スターゲイザー.4

目を覚ますと、かなり高価なベッドにミオは寝かされていた。起き上がろうとしても体が沈みこんでなかなか起き上がれない。腹筋を使って体を起こし、点検する。着衣の乱れ無し、外套はそこにかかっている。あまり大きな部屋ではなく、杖も二つの鞄も外套と同じ場所に置いてある。盗難防止用の魔術が破られた痕跡もない。ミオが今いる場所はアパートのようだ。ベッドの不必要な大きさの他は、ごく標準的な空間である。生活感は、あまりない。

「あ、起きた?頭痛かったりしない?」

先ほどのプラチナ色の髪の少女が台所から現れた。手には紅茶の入ったカップが二つ。分厚い大きめのタータンチェックの黒いセーターと、何枚も厚い生地を組み合わせて造られたロングスカート。

「魔女の家へようこそ、ミオ。歓迎するわ」

「あ、ありがとうございます」

紅茶を手渡されて受け取り、一口飲んで大きく息をつく。実家リッケルハイム家で飲むものより茶葉が良い。住環境そのものには気を使っていないのに、食事と睡眠には惜しみなく労力を費やすタイプのようだ。紅茶を飲んで、ぼんやりとしていた頭が段々と冴え、先ほどのことが蘇る。

「っ!誘拐犯っ!テロリスト!……魔女ぉ!?」

「ミオ、うるさい。一日寝てたんだからもうちょっとないの?」


あの時、後ずさろうとしたミオを追いかけるように、少女の足元から何とも言えない色の煙が上がり、周囲を包んだ。あの煙を吸った瞬間に視界が歪み、魔術の発動が阻害されたので、有害なガスであることは間違いない。自分のしくじりに舌打ちをしながら外套の裏に仕込んだ『奥の手』を出そうとしたところで、腹部と首筋に衝撃が走って、ミオはそのまま意識を失った。……一日?

転がり落ちるようにベッドから出て、ふらふらと窓を開けると、夜の街を満月が照らしているのが見えた。ミオがこの街に来たのは午前中のことである。

「……あなたが、魔女デイウォーカー?」

震えるミオに、銀髪の少女が不敵な笑みで答える。

「そうよ。歩く常闇、時巡りの魔女、永遠を生きる女。デイウォーカーが一人、マヒル様とはこの私のこと」

聞き終える前に、ミオは右足のかかとで二回、床を叩いた。そして間を置かずに爪先で一回床を蹴ろうとした瞬間。

「リッケルハイムの糸術奥の手は今、私に対して使えないんじゃないかしら」

右足を上げたまま、ミオは固まる。確かにこのまま糸術を使えばこの少女を捕らえることはできる。しかし、糸術は対象以外を切り刻む性質を備えている。こんな狭い屋内で使ったが最後、アパートごと色んな物が木っ端微塵になる。ミオも無事では済まない。諦めて糸術の発動を解除させると、マヒルはにっこりと笑った。人懐っこい、太陽のような笑みである。

「そう、それでいいの。まずはお話をしましょう?とても大事な用を片付けなくちゃ」

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