崩壊カイダン

空野雷火

第1怪 メリーさん

深夜1時。今日も僕は仕事を終え、眠るまでのわずかな時間を楽しむ。

虫たちがさざめき、少し汗ばむがエアコンをかけるにはまだ早い初夏。

テレビでは近日放送される予定のホラー番組の総集編がやっている。


 昔から、この手の番組は好きで見ていたが、社会人になってからはテレビを

見ることが少なくなった。くわえて、この手の番組はクレームがあるからか、

近年放送自体も少なくなっており、総集編を見るのはなかなか楽しい。


プルルルルル

突如、深夜に鳴る携帯。こんな時間にいったい誰が電話してきたんだ。

画面を見ると非通知。無視しておくか。

しばらくすると、着信が消えた。


また、テレビを見始めるが、またもや非通知の着信。

無視を決め込んでいたが、さすがに6回目にはイラついてきた。

こんな深夜に連絡してくるやつなどいない。僕は携帯の電源を切ることにした。


総集編はいつの間にか終了していた。平日の自由時間をわけのわからない着信に

無駄にされて苛立ちを覚えた。時間は深夜2時。もう寝ようと思ったその時だった。

プルルルルル


突如、電源を消したはずの携帯が鳴りだした。

なんで鳴りだしたんだ。消したはずの携帯の画面には非通知。

不気味ではあったが、それ以上に苛立ちが勝った僕は電話に出た。


「おい。あんたどれだけの暇人なのかわからないが、こんな時間に非常識だろ!」


声を荒げたが、向こうからは何も聞こえない。

無言電話だと思い、切ろうとしたその時、


「もしもし。私、メリーさん。今××駅にいるの。」


か細い少女の声だった。こんな時間に電話をかけてくるとは思えない幼い声色。


「手の込んだ悪戯だな。どんなつもりなんだ。切るぞ。」


「切れないよ。」


僕は少女の言葉を無視して電話を切ろうとするが・・・手が動かない。

金縛り?突然の病気?訳がわからない。


「お兄さんが電話に出たってことは、もう逃げられないってコトナンダヨ」


少女が嗤う声が聞こえてくる。

そんなバカなことがあるか。でもこれは、この感じはあの有名な怪談ではないか。


メリーさん。

突如電話がかかってきて、「もしもし?私、メリーさん」という自己紹介から

現在の所在地を伝えてくる。それが繰り返され、徐々に自宅に近づいていき、

最後には自分の背後にいるという有名な怪談だ。

でも、そんな非日常的なことが僕に降りかかることなどないと思っていた。

フィクションでしかなかった。だがしかし、この状況は・・・


「お前、本物なのか?」


「私、メリーさん。今◯◯駅にいるの。」


◯◯駅というのは僕の自宅の最寄駅である。信じられないが、現実なのだろうか。

首を汗が伝う。


「私、メリーさん。今◯◯がある大通りを通り過ぎたの。」


間違いない。近づいている。

先程まで暑くて汗ばんでいたはずなのに、今は寒ささえ感じる。


「私、メリーさん。」


そこまで言うと、急にメリーと名乗る少女の声が黙り込んだ。

何があったのだろうか。まさか、近くに来て


「今地図見てるんだけど、3丁目曲がってからがわからないの。」


その一言が恐怖感を僕の帳消しにした。


「メリーさん、地図見てうち目指してたのかよ!」


思わず、ツッコんでしまった。


「えっと、このアプリわかりにくくて、その、道がね」


「アプリ!?メリーさんそれ君が言っちゃいけない言葉だよ!?

 僕が金縛りにあってなかったら、もう恐怖から冷めきるよ。」


「あ、わかった。」


わかったと聞こえてるぞお前。


「私、メリーさん。今◯△町の角の・・あ、充電・・・」


電話が切れた。

メリーさん、携帯使っていたのか。地図と通話しすぎて充電切れになってしまったのか。

幽霊がそれでいいのか。

金縛りも解けて、解放されて安堵した。

眠りにつこうと、携帯に背を向けたその時。


「もしもし。私、メリーさん。」


携帯からメリーの声が聞こえる。電話は一度切れたはずなのに。


「もしもし。私、メリーさん。」テレレレテレーレ テレテレテー


「お前確実に角のファ◯リーマートで充電器買ったな!?」


「もしもし。私、あ、充電速度が追いつ


切れた。ダメだこいつ。悪戯にしても本物にしてもグダグダすぎる。


「もしもし。私、メリーさん。 チャリン 今、公園にいるの チャリン

 あっ!10円が・・・」


「お前幽霊なのにアプリ使ったり、コンビニ行ったり、挙句公衆電話でかけてくるなよ。」


「ふええ。怒らないでぇ」


泣きそうなメリーさんに、僕は少し萌えた。


電話が切れる。しかし、またも電話がかかってきた。


「もしもし。私、ペリーです。開国してください。」


「成仏しろ。もう日本は開国している。」


電話を切った。またもかかってくる。


「もしもし。私、メリーさん。オートロック開けてえぇぇえええ」


泣くな。泣くなメリーさん。入れないからって泣くな。そしてロビーのドアを

叩くな。


「もしもし。私、メリーさん。今2階にいるの。」


入れたのか!?

まずい。俺の住んでいるのは3階。次にはもう来てしまう。

さっきまでまぬけすぎるメリーさんに余裕を見せていたが、ここでまた焦りはじめた


「もしもし。私、メリーさん。今3階にいるの。」


しまった。油断していた自分がバカだった。


「もしもし。私、メリーさん。」


次にはドアの前にいるのだろうか。それとも、もう背後に・・


「今4階にいるの。」


「え?」


「もしもし。私、メリーさん。今9階に」


「うちのマンション、6階建てなんだけど・・・」


「・・・すみません。間違えました。」


電話が切れた。

なんだったんだよ!!!

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