちに勉強が原因で別れてしまっては、もう二度と関係を戻せないと考えていた。


 大学一年生の一年間は首席の座を前期・後期と取った。しかし、元彼女は今何をしているのだろうと気が気でなかった。 SNSで連絡を取り通話をした。久しぶりの声だった。血の滲む努力をした疲れが一気に吹き飛ぶような、そんな感覚だった。---





『私ね、彼氏ができたんだ。』

 ---?聞き間違いではないだろうか?


「ごめん、聞いていなかった。もう一回言って?」


『だから、私、彼氏ができたの。』



 ---どうやら僕の"春"は僕から手放したらしい。冷静に考えればそうだ。一年間まともに連絡もよこさず勉強ばかりしていたんだ。信じていても所詮人は人だ。裾触れ合うも他生の縁、誰と裾が触れ合ってもおかしくはない。


 この時から、私は自分の愚かさを実感すると共に、人を信じることへの嫌悪感を抱いた。


 その後というもの、大学でこれまで通り勉強に励むべきなのか、遊んで楽しむべきなのかわからなくなっていた。







 私は自身の"居場所"を失くしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る