ヒイラギ.9
ヒイラギと名乗った人物は更に続けた。言葉の端々から「めんどくさい」と「久々に話し相手ができて嬉しい」がちらちら顔を出している。
「あたしは生まれてから12年経つ。生まれた時からずっとここにいるから、ここがどうしてできたのかは知らない。違法だろうがなんだろうがあたしの家だからあんたみたいな無遠慮な野郎は今すぐ追い出してやりたい。ついでに言うと、ここにあたし以外の誰かがいるのは十年ぶりだ。そいつはあたしが今着てるヤツを全部あたしに差し出して首吊って消えた。『お前みたいな男が彼氏だったら幾分私も幸せだったのに』なんて言ってたっけ……」
十年前の都市区画のアーカイブを検索しようとしたフィリップの手が止まった。
「おと、こ?」
硬直するフィリップに首を傾げながらヒイラギはワンピースをたくし上げて中身を見せる。下着はつけてなかった。
「ほら、この生殖器官がついてれば男性なんだろ?」
「待て。状況が整理できてない。ちょっと落ち着かせてくれ」
フィリップの反応がなくなり、約三分間ヒイラギがあれやこれやと動き回り、それでもフィリップは眉一つ動かさないので諦めて立ち去ろうとした瞬間、フィリップは我を取り戻し弾かれたように言った。
「……三分も経てば落ち着いたんじゃないか?」
茶化すようなヒイラギの声に、フィリップはムキになって言い返す。
「君は生まれてから12年なんだろう?ここが電脳世界だということは分かっているか?」
そんな単純なことから言わないとダメか?と呟きながらヒイラギは答える。
「そうだ。あたしは12歳で、ここは電脳世界『ネル』。人間の希望を叶える最後にして最高の楽園。ネルならば両親なんてチャチなものは必要ない。だからあたしにも両親は存在しない。強いて言えば、
口をとがらせて見せるヒイラギに、フィリップは首を横に振った。
「問題だらけだ。君の体は従来のネル人と比べて数十倍のデータ量を持っている。何か
困惑しながらなんとか女神にこれまでの情報を送ると、すぐに返事が返ってきた。フィリップの困り果てている様子に同情したのかもしれない。
「……ヒイラギ、僕についてきてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます