『お手入れ』

 改めまして、皆様こんにちは。紫藤夜半と申します。

 記念すべき万年筆エッセイ続編1回目となる今回、本当は四季織『名月』さんの話から始めようと思っていたのですが、それはまた次回。

 今日は、万年筆の『お手入れ』についてお話しします。


 それと言いますのも、実はつい先程ウォーターマンさんことウォタ子さんのお手入れをしてきたばかりなんですよね。

 そう、前作エッセイで紹介した、あのウォタ子さん。ある日突然、僕の手の中で軸がぽっきり折れてしまった、あのウォタ子さんです。

 先に言い訳をしますね。忙しかったんです。

 昨年12月に勤務先と突然の別れを経験しまして、転がり込んだ実家で親のすねをかじること3ヶ月。運良くホワイト企業に拾っていただき、全く未経験の職種で一から学び直しておりました。

 そう、忙しかったんです。忙しかったので――一番古株のウォタ子さんのことはふた月以上放置してしまいました。

 これがいけなかった。

 本日、「久しぶりにインテリっぽいことでもするかー!」と最高に馬鹿っぽい理由でペンたちを引き連れ図書館へ赴いたわたくし。

 実習室の机でウォタ子さんのキャップを外すと――なんということでしょう――ペン先が、わずかにひらいているではないですか。

 まったく圧力をかけていない、デフォルトの状態でペン先がひらいている。これは割と絶望的な状態です。この状態になると、万年筆は書けません。死んでいるも同じです。ペンドクターに駆け込めば助けてくれるかもしれませんが、今の住まいは辺境の地。実質陸の孤島。ペンドクターなんて洒落た技術者はいらっしゃいません。隣町にもいない。多分県内どこにもいない。

 ですが、今回は高所から落としたり圧力をかけたりして変形させた訳ではありませんでしたので、ペン先がひらいている理由はなんとなく考察できました。

 おそらく、インクを入れた状態で長期間放置したことで、水分が蒸発してインクの成分がペン先につまり、その固形物がペン先を押し開いているのではないだろうか。

 そう結論づけました。


 万年筆のお手入れ方法は割と簡単です。

 カートリッジ式で使っているなら、とりあえずカートリッジを外して捨てます。

 あとは、首軸側からペン先側へ通すように、ぬるま湯の流水で洗う。

 色水がでなくなるまで洗ったら、あとは綺麗な布かティッシュで水気をぬぐったあと、自然乾燥でよくよく乾かすだけです。

 もっと丁寧なやり方もありますが、僕はもっぱらこの方法を使用しています。


 今、ウォタ子さんは乾燥中。

 洗った直後はペン先がぴったり閉じていたので多分予想はあたっているはずですが、実際に書いてみるまでどうなるかわかりません。

 見た目にわからないところが駄目になってしまっている可能性もあります。


 本当はね、この『お手入れ』、良くないんです。

 もし乾燥が不十分だとカビの原因になりますし、そもそも水に晒すこと自体、ペンにはダメージに繋がります。

 それでも、インクづまりからリカバリーするために必要だから、仕方なくやる『お手入れ』なんです。

 なのに、僕はクッソズボラマンだから、この『お手入れ』を頻回にやる羽目になる。

 ペンに申し訳ないです。


 万年筆にとって本当に良い『お手入れ』は、「毎日使ってあげること」です。

 毎日使っていれば、ペン先にインク詰まりが起きることはありません。インクが蒸発したり劣化したりする前に使い切って、常に新鮮なインクを詰めてあげることもできます。

 メモ書きでも絵描きでも日記でも原稿執筆でも添削でも。

 あれこれ理由を見つけて、ペンを毎日使ってあげてください。

 わかっているのに出来てない、クッソズボラマンとの約束だぞ。



 買った以上は、きちんと養ってあげないといけないな、と改めて自分を戒める出来事になりました。

 ごめんね、ウォタ子さん。

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