第25話 異世界人の過半数
最近、リールの村の破損率がひどい。
エクスカリバーとリュカンの一件と、メテオラの一件はそれほどの間もなく起きた事件だ。
リュカンに修復を頼んで入るが、もちろんそれでは人手が足りない。
近くの大工たちを総動員して、修復作業にあたっているところなのだが、費用が湯水の如く消費されてゆく。
エクスカリバーたちの一件に関しては、ゴルフリートのオッサンに肩代わりさせたものの、メテオラに関してはそうも行かない。
天災みたいなものなので、村人たちと村の予算で一部を賄っているが、殆どはギルドの予算を使用している。
被害総額が大きすぎるため肩代わりしている状態だ。
そんなこんなで現在、我がリールの村のギルドは金欠である。
「やべぇ、予算が底をつきかけている……」
「ま、まずいですよねこれ。来季の予算を受け取るまで、まだ数カ月あるのに……」
俺は会議室という名の資料室で、予算編成表をルーンとアグニスとともに睨みつけていた。
「お前ら、もうちょっと頑張れよ。黒字なの俺んとこの酒場だけじゃん」
「ぐうの音も出ない」
冒険者がいる限り、ほとんど確実に利益が見込める酒場と違い、冒険者へクエストを斡旋する俺とルーンの部署の利益は、冒険者の腕に左右される。
幸いにしてこのギルドは、ゴールドランクの冒険者が数人。
プラチナランクのパプカが一人。
オリハルコンランクのゴルフリートが一人と、それなりに層は厚い。
しかし、こちらの地域のクエストはかなり難易度が高い。
ランク指定されていても、地域によって難易度が上下することがあるのだ。
特に未開拓地は顕著にそれが見受けられる。
つまりこの村もその例に漏れず、ランク指定が難しいのだ。
「みなさん、かなりクエスト失敗されてらっしゃいますからね。うちは戦闘職が多いですが、
「唯一の
おまけにふたりともランクは底辺。
まだまだ実践で使えるような実力は持ち合わせていない。
まあ、ジュリアスは才能が凄まじいので、実践を何度か積めばすぐに一線級になるのだが、あのオタク女は身になるクエストを受けたがらないのだ。
「なあ? 中央に言って特別予算をもらったほうが良いんじゃないか? 斡旋での赤字はともかく、魔王軍四天王の被害くらいは補填してもらえるだろう?」
「よせ! そんなことを口にすれば俺の給与が0になりかねん! 今でさえもやし生活なのに!!」
もちろんメテオラが村に来たことは中央に報告済みだ。
被害や経過についての報告書もきっちりと送りつけている。しかし、例のドS上司に補助を求めたところ、殺気のこもった声で「却下」と断られたのだ。
これ以上一言でも金を要求する言葉を発すれば、減棒どころか降格すらあり得る。あいつはそういう女だ。ドSじゃなくてドケチだな。
「来月の給与明細を見るのが怖い。家賃を払うことすらできなくなるかもしれない……」
「お、大げさじゃないですか? いくら減棒といっても、そこまで……」
「ルーン、お前はあの女を知らないからそんなことが言えるんだよ。あいつはやると言わなくてもやる女だ」
いかん、研修時代のシゴキがフラッシュバックする。落ち着け俺。体の震えを止めろ!
「おいおい大丈夫かよ……でもさ、追加予算が来ないなら今季どうすんだ? 村の修繕費用でカツカツなんだろ?」
「大丈夫……じゃないが、考えはある」
「考え?」
「ああ…………ちょうど来月、あれがある」
「誰かいないか!!」
ふと、ギルドの出入り口から声が聞こえた。
まだ朝早く、冒険者たちはいなかったのだが、今日は随分と早起きな冒険者が来たようだ。
俺は二人に会議の終了を言い渡すと通常業務へと戻る。
資料室から仕事場へ戻ると、そこには見たことのない顔の男が立っていた。
「よお、サトーと言ったな。今戻ったぞ」
「えっと……どなた様でしょうか?」
その男は赤黒い髪の毛に角のようなものを生やし、服装は和服をファンタジー風にアレンジしたものを着込む。
三白眼のガラの悪い目つきに、鋭く尖ったギザ歯。片手にはキセルを持って、もう片方には……エクスカリバーを携えていた。
『ただいまでござる、サトー氏』
「……帰ってこなくても良かったのに」
先日、メテオラとリュカンとともに空の彼方へと消えていったエクスカリバー。
二度と帰ってこたくてよかったのに、残念なことにギルドに舞い戻ってきたようだ。
「えー、どなたか存じませんが余計なこと……ゲフンゲフン! 我がギルドの職員を届けてくださってありがとうございました」
『サトー氏、なにを言ってるでござるか。このお人はサトー氏も知っている方でござるぞ?』
「え? でも見覚えが……」
「ブェックショイ!!」
目の前の男がくしゃみをした。
そう。くしゃみをしたのだ――――したはずなのだが、何故かギルドの入り口が吹き飛んだ。
ドアは宙へと舞い上がり、壁は崩壊してお外の光がコンニチワ。
ただでさえ連日の事件で傷んでいたギルドが、今まさに半壊してしまったのである。
「――――は?」
「ああすまん……しかし、ここは少し埃っぽいな。キチンと掃除をしろ」
「ま、まさか……メテオラさん?」
「他の誰に見える」
魔王軍四天王の一人メテオラ。
翼を広げれば村を覆ってしまうほどの巨体を誇るエンシェントブラックドラゴン。
目の前の男は、自らがその伝説であると言う。
「え、でも……人間……」
『メテオラ氏は魔族という種族らしく、魔物と人間の特徴を併せ持つ種族らしいのでござる。もちろん変身も可』
「別に元の姿のままでも良かったのだが、こんな狭い人間の住居に入るには、この格好のほうが都合が良かろう?」
もはやどうツッコミを入れれば良いのかわからない。
いや、変身云々はともかく……なぜ魔王軍の四天王がこんなところに普通に居るのか、ということに焦点を当てたい。
メテオラはギルドのみならず、王国で最大級の指名手配を受けている男だ。
オリハルコンがパーティーを組んで討伐にあたり、王国が軍団を編成して蹴散らされる。
はるか昔にそんな逸話があり、ここ数百年は戦うという選択肢さえも出現しないほどの実力者。
そんな規格外の男が目の前にいる――――いや、いちゃ駄目だろ。
「あの後エクスカリバーとリュカンと意気投合してな。色々と教えてもらうために、しばらくこの村に滞在してやろうと思ってな」
「……本気ですか?」
『ちなみに転居手続きはもう済ませてるでござる』
手が早い。
「しかし、ここにはオリハルコンランクの冒険者もいますし、抗争なんてされたら困るんですが」
「心配いらん。そもそもこの姿を知っている人族は少ないし、オリハルコンだろうがなんだろうが、人ごとき小指一本で撃退できる」
心配いらないという要素が見つからない。
冒険者にこいつを倒してもらうというのはまあ無理だろう。
少なくとも、村とその周辺が焼け野原になることは間違いない。
平和的にお帰り頂く方法はないだろうか。角が立たず、メテオラが怒らない程度の言葉で「お前帰れよ」と表現したい。
そこで俺は思いつく。
「そ、そう言えばメテオラさんはエクスカリバーと話すために来られたんですよね? ならいっその事お持ち帰りしてはどうです? 自宅で気が済むまでオタク談義が出来ますよ?」
『駄目でござるよサトー氏。拙者、ギルドの職務をないがしろにするほど落ちぶれていないでござる』
お前何にも仕事してないじゃないか。
「それに、この村にはリュカンも居るからな。わざわざ生活圏を別に移すこともあるまい」
「うーん……」
俺は頭を抱えた。打つ手がない。
こんな遠回しの言い方ではこっちの真意はなにも伝わらない。
もういっそ言ってしまおうか。「お前帰れよ」と直接言ってしまおうか。
――間違いなく殺されてしまうので止めておこう。
「まあそう邪険にするな。ここではエクスカリバーと話すだけで、迷惑をかけるつもりはない」
……ん? 俺は今のメテオラのセリフに、切り崩す隙きを見つけた気がした。
「メテオラさん。もしかしてここで話をするんですか?」
「そう言ってるだろう。ここには飯を出してくれる店も椅子もあるからな」
「ざ、残念でした! それは出来ないのですメテオラさん!」
ちょっと興奮気味に言ってしまったので、軽く睨みつけられた。
すでに失神寸前だが、もう少しだけ辛抱しろ俺のチキンハート。
「ぎ、ギルドの設備は基本的に冒険者用の物なんです。夜は村の方々にも開放していますが、お昼は部外者の方に利用していただいては困ります」
「そのぐらい融通きかせろよ」
メテオラの視線が突き刺さる。マジで俺はここで死んでしまうかもしれない。
だが、メテオラという超一級危険人物に四六時中入り浸られていては困る。
せめて俺が仕事をしている時間帯だけでも、安全地帯を作っておかねば心労で死ぬ!!
「駄目です! ギルドとしての決まりごとですから! ご意見があるなら中央のギルド本部へ直接お問い合わせください!」
「…………ふん。冒険者以外はここにいてはいけない? なら喜べ。俺様がここの冒険者になってやろう」
…………なんという超展開。
「あの……今なんと?」
「冒険者になってやろうと言ったのだ。もちろん最低限クエストはこなしてやる。それで文句はないんだな?」
『すごいでござるサトー氏! メテオラ氏が冒険者になるなど、百人力……いや、万人力でござるな! これなら魔王軍を打ち払うのも時間の問題でござる!』
メテオラがその魔王軍の四天王なんですが……
「何度も言うが、お前の邪魔はしない。だからお前も俺様の邪魔をするな。今日はエクスカリバーと『魔女っ子リン☆リン』について語り合う予定だからな」
『メテオラ氏が発見したあの部屋は宝の山だったのでござる! まさかこちらの世界でアレ程の作品群を見られるとは思っていなかった……あ、サトー氏。早速奥のお席を使わせてもらうゆえ。今日は有給にしてほしいでござる』
おいおい、こんなやつに中央は給料払ってるのかよ。と言うか何に金使うんだよ剣のくせに。
「もう……いいです。ごゆっくり」
もう諦めよう。俺にはどうすることも出来ない。
せめておとなしく、トラブルを起こしてくれないように祈るばかりだ。
そして俺が気を落とす中、いつもどおりの時間にジュリアスが相談窓口へとやってきた。
「サトー! 今日はいよいよ十二巻について説明してやろう! ここからようやく本格的な冒険が始まったんだ! この一冊を読めば、今までのはプロローグにすぎないと思い知ることになるだろう!…………どうかしたか?」
「いえ、ジュリアスさん……貴方がこんなに素敵な人だとは思いませんでした……」
「なんだサトー、気持ち悪いぞ」
ド直球である。
「今まさに、私がどれほど恵まれた環境に居たのか思い知ったところなんです」
「うーん、意味がわからないが……ん? 見ない顔がいるな。新しい冒険者か?」
「はい。彼には絶対に話しかけないようにお願いします」
「は? いや、でも……挨拶くらい……」
「駄目です」
俺の目が黒いうちは、メテオラ関係でトラブルは起こさせない。
ポンコツジュリアスが挨拶に行こうものなら、つまずいてメテオラにグーパンチでも放ちかねない。
そうなればもう終わりだ。あたり一面大惨事になることだろう。
そうならないために、俺は情報封鎖を決意した。
メテオラが四天王であることは俺とエクスカリバー、リュカンだけの秘密としよう。
中央への報告? 絶対にしない。冒険者申請も、あくまで人間としてのメテオラで登録する。
下手に四天王であることがバレれば、この村が戦場にされかねない。
それだけは断固としても避けるべきだろう。
「む……まあ良いか。で、早速今日のミナス・ハルバンについてだが……」
切り替えが早いのはこの女の長所なのかもしれない
その後長々と小説談義(一方的)を聞かされ、俺は日常を取り戻した気がした。
仕事が終わり、酒場でパプカと一杯。そして次の日もまた同じ事の繰り返し。
素晴らしきわが日常。胃薬の量が日々増えている気がるが、これが俺の人生なのだ。うまく付き合っていくしか無い。
――――いや、なんか違うな!
最近ひどいことが起こりすぎて、俺の中の『日常』の基準がどんどん変わっていっている気がする!
これってひどいよね? 平穏な日常とは言えないよね!?
なんか俺感覚麻痺してるぞ、駄目だこれ!!
そのうち無意識に発狂して、首吊り用の縄を探しているとかゴメンだぞ!?
畜生、なんでこうなるんだ!
いーや、原因はわかってる! 全部こいつらが悪い! こいつらがオタクなのが悪い!!
なんで俺の周りの異世界人は、全員中二病なんだ!!
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