ダメ天使と悪魔
マムルーク
第1話 カギエルとリリス
「お前はダメ天使だ! カギエル!」
俺は実の親父であるゼウスに激怒されていた。
俺の名前はカギエル。こう見えても天使だ。今日は上界にいる親父に急遽呼び出された。
「ま、待ってくれよ! 親父、確かにちょっとあれだったけどさ……」
「なーにがちょっとだ! いつもいつも下界から買ってきたエロゲばっかりしよって! ちゃんと天使としての勤めを果たさんか! ええ? この大バカ者!」
親父は興奮状態である。どっかの日曜日のアニメのお父さんのように顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。
「ち、ちげーよ! これはギャルゲっていう下界じゃ立派なサブカルチャーで……」
「黙れ! 下界で何をしているのかと思ったらこんなくっだらないことに嵌りおって! お前にはこれから生活費は送らん! バイトなりなんなりしてなんとかするのだな! せいぜい、のたれ死にせんようにな!」
バイトなりなんなり……辞書なりなんなりディクショナリー。おお! 韻踏めるじゃん!
いやそれよりも! 仕送りがゼロォ? それはやばい。今月もソシャゲの課金やギャルゲの買いすぎでピンチだってのに。
「待ってくれ! 待ってくれよぉ! 親父」
気がついたら、俺は下界の公園のベンチにポツンと座っていた。
「うわぁぁぁぁぁん! 誰がねぇ! 誰が天使になってもぉ! 同じや同じや思てェ! うははハハーーーン! はーーん! 下界が楽しい! そう思ってぇ!」
俺は号泣した。
「おかーさん! なんか、泣いている人がいるよ!」
「し! 目を合わせちゃダメよ!」
親子が泣き喚いていた俺を好奇の眼差しでみてきた。うっせーよ、お前ら。今すぐ堕天して、人類もろとも消してやろうか?
五分後、泣き喚いてすっきりした後、俺はどうするべきか悩んだ。
俺は天使として、修行するためにとある高校に通っている。学費、生活費はあのクソ親父が出してくれたのだが、生活費を打ち切りやがった。
やはり、ここはバイトするしかねぇか。何をして働いたらいいんだろう。やはりライン工とかかなぁ。
接客業とかコミュ症の俺にできそうにねぇしなぁ。俺は目的もなく道をぶらぶらと歩いていた。
すると、とある女性に目が入った。その女性はメガネをかけており、道端にブルーシートを広げており、似顔絵一枚千円で書くという商売をしていた。年はおそらく俺よりも年上っぽい。
だが、気になったのはそこではない。あいつ--完全に悪魔だ。俺は人間に擬態している悪魔を一瞬で見破ることができる。あいつからはわずかだが悪魔特有のオーラが感じられる。
あいつをぶっ倒せば仕送りが復活するかもしれない。うちの親父はとんだ古典的な人間で、悪魔は全て悪いやつだと思っている。あいつをぶっ倒して仕送りの復活を持ちかければいけるかも?
「すみませーん! 一枚、買いてもらっていいですか?」
アラサーくらいのサラリーマン風の男が悪魔に話しかけた。
「はーい、少々お待ちください」
すると悪魔はものすごい速度で色紙に筆を動かし、あっという間にサラリーマン風の男の似顔絵を書き上げた。
「はいどうぞ!」
似顔絵を見ると、サラリーマン風の男は感心したようにつぶやいた。
「これはこれはお嬢さん。とてもお上手ですねぇ」
すると、悪魔は照れたようで顔が赤くなった。
「い、いぇそれほどでもありません」
「こちらお代です」
サラリーマン風の男は五千円渡した。いいなぁ。俺にもくれないかな。まぁ無理だろうな。
「いえ! こんなにいただく訳にはいきません!」
悪魔なんだからありがたくとっておけばいいのに。俺はそう思ってしまった。つーか俺が同じ立場だったら絶対にもらう。いや、あわよくば一万円もらえるように策を打つ。
「いえいえ。代わりといっちゃなんですが、一緒に素敵な場所に行きませんか?」
「す、すてきな場所ですか?」
悪魔はおうむ返しでサラリーマン風の聞き返した。
「はい。ふかふかのベッドがあり、大きなテレビ面白い遊具が揃っている素晴らしいところです」
おいおいおい、下心丸出しじゃねぇか。まぁ、幾ら何でもこんな誘いに乗る訳が……
「そ、そんな! 悪いですよ! とてもじゃないけどご一緒できません!」
すると、サラリーマン風の男は悪魔の手を握った。
「どうしても付いてきて欲しいのです。同行していただけませんか?」
俺は気づいた。あいつは一瞬、確かに胸をチラ見した。絶対に下心がある。なんなら本体が股間というまである。
「そんなに付いてきて欲しいのですか? そこまで言うのなら……」
悪魔、本当か? アホなのだろうか。見てらんねぇ。
「なぁ、似顔絵師さん。俺も買いてもらえないか?」
俺は悪魔の元へと赴き、似顔絵を買いてもらうように依頼した。
「ん? なんだい君は? 今から彼女は私ととある場所に行くから悪いけど帰ってくれないか?」
「うっせーよ。股間人間。ラブホなら一人で行きな。サモニング」
サラリーマン風の男はシュンと姿が消えた。正確には俺が消した。呪文を使い、やつを単身一人でラブホに転送してやったのである。
「あ、あなたは一体!?」
悪魔は驚愕した表情で俺のことを見つめていた。
「俺か? 俺の名前はカギエル。天使だ。お前、悪魔だろう」
それを聞くと、悪魔の表情がさらに強張った。
「あ、あなた。天使だったの……私はリリス。一応、悪魔よ。あなた、何しにきたの?」
倒しにきたと言えば、向こうも応戦してくるだろう。ここは相手の出方を伺うか。
「悪魔さんがこんなところで妙なことをみたんでな。何をしてるのか気になって来ててみたんだ」
すると、リリスは自嘲するように微笑んだ。
「何をしているか……ね。見たとおりよ。似顔絵師として働いるの。実は私、前まで漫画家をしていてね」
「漫画家だと?」
それがリリスとの出会いであり、この出会いが俺の天使としての生活を大きく帰ることになった。
ダメ天使と悪魔 マムルーク @tyandora
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