だがラブコメは始まらない!~一ノ瀬愛人と彼のハーレムの物語~
小林歩夢
1 ハーレム=ラブコメとは限らない
1 ハーレム=ラブコメとは限らない
01 キャラ見せみたいなもの①
一ノ瀬愛人。高校二年生。学園ハーレムラブコメ主人公になりたいと思っていた時期もあった、純粋無垢な青年です。
とういか今でも思っている。美少女たちとちゅっちゅしたいし、あわよくばその先の楽園へとたどり着きたい。まあそこまでいかずとも、たくさんの美少女に愛されるようなキャッキャウフフな青春を謳歌したいわけだ。
ちなみに、わがままかもしれないが『学園ハーレム』だけじゃ嫌だ。それだと女の子に囲まれているだけで、ただのお友達状態。つまりは友達以上恋人未満の関係の典型的なリア充グループだ。
だが女の子が大好きな俺としてはラブに重点を置かせていただきたいね。ラブがあってこそのハーレムだと俺は思うんだ。みんなそう思うだろ?
しかし現状は違う。俺のハーレムに『ラブ』は存在していない。ゼロに近い、というかさっぱりゼロ。
「おいおい待てよ一ノ瀬さん。ハーレムはできてんのかよ殺すぞ」と言われるかもしれない。そうだ。俺には何故かハーレムができてしまった。
別にハーレム主人公の気質はないし、当然自分で努力したわけでもない。いつの間にか美少女が集まってきていたのだ。きっとラブコメの神様が俺を『美少女ホイホイ』にしてくれたんだな。
……だったら『俺のことが大好きな美少女』にしてくれたっていいじゃないか! そこが一番大事なんだよ!
ということで俺は見事『学園ハーレムコメディー』の主人公になってしまったわけだ。無論それを知っているのは俺とハーレムメンバーのみで、周りの生徒は勘違いしている。ハーレムメンバー全員が俺のことを好きだと思っているのだ。断じてないのに。
もちろんかわいい女の子と話せるのは光栄なことだ。こんな俺と話してくれるなんて、懐が温かすぎて火傷するレベル。けれど男一ノ瀬としてはその先へ踏み出したい。……まあ結局フラれるんだけどね。
と心の中で袖を絞りに絞っていると四時間目が終わるチャイムが鳴った。我が私立旭高校の時間割だと次は昼休みだ。
礼をして先生が教室から出て行くと、このクラス――二年一組は途端に騒がしくなる。俺の周りの人たちはそそくさと自席を離れ、弁当箱を持って違う席に行く。これは別に俺が嫌われているからではない。いや嫉妬関連では嫌われているかもしれないけれどそれは除いてだ。
『一ノ瀬ゾーン』。ケースケがそう呼んでいたか。ケースケというのは俺の中学からの親友で、フルネームは加藤啓介。実は昔、同じ夢を抱いていた同志でもあったりする。
休憩時間は俺の美少女ホイホイ機能が作動してしまうため、ハーレムメンバーが席を陣取ってしまうことからその名前が来たそうだ。名前はかっこいいのに内容があまりに残念過ぎることから、クラス内では定番のからかいネタと化している。
ほら、一ノ瀬ゾーンに早速刺客が来おったわい。
「アイちゃんアイちゃーん!」
声が甲高くてやたらと場違いにボリュームが大きいツインテール女子が俺に手を振りながら飛んできた。その名を御堂遥と言う。
ちなみにアイちゃんと言うのは俺のあだ名で、愛斗を略してアイちゃん。もう少しまともなあだ名をつけてほしいものだが、この元気印のツインテ女子は耳をまったく貸さない。
席に腰かけることはなく、遥は窓際のへりにもたれかかる。
「また座らないのか?」
「うんいいの! こうすれば背中があったまるしー」
確かに日向に留紺色の制服をさらしていれば多少温まるだろうけれど、もう春なのだからそんなに寒くないだろう。せっかくの昼休みなのだから座ればいいのに。
俺の真横の窓辺はすでに遥のポジションとなっている。
「それでさそれでさ!」
遥が野菜ジュースを一本飲み切ると、ぷはーっと声を上げる。そして休む間もなく話しかけてきた。
「聞きたいことがあるん――」
「退魔師にはならないぞ? 将来は一夫多妻で妻たちを養わないといけないからな」
遥が話し終える前に俺は堂々とそう答えた。結構本気で考えている。道のりは激しいけど。
「人の話は最後まで聞かないとダメなんだよ!」
「ほう? じゃあ何が言いたかったのかな遥さん?」
「うっ………………。…………退魔師になろうよ!」
しばらく打ちのめされていたのだが、しばらくして生き返ってきた。怖いよゾンビだよ。
「ごり押しするな」
「アイちゃん、この世界には二つの世界があってね、真世界と偽世界――」
遥は俺の文句など聞かずに勝手に語り始めた。
言われなくてもわかるが、いわゆるこいつは中二病なのだ。しかも高校二年生にもなってオープン中二病とか、痛い。複雑骨折くらい痛すぎる。遥がかわいいからクラスの皆は許してくれるけれど、他のやつがこんなキャラだったら……おお、寒気を通り越して凍る気がする。
現在悪魔とは何ぞやという無駄な説明を熱弁している御堂遥は、退魔師らしい。もちろん設定上のお話だ。現実に悪魔はいない。もしかしたらいるのかもしれないけれど俺は見たことがない。なぜ数ある設定の中でなかなか渋めの退魔師なのかはわからない。
俺だったら『そーどぶれいぶますたー』とかの方を選ぶんだけどな。ならないけどな。
「――ってアイちゃん聞いてる?」
「うんうん聞いてる聞いてる聞きすぎて鼓膜が爆発四散するくらい聞いた」
「ちょー怖いじゃん大丈夫?」
「いや嘘に決まってるだろ」
「だよねー」
爆発四散の意味はわかるのか。言動がお馬鹿さんな遥はさすがに知らないと思っていたのに。まだ中間テストもやっていないから本当に頭が悪いのかはわからないが。
「……って話を見事に逸らしても無駄ですぜアイちゃんさん」
ヤンキーの組長が悪だくみをするような顔をする遥。ちゃんなのかさんなのかどっちなんだよ。
「何回言っても俺は退魔師にはならないからな」
「なろうよーアイちゃんセンスあるんだからー!」
遥が俺のハーレムメンバーになっている理由がこれだ。退魔師のセンスがなんだ、と言って追っかけまわしてくる。隙あらば退魔師加入の誓約書をかかされそうになる。新聞の契約をしに来た兄ちゃんばりに怖い。
「あってもなりません!」
「ケチだなーアイちゃんはー」
そう言って俺の左頬をぐりぐりつついてくる。
「ケチで結構」
「本当はなりたいくせに!」
くしゃっと笑った遥の表情はかわいい。さすがクラスないトップ美少女。中二病であってもなくてもその可愛さには変わりない。
「俺のことを好きになってくれたら率先して悪魔だの天使だのぶっ飛ばすんだがな」
さて、遥はどうでるか。
「くっ……断るしかないのか……」
「どんだけ嫌いなんだよ!」
劇のような大仰な身振りで断られてしまった。へこんじゃうんだけど俺。
「いやいやハルカ、アイちゃんのこと大好きだよ?」
「っ⁉」
その言葉に、俺だけが驚いた。クラスの皆は「こんなの日常茶飯事だろ、へへ」みたいな顔をしながら、友人たちと昼ご飯を楽しんでいる。
危ない。この天然少女、隙あらば問題発言をぶち込んできやがる。
「そう言うのはだな……って遥にはわからないか」
不思議そうに顔を覗いてくる遥であった。……ちくしょう、かわいいよ流石俺の将来のお嫁さん(仮)。
軽く遥に惚れていると、前の席から遥以外の声が聞こえた。この鼓膜を癒すリスの鳴き声のような声は……青島七海だ。
「アイト君、ご飯食べよー」
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