ヒイラギ.16

「フィリップ。ひとつ良いことを教えてあげる」

女神は立ち上がり、フィリップの義体に通電させて自由に身動きできるようにしてから、椅子に腰かけた。その途中に剣を持ち、物資搬入口の方に投げて、部屋の外に。女神の口調に、先ほどの冷たさは全く感じられない。

「あなたたち神徒だって、私が作りだしたものでない保証なんてどこにも残ってないわ。昔はネルにいる人たちも、地球で頑張ってもらってる神徒たちにも、元になる生命体がちゃんと残ってたんだけど、何百年も経つ内にコピーしたりかけ合わせたりしちゃったもん。もちろん悪意はないわよ?生命に必要なことだっていう結論が、宇宙に行った人たちの経験によってもたらされたから、実践しただけ。でもね」

機械仕掛け全身義体の女神の目から、一筋の涙が流れる。

「神徒と、正真正銘ただのデータに過ぎないヒイラギの出会いのおかげで、あなたはきっと恋をしちゃったみたいなの。とってもクールだと思わない?生命が、永遠に紡ぎ続けるはずの生命の繋がりが断ち切られてしまった後のその世界で、愛とか恋とかそういう美しくって憧れの、とびっきりの光私の生きる価値が見えたのよ?嬉しい。喜ばしい。サイッコーに救われた気持ちよ。女神として生きなさいなんて言われて困り通しで辛かっただけの永い時間これまでが、全部全部ぜーんぶ、大切で幸福な時間に変わっちゃった。私を作った人あの人たちが持てなかったものを、私は手に入れられたの。私にはあなたの気持ちが本当かどうかさえも分からないけど、大事にしたいと思うでしょ?」

涙を拭って、女神は優しくフィリップに笑いかけた。咀嚼しきれない喜びに胸を打たれている様子だ。

それならば、とフィリップは思う。ふつふつと怒りに似た感情が湧き上がってくる。

「それならば、なぜこんな真似を?」

フィリップの問いに、あっけらかんと女神は答える。

「だって、私は独裁者めがみだよ?人の目を見て、その人の全てを知り尽くすまで、信用なんかするわけないじゃん。それまでの時間稼ぎに一番確実な手段を取っただけ」

確かに女神はそういう人物だったと、フィリップは大きなため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る