第30話 同窓会
王都中心部にある酒場。
都市の中では小規模な部類に入るこの場所は、それでもリールの村のギルド酒場の何倍もの規模を誇っている。
研修時代からの馴染みの店で、仲がいい三人の同期が集まるときはいつもこの場所を選んでいた。
「ということで反省した? 人の陰口なんて叩くもんじゃないからね。以後気をつけるように」
「「「はい。申し訳ありませんでした!」」」
謝るのはリール村の三人衆。叱っていたのはミントである。
「なんでわたしたちまで……」と膨れるパプカの文句をスルーして、ミントは先程までの鬼の形相を直して改めて挨拶をする。
「遅くなったけれど、私はミンティア・ルールブックと言います。お二人はリールの冒険者? 良ければこの後一緒に飲まない?」
「何!? ちょっと待てミント! こいつらを飲みに誘うとか正気か!? 絶対いらん騒動を起こすぞ!」
「ホント、サトーは我々のことを普段どう思ってるんだ」
「その件も含めて今日は色々と聞きたいですね」
くそう、今日は同期三人で平和に飲み明かせると思って楽しみにしていたのに。」この二人が居たんじゃ、リールでの現実が混じって素直に楽しめないじゃないか。
「ボンズ君も良い? 放ったらかしててゴメンね」
「ん~気にしないで~。二人共変わってないようで嬉しいよ~」
独特な間延びした口調で返事をするのは、仲がいい同期の3人目。
ふくよかな体型と糸目を特徴に持つ男。
名をボンズード・フォン・マクシリアン。名前からして貴族の出身だが、そのことを鼻にかけない性格の良い人物だ。
俺と冒険者二人が説教を受けていたときに合流し、その後場所を移して再度説教。
ボンズが居るんだから、説教ももっと早く切り上げてほしかった。
「そうと決まれば早速飲みましょう! お姉さん、スペシャルドリンク一つお願いします!」
先程までの説教はなんの意味があったのだろうと思うほどに、パプカはあっけらかんと注文をする。
王都でスペシャルドリンクなど出るわけ無いだろ。アグニスが居ないんだから。
ウェイトレスのお姉さんが困ってるだろうが。
パプカに釣られ、ジュリアスもメニュー表を見て酒を決め始める。
どうやらこいつらが一緒に飲むのは既定路線となったようだ。
「まったく……ああ、ボンズ。挨拶が遅れて悪かったな。元気だったか?」
「うん~。サトーも元気そうで良かったよ~。手紙が来たときは何事かと思ったからね~」
「あの時期は大変だった……ん? いや、あの時期じゃなくても大変……と言うか、大変じゃない時期がここ最近無いな」
「魔王軍四天王が襲来してよく無事だったわねサトー君。中央でもかなり騒動になって、大規模な討伐部隊が組まれてたのよ?」
「西部地方でも話題になってたよ~。こっちのオリハルコンも引き抜かれるって話だった~」
「中央のオリハルコンも招集されてたわよ。派遣が現実になってたら、サトー君骨どころか灰も残らなかったわね」
「ほ、ホント平和的に済んでよかった……」
この世でも最も強い人間たちが一堂に会すると言うのは、本当にハルマゲドンが起きかねない状況だったのだ。
改めてあの時が相当まずい状況だったと思い知らされる……その原因が”萌え”だ何だとのオタク集団の会合だったことが、事の重大さを軽んじさせるのだろうか。
酒を選び終わったのか、パプカとジュリアスが会話に加わってきた。
「あの時は大変だったな。正直私はよく覚えていないが」
「そりゃお前はずっと気絶しっぱなしだったからな」
「わたしも流石にあの時は駄目だと思いました。むしろ冒険者でないサトーが、よくあの場で意識を保っていられたと感心するくらいですよ」
あの場で俺まで気絶してしまえば、リールの村は壊滅していただろう。気絶してなんの役にも立たなかったこの二人を見て改めてそう思う。
思えば、ゴルフリートがあの場に居なかったことは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
血気盛んなオッサンのことである。
あの場にいれば、勝とうが負けようが流血は避けられなかっただろう。
「ま、無事だったんだしこの話は良いじゃないか。それより二人の方はどうだ? ボンズは受付長に昇進したんだろ?」
「うん~。二人にはかなり水をあけられちゃったよ~」
「でも、俺は左遷みたいなもんだし、ミントもエリートコースだけど、秘書はこれから何年やるか分からないからな。むしろ規模が大きい西部のギルド本部で昇進したボンズのほうがすごいだろ」
俺達が所属している王国には本部が5つある。今いる王都にある
規模が大きければ競争率も高い。
この世界では年功序列が全てではないが、それでも昇進は長くやっている職員が優先される。
そんな中で受付長になったボンズは、俺とは違いまっとうな意味で異例の出世と呼べるだろう。
「こっちはね~、あんまり大きな事件は無かったよ~。去年キサラギ君が来た時は大変だったそうだけど、西部本部はそんなにかな~」
「ああ……あいつか」
「キサラギ・コースケはねぇ……中央というか、王都自体に出入り禁止令が出てるからこっちも安泰だけど、やっぱり地方だと結構名前を聞くのよねぇ」
三人揃ってため息をつく。あまりにトラブルを起こすということもあり、キサラギ・コースケは中央を含めた各ギルド本部には出入り禁止令が出されている。
「歩くマッチポンプ」と言う二つ名は伊達ではない。
まあ、本部に大打撃を食らわされて、その地方のギルド機能が完全停止されると多大な人数が困るわけだから、ある意味妥当な判断だろうが、被害を被るのはいつも地方なのである。
「と言っても、厄介な冒険者ならキサラギ・コースケ以外にも結構居るからなぁ。どこの誰々とは言わないが……ああ、どこの誰々とは言わないがな」
「…………なぜ私達を見ながら言う?」
「誰々とは言わないが」
「なぜ目を背けて言うんだ! 私の目を見てもう一度言ってみろ!!」
「ジュリアスとパプカと他諸々」
「やめろぉ! 目を真正面に見つめて名指しで言うな!!」
だって事実だし。お前が言えと言ったんだろうが。
「本当に相変わらずだね~」
「仕事はすごく出来るのに、私生活ではこれだからなぁ…………あ、思い出した。ボンズ君は覚えてる?」
「もちろん~。例のトゥーフェイスの一件でしょ~」
ニヤニヤと笑いながら二人がこちらを見る。
どうやら過去の一件――俺の黒歴史を思い出しているようだった。
ああ笑え笑え。飲み会の席でいくら小馬鹿にされようが知った事か。逆に俺もお前らの恥ずかしい過去をさらけ出してくれるわ。
――――と思ったが、俺はすぐに考えを改めた。なぜならこの場には、非常に面倒くさい人物がいるからだ。
「ほほう? サトーの過去話ですね? 詳しく聞かせていただきましょうか」
パプカの存在である。
顔を真っ赤に染めて、微かに酒の匂いを漂わせる幼女(19歳)。
明らかに酔っ払っているようだった。
「ってお前! 酒飲んだのか!? アグニスのノンアルコールスペシャルドリンクじゃないんだぞ!」
「なんですかサトー! 私が酒を飲んで何が悪いのですか! もうすぐ20歳の私が酒を飲んで何が悪い!!」
「うわ酒臭っ!? テーブルの上に立つな酔っぱらい!!」
「え、パプカさんってそんな歳?」
「見えないね~」
ちなみに言うと、この世界では年齢による飲酒制限はない。成人年齢も16歳なので、倫理的にも問題はない。
「あー! あー! 今失礼なことを言いましたね年下諸君! 罰としてサトーの恥ずかしい過去話を余すところなく話しなさい! これはめいれーです!」
「なっ! よせ二人共!! こいつの言うことは無視して……」
「黙りなさい!
「のわっ!?」
俺の静止を遮るように、パプカが拘束の魔法を放った。
縄が何重にも俺の体を巻き上げて、首から下は指一本動かせないほどに拘束されてしまう。
「おまっ、ふざけんな! 一般人に使って良い魔法じゃねぇだろうが!!」
「うるさいですねぇ……
「むぐっ!?」
重ねて拘束魔法。とうとう口すら塞がれてしまった。
「むぐぐ! むぐぅ!!」
「あっはっはっは! 何言ってるかわかんないですよサトー!」
大爆笑である。このガキ、拘束が解けたら覚えてろよ。
「え、えっと……サトー君は大丈夫なの?」
「大丈夫です。あなた達は知らないかもしれませんが、サトーはリールでは有名な変態ですからね。見てください、あの満足げな顔」
「むがががっ!!」
「すごく睨みつけてる気がするけどね~」
「気のせいですし、気にしないでください……そんなことは置いておいて、さあ早く! サトーの恥ずかしい過去話を!!」
なんで恥ずかしい話に限定するのだろう。
何とかここでパプカを阻止しなければ、トゥーフェイスと言う我が黒歴史が地方にまで広まってしまう。
同期二人はパプカの気迫にたじろいでいるし当てにならない。ならば、甚だ遺憾であるが頼みの綱はジュリアスだけだ。
さあ! 普段ポンコツな分今ここで名誉を挽回してくれ!
「………………うん」
あっ!? こいつ目をそらしやがった!!
「でね~、サトーがどうして”トゥーフェイス”って呼ばれてるかって言うと~」
やめろボンズ! 回想に入るんじゃねぇ!!
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