Loves Go On!!~Shootin'Star Train For Anywhere~

留部このつき

ヒイラギ

ヒイラギ.1

誰かの呼ぶ声に、目を覚ます。

「神徒ー!神徒!し、ん、とおおおおおおおおおお!」

聞きなれた甲高い声。眠る前と同じ、無機質な天井とベッド、きちんと並べてかけられた武器一式。十代前半ほどの少女の、甲高い声は止まらない。我らがボス、人類の全て、最後にして最大の希望。通称は『女神ゴッデス』。元々は別の名前を持っていたとの話であるが、永い時の内に忘れ去られてしまい、本人も語ろうとしないため、皆女神としか呼ばない。はぐらかす時だけ見せる大人びた様子が、普段との違いを際立たせる。

「神徒フィリップ!休憩時間を五分オーバーしてるじゃないの!わたし他人に優しく自分に優しくがモットーだから神徒のプライドも大事なの!ほーら、分かったらさっさと起きてきびきび朝の準備ィ!!」

「分かっていますよ、ゴッデス。起こしてくださってありがとうございます」

フィリップは自分の電脳のスリープモードを解除して、義体の回路をアクティブモードにした。小さな駆動音と共に自分の身を起こしてベッドから出る。何一つ余分な物の――小さな窓があるのみでドアもない――この部屋は、古代人が見たら独房と変わりないと言うだろう。ゴッデスは自分にも他人にも優しい。だから自分の外見データを送ることで処理が落ちるとなれば音声データだけしか送らないし、それすらも不便なようであるなら神徒たちの体を乗っ取ってしまう。彼女のことやここのことを知らないのであれば、そのような彼女の行いに眉をしかめるのも頷ける。だが、彼女は人類最後の希望そのものなのだ。彼女の持つ力の強大さを鑑みれば、その程度のことは些細なことだ。

今から遥かな昔、地球上を埋め尽くしてなお繁栄をやめず、滅びの道を猛進する人間は、宇宙開発に飛び立った。その際に、宇宙開発に必要な全てを搭載した超高性能のスパコンを開発した。地球にスパコン同士の通信を仲介させて、新天地を探しやすくすることが目的だった。スパコン彼女たちの言うままに行動すれば誤ちは生じないはずだった。しかし、ままならないのが現実の常である。地球から距離が離れる内に、スパコン彼女たちは一台、また一台と連絡が取れなくなった。亜空間通信によって太陽系の端から端まで一切のラグなく通信が可能な彼女たちが、である。何かの事故にあったか、彼女たち自身の導いた最良の答えがそうだったのか、今となってはもう分からない。兎に角、宇宙開発の望みは絶たれてしまった。

彼女たちに使われた亜空間通信技術の進歩によって可能になった異空間への転移や、時間旅行を試みた者もいたが、女神僕の主人は彼らのその後を語らない。宇宙の果てを目指した旅人と同じ末路を辿ったからだろう。

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