ヒイラギ.19

女神の話が終わり、神徒たちは持ち場に向かう。各自でノイズデブリの数を減らしていき、本体が出現し次第、集合して倒す。いつも通りの流れだ。

「よぉ、フィリップ。女神の有り難いお話とやらはもう終わったのか?」

背後から声をかけられた。振り向くと、ヒイラギが笑っている。昨日と同じワンピース姿だ。膝が眩しい。

「それで、アイツを一体どうやって倒すんだ?あたしも拳銃コイツを使ってみたけど、傷一つつかなかったぞ?」

ヒイラギはホルスターの拳銃を指さしながらフィリップにきく。フィリップの持ち場はヒイラギの広場の前だ。二人で並んで歩きながら、会話を続ける。その間も、フィリップの目は無意識下でヒイラギを見つめ続けていた。

「当然の結果だ。ノイズデブリというものは何かしらの要因で『女神には破壊できない』という属性が付加されている。ちっぽけな攻撃データでは向こうに上書きされるのがせいぜいだ。だから」

それ故にノイズデブリの効果的な駆除方法もシンプルで分かりやすい。

「だから、僕たち神徒は凄まじい量のデータでノイズデブリを一時的に上書きして、一時的に処理落ちを招くほどに容量を水増しする。そうすれば女神の本能自動プログラムによって区画を丸ごと消去できるという寸法だ。膨大な容量を持つ物など電脳空間ここの存続を妨げる物でしかないからね。どんなものでも消去できるように作られているんだ」

「ふ~ん……」

つまらなそうに相槌を打ってから、ヒイラギは真正面を向いて、何かを考えるように両手をふらふらと泳がせる。一体それはどんな民族舞踊であるのかを訊こうとしたところで、ヒイラギは振り向いた。

「じゃあさ、あたしみたいなヤバいくらい容量食ってる死人と人間モドキの合体みたいなのがノイズデブリにくっつけば、そのまま消去されるってこと?」

口は笑っているが、目は本気だった。

「何を、バカなことを」


今から振り返れば。ここでフィリップはヒイラギを怒鳴りつけるべきであった。もしくは、冗談を言っている場合ではないと笑い飛ばすべきであった。しかし、フィリップの限界は、愕然とした顔で、かすれた声を出すことであった。

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