スターゲイザー.6

「まぁとにかく落ち着きなさい。あなたリッケルハイムの糸術が使えるって言っても分家の長女でしょ?一生遊んで暮らせるくらいのお金はあげるから、あなたの糸術で私を助けてくれない?」

雁字搦めにされた状態で逃げ出そうともがくミオに対して、マヒルが提案した。表情は動かさなかったが、耳が動いた。尻尾も揺れた。本家の糸術の適正をたまたま持っていたという理由での糸術を覚えさせられた身分としては非常に魅力的な提案だ。どんな魔術にも威力で勝るのが糸術であるし、他の魔術の影響をほぼ全く受けないというのも強力だ。しかし、威力と範囲が大きすぎる。あんな努力に見合う報酬を支払うと言われれば、どうしても体が反応してしまう。ミオはしぶしぶ――内心うきうきで――全身の力を抜いて、

「分かりました。でも、少しでも怪しい素振りを見せたらここで糸術を使ってあなたを封印します」

と、宣言した。その宣言を聞いて、マヒルは魔術を解いた。体の自由が戻ったのを確認してから、ミオは宣言通り、糸術の展開準備を済ませておく人差し指に針を刺して、血を滲ませる。緊急展開のやり方は右足で連続して足踏みを踏むことだが、通常展開はミオの血を一滴使って、強く念じることだ。全部の動作を合わせると通常展開の方が遅いが、準備を済ませれば通常展開した方が早くて確実だ。何より、一度準備をしてしまえば、緊急展開時のように途中で中断されることがない。

「やっぱりあなたも血を使うのね……」

マヒルのごく小さな声は、ミオの耳に全ては届かなかった。座り直す時の衣擦れの音が邪魔をしたのだ。

「何か言いましたか?」

改めて座り直した二人が、向かい合う。

「いいえ。それで、あなたへのお願いなんだけど、長い説明と短い説明、どっちがいい?」

マヒルの質問に、食い気味でミオは答えた。

「短い説明で」

静かに笑ってから、マヒルはメモを取り出して、言った。

「今からちょっとテレポートしてもらうので、この天球儀を糸術で壊して」

ミオがメモを受け取り、見る。天球儀の絵であった。ミオの見慣れたものとは、随分形状が異なる、不思議な天球儀である。

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