剣聖のフラグメント

文鷹 散宝

プロローグ

「最後の思い出」


【剣聖暦1990年】

 ラタリア城庭園。


 吹き抜ける草原に揺れるタンポポ。

 眩しいくらいの日差しに照らされ、金色の髪がより鮮明に輝き、揺れる……


「おとうさま、おとうさま、みてください、あそこにきれいなお花がいっぱい」


 見た目は六〜七歳くらいの少女は、金色に輝く髪を無邪気に揺らしながら笑顔で男に投げかける。


「あぁ、ホントだなぁ。こんな日はピクニックにでも出掛けたい気分だ」


 銀色の鎧を身に纏い、背中から膝下辺りまで青色のマントがなびかせているその男は、髭をなじりながらも朗らかな表情で答えた。


「それでは今からいきましょう。ぜひ、おかあさまといっしょに」


 娘の唐突な提案に髭を触っていた手が一瞬止まり、少し困った表情になる。


「すまんなリリア。お父さんは、今日もお仕事に行かなくちゃ行けないんだ」

「も〜!次のお休みはぜーったいですからね!おかあさまにサンドウィッチを一緒に作ってもらうよに言っておきますから!」


 リリアは、フンと少し頬を膨らませいじけた様子でそっぽを向いた。


「あぁ。約束だ。リリア、こっちを向いてごらん」


 親の言う通りにリリアは、正面を向いた途端。


「むっ……モシャモシャしててお髭がくすぐったいよ〜」


 父親はリリアの鼻と自分の鼻を重ね合わせた。


「ハッハッハッハッ!!気持ちいだろ〜」

「別に気持ちよくなんかないよ〜」


 リリアは、さっきまでいじけてはずなのについ笑顔が溢れ出していた。

 いつも優しくて朗らかでそんな父親がリリアは大好きだった。


「アルバ様」


 そこに似たような銀の鎧を身に纏った男の姿が二人。

 一人は父と同じく銀色の髪に目つきは鋭い男とその隣には少し瘦せ型の男が現れた。

 目つきの鋭い男は、リリアの父親に耳打ちをする。


「………………」

「すぐに向かう」


 二つ返事で返す父親の姿は、リリアにとってはもう見慣れた光景だった。

 そして真面目な表情から一変して、さっきと同じ朗らかな表情でリリアの元に戻る。


「すまんなリリア。もう行かなくてはならない。今日から一週間ほど城には戻れないが、よくお母様の言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ」


 父親はにっこりとした表情で、金色の髪をくしゃくしゃに撫でた後、部下と思われる二人と共にカシャカシャと音を立て、姿を消していった……


 ーーー


 数時間後。

 リリアは少し寂しそうに落ちていく夕焼けを黄昏るように見つめていた。


「あら、ここに居たのリリア……」


 リリアと同じ金色の髪に水晶のような緑色の瞳をした綺麗な女性は、優しそうな表情でリリアに近づいてきた。


「おかあさま……今度のお休みの日に三人でピクニックに行く約束をしたの!

だからおかあさまとリリアは、サンドウィッチを作ることになったの!」


 リリアは、寂しそうな表情から一変して無邪気で嬉しそうな表情に戻った。


「あら、それはとても楽しそうなピクニックになりそうね」


 母親は、優しげな表情で微笑みながらリリアの頭を優しく撫でる。

 こうして父親同様、母親に頭を撫でられるのが大好きでいつも撫でられると母親に抱きついていた。


「さぁ、もうすぐ夕食ディナーの支度ができるので戻りましょうリリア」

「うん……」


 夕焼けが沈んでいくと共に二人は手を繋いで城に戻っていった。



 そして、リリアが大好きな剣聖おとうさまが一週間どころか一ヶ月、一年、十年後になっても城に戻ってくる事は、二度となかった……

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