第65話 お帰り……ファイリー
ファイリーは今、朦朧とした意識の中戦っていた。一体なぜ戦う。強くなりたかった。誰かを守れる強さが欲しかった。一度ナイトメアと戦った際、自身の炎が通じず悔しい想いをした。鍛練を積み、ようやく自身の炎を昇華させ、
いつかは分からない。不思議な女性に出会った。『貴方はもっと強くなれるわ……』そう言って近づいて来た。それが夢だったのかはもう覚えていない。『貴方の力を必要としているのは私よ、だって貴方が居なくても、貴方の周りに居る奴等は戦えるでしょう?』リンク達がナイトメアを圧倒する姿を見せつけられた。
『もう貴方は必要ないのよ、こっちへいらっしゃい……一緒に強くなりましょう?』
―― そうか……あたいはもう必要とされていないのか……。
心の中に何度も何度も刷り込まれていた想いが、あの時、対峙していた相手が手を広げた瞬間、なぜか爆発した。気づくと愛しいリリスという存在が目の前に居た。あれ? なぜあたいはこんな大事な存在を斬り捨てようとしていたんだ? なぜ……そうか、リリス様をお守りすればいいのか……邪魔する奴は排除する……そう何もかも……。
そして、ファイリーの赤い瞳から光が消えた ――――
――
轟音と共に炎が巻き上がり、目の前に居る対象を包み込む。やがて相手が見えなくなる。灼熱の炎に包まれ、骨の髄まで焼き尽くされるといい! あたいはこれでまた強くなれる。ファイリーから笑みがこぼれる。やがて炎が消える頃、対象は最早消えてなくなっている、ファイリーはそう思っていた。しかし、目の前には水色の羽衣をボロボロにしながらも、ファイリーをじっと見据える妖精がそこに居た。
「え? どうして……これを受けてまだ生きてるんだ! あれ……誰だ……あたいは誰と戦っている……」
ファイリーが頭を抱える。
「貴女が大切な物を思い出すまで……私は何度でも……立ち上がります……よ……シャキーンです!」
その笑顔には覚えがあった。いつも飛びきりの笑顔でシャキーンをするキラキラの蒼い瞳。
「そうか……その笑顔……
再びファイリーが蹲る。その様子を哀しそうな瞳で見つめるリンク。しかし、すぐに表情が変わる。
「ファイリーさん、リリスなんかに負けないで! ファイリーさんの
「そうだよ、ファイリー! 目を覚まして!」
するとリンクの横に、
「え? 雄也さん?」
「リンク……ここまでよく頑張ったね……」
「リリスはどうなったんですか?」
「優斗とルナティが倒したよ。今はプラチナちゃんを目覚めさせようとしてる」
目の前に居る雄也はなぜだか桃色のオーラに包まれていた。これは確か……リンクは雄也を見上げて考える。
「あれは確か……雄也? そうか……あたいを邪魔しに来たんだな……」
突然雄也が登場した事で、ファイリーがゆっくり立ち上がる。
「雄也さん、ここは危ないです……私ももうすぐ魔力が尽きてしまう……このままだとファイリーさんを止める事が出来ません……」
「だから俺が来たんだろ」
リンクの真似をして、雄也がシャキーンを見せる。
「雄也さん……かっこいいです……でも、危ないです!」
雄也の笑顔にリンクの顔が赤くなる……が、慌てて首を振るリンク。
「おいおい、あたいを忘れないでくれよ?
「打ち砕け!
雄也の水鉄砲から放たれる水球が龍炎刃の強力な炎の一閃とぶつかりあう! なんと炎と水が中央で巻きあがり、そのまま蒸気のように消え去ってしまった。
「な!?」
「え? え? 雄也さん今の……!」
驚いたのはファイリーだけではなかった。リンクもまさか、雄也の
「もしかして……
「そうだよ? しかも強力なね。リンク、俺達でファイリーを止めるよ?」
そして、リンクへ耳打ちした。まさか、そんな事が……と驚きの表情をするリンク。雄也とリンクが頷きあう。
「話は終わったかい? 行くよ、
灼熱の炎が巨大な渦となり、雄也とリンクへ迫り来る! 巻き上がる炎の渦が届く瞬間、周囲が光に包まれた ――
「な、なにが起こったんだ!?」
目の前に起きていた筈だった巨大な炎の渦が消えている。それどころか、雄也とリンクの姿が見えない。水が蒸発したかのような蒸気だけが、雄也とリンクが居た場所に沸き上がっていた。
「ファイリーごめん、その衣、剥ぎ取るよ?
キラキラと煌めく水の結晶が集まり、水球となってファイリーの背後より放たれ、ファイリーが後ろを振り向いた瞬間、
「ば、馬鹿な!? どうやって!?」
自身の炎が消え、自身の姿をじっと見つめるファイリー。
「ごめん、ファイリーが見るのは初めてだよね?
「ファイリー、もう自分だけで頑張ろうとしないで。ファイリーは充分強いから、もう大丈夫」
今まで誰も居なかったファイリーの眼前に、美しい女性が立っていた。清らかな水色ツインテールの髪、羽衣から水しぶきが巻きあがっては煌めきを放つ。豊かな二つの果実が実った身体で、ファイリーと同じ位の背丈となった美しい女妖精は、蒼い瞳をキラキラさせ、そっとファイリーを抱きしめていた。
「だ、あんた誰だ……やめろ……やめてくれ……」
腕を下ろした状態で、ファイリーが抵抗するが、なぜか力が入らない。リンクの身体中から浄化の力が溢れているのだ。ファイリーの手から
「ファイリー、思い出して……私よ……シャキーンです」
ウットリとした表情でいつもよりゆっくりとした動きのシャキーンは、全てを溶かしていくかのようにファイリーの心に入り込んでいった。
まだあたいが幼い頃、
―― そうか、お姫様はリンクって言うのか!? あたいはファイリーって言うんだ! 将来はこの国の騎士になる予定なんだぜ!
―― わぁ、騎士、カッコいいですー! なんか守ってくれそうな響きですねー!
―― おぅ、じゃあお姫様が何かあった時はあたいが守ってやるぜ!
―― 素敵ですー! でも友達なら、お互い助け合うものですー。守られてばかりは嫌ですー!
―― 友達……か、なんだかむず痒いな……じゃあ、お互いピンチの時は助け合おう!
―― それがいいですー! 私もファイリーさんに負けない位、強くなりますー!
―― よし、わかった! あたいとリンクは、これから良いライバルであり、大切な仲間だ! これからよろしくな、お姫様!
―― うん、よろしくね、ファイリー! シャキーンです!
身体がなぜだか暖かい……光に包まれたような感覚……心が洗われる感覚……なんだか長い夢を見ていたようだ……。
気づくと水色の髪が美しい女性が自身を抱き締めていた。あたいは今まで何をしていたんだろう……やがてお互い再び目が合う。ゆっくり笑顔を見せてくれた目の前の女性……嗚呼……この笑顔は……。
「お帰り……ファイリー……」
「ただいま……リンク……背、伸びたか?」
「これ
「そうか……あれ?」
気づくと、ファイリーの瞳から止めどなく涙が溢れていた。今まで自分がやって来た事が、記憶の奥底から蘇って来たのだ……。
「もう……大丈夫ですよ……」
「ごめんな……ありがとう……リンク……」
ファイリーの頭をそっと撫で、リンクとファイリーはしばし時を忘れ、そのままの状態で佇んでいた。
強力な
女優斗……改め優希があの時雄也へ囁いた通り、
洗礼された二名の女妖精が優しく抱き合う姿はとても美しかった。雄也は今、その様子をそっと見守っている。どうやらファイリーも元に戻ったらしい。
後は優希ちゃんが人間の女の子を解放し、プラチナちゃんを起こすだけだ。アリスとレイアさんも気になるが、レイアさんならきっと大丈夫だろう。
―― それにしてもよかった……ハンカチでそっと涙を……いや、汗を拭っただけです……決してもらい泣きした訳ではないですよ……。
誰に見られる事もなく、ハンカチで頬を拭いつつ、雄也も
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