第57話 混沌世界<カオスワールド>始まり
リリスとファイリー、和馬、ルナティが戦っている間、雄也とリンクはプラチナ・ルーミィが囚われている光を放つ檻の前へ来ていた。
「打ち砕け!
雄也の水鉄砲から強力な水球が放たれるが、光の檻に弾かれてしまう。リンクが檻に触れようとすると電流が走ったかのような音と衝撃が指に伝わり、思わずリンクは手を離した。
「痛っ!? 駄目ですー。これ、魔法も
リンクが手をぷらぷらさせながら雄也に訴える。どうやら掌に受けた電流が痛かったらしい。
「プラチナさん! 起きて下さい! 助けを求めていたのは君だよね? 君に呼ばれて助けに来たよ!」
雄也がプラチナへ向かって話しかける!
「……う……うう……」
すると頭を振りながら、ゆっくりと頭をあげ……うっすら目を開けるプラチナ。
「あ……ありがとう……でも……だめ……逃げて……!」
プラチナが涙を浮かべながら雄也とリンクへ逃走を促す。
「一緒に逃げましょう! プラチナさん! 檻をなんとかしますから」
リンクがプラチナへ声をかけたその時……
「うーん……勝手に起きてもらったら困るんだけどなぁー」
光の檻上部にいつの間にか座り、足をぷらぷらさせながら喋り出したのはアリスだった。
「ア、アリス!」
雄也がアリスを睨みつける。
「そんな怖い顔しないでよぉー。マリネちゃーん、出番だよーー!」
すると光の檻一番奥、大きな椅子に座り、おかっぱで眼鏡をかけた女の子が目を閉じたまま全身から光を放った。光はそのままプラチナ・ルーミィの身体に照射され、プラチナ・ルーミィは立ったまま気を失った。おかっぱの女の子は目を閉じたまま、涎を垂らしながら笑みを浮かべている。
「な! 何をしたんですか!」
リンクがアリスへ言葉を投げかける!
「大丈夫だよ。プラチナ先輩は今死んでもらったら困るものー。マリネちゃんの夢を叶えるためには、プラチナ先輩に眠ってもらって、マリネちゃんに歌ってもらわないといけないんだー。あの子今、アイドルになる夢が叶って幸せそうでしょう?」
アリスは当然の事をしているんだという表情だ。
「それは夢の中でって事? いや、でも夢見の回廊で眠っているって事は……」
雄也が喉に引っ掛かっている何かを出そうと考える。
「あ、気づいた? だいたい分かって来たでしょう? 私の力を通して、プラチナ先輩の夢妖精としての力を
アリスはまるでクイズを出しているかのように楽しんでいる。
「つまり……プラチナちゃんの力を悪い事に使うために、そこのマリネちゃんを攫って人間の
リンクがアリスの問いかけに答える。
「ピンポーン! 正解でーす! あ、でも悪い事じゃないよー? みんなの夢を叶えてるんだもん」
「じゃあ、みんなの
雄也が核心をついた質問をする。
「さすがに気づいちゃってるかぁー。でも私
私はやってませんと両手を前に出し、違う違うという仕草をするアリス。
「いやいや、関係ないじゃあ済まされないよ。この国を崩壊させようとしている時点で同罪だ」
雄也は水鉄砲を構え、そのまま放射する。しかし、アリスは光の檻から飛び上がり、
「もうー、私は戦わないんだってばー。それにそろそろ時間だよ? マリネちゃんとプラチナ先輩は今すぐ死ぬ事はないから、
そう言うと、アリスは
―― サァ、乱レ狂イナサイ
★ ★ ★
「魚にゃーーー! おんぷおんぷにゃーーー! いただきますにゃー!」
セーラーを着た猫妖精が瞳をおんぷおんぷに輝かせて、目の前に置かれた魚料理のお皿に手をつけている。
「ちょうちんマスのシルバーシート焼きだ。たんと食べてくれ!」
筋肉ムキムキのコック帽を被った料理長が自慢の料理を披露していた。
「はふ! はふっ! 熱々にゃー。白身が光ってるにゃー! ふわふわで美味しいにゃー!」
「大変な時にありがとうございます、ガストさん!」
夢中で食べている猫妖精の横で、深々とお辞儀をしたのはメイドさん姿の女性だ。
「いや、大変な時だからこそ、ちゃんとご飯は食べるべきだぜ! なぁ、ゴル!」
そう、ここは
「僕チン、魚食べたくないー」
「プラチナちゅわーーん……あーーん。美味しい? うん、よかったー! え? うちに食べさせてくれるのー? あーん……はふはふ……うん、美味しいよー! プラチナちゅわんが食べさせてくれたから百倍美味しい」
幼児化したゴルゴンとその隣には幻覚が視えているのかプラチナと会話をしているシャム。
「駄目だ……あれは俺様にもどうする事も出来ねぇ……」
その様子を見ていたガストは両手をあげ、お手上げのポーズを取った。
「大丈夫です、リンクお嬢様達がなんとかして下さいます」
「そうにゃー! それに生中継もパンジーが止めるにゃー!」
レイアとブリンクがガストへ声をかけた。
「あんた達、無気力病にかかっていた宿のお客さんは家族に引き取ってもらったよ。冒険者や他国から来ていた者達は、
ひと仕事終えた顔でゴルゴンの女将がやって来た。淡い水色のメイド服を着た、エルフメイドのレア・トレビィも一緒のようであった。
「女将さん、ありがとうございます。あとはこのまま何も起きなければいいんですが……」
―― ガシャーン!
その時、外でガラスが割れるような音がした。窓の外を見ると、また無気力病だろうか? 外で狼男が遠吠えをあげながら暴れている姿が見えた。
「無気力病の症状でしょうか……早くなんとかしないといけませんね……」
レイアが溜息をつく。
「いや……何かおかしいぞ……やる気なくなったり駄々をこねたりはあるが、無気力病であそこまで暴れるやつは見た事ねぇ……」
窓の外を見ながら呟くガスト。
「え……プラチナちゅわん……あ、そっか……そうだね、そうしよう。プラチナちゅわんのファンは
涎を垂らしながらシャムが妙な事を呟いたため、みんながシャムに注目した。
「どうしたにゃー? まだお腹空いてるのかにゃー? 涎が垂れてるにゃ」
テーブルの横に置いてあったナプキンでシャムの口元を拭いてあげようとブリンクが手を伸ばした瞬間……
「だめ、ブリンク! 危ない!」
レイアがそう叫んだ瞬間、シャムの爪がブリンクの顔に伸び、慌てて後方に飛ぶブリンク。勢いでテーブルがひっくり返った。
「シャム! どうしたの! シャム!」
エルフメイドのトレビィが止めに入るが、シャムは素早く肘をトレビィのお腹へ入れる。うぅっ! とお腹を両手で押さえ、蹲るトレビィ。そのまま飛び上がり、ブリンクへ長く伸びた爪を振り下ろす。
「にゃー! 危ないにゃー! やめるにゃー!」
シャムの爪をブリンクが受け止め、そのままくるっと回転しながら後方へ着地するシャム。
「くそっ! 何が起きている! トレビィ! 戦闘準備だ、たぶん外も危ねぇ!」
ガストはトレビィに声をかけ、厨房へと駆け込む。
「あ、あんた! 何を……や……やべて……あんだ……」
声のした方へ皆が振り向くと、そこには椅子に縛られていた筈のドワーフが居た。そう、自らの伴侶である女将の首を絞めるゴルゴンの姿があった。ゴルを縛っていた縄は引き千切られていた。
「この国はリリス様のものだよ……ジャマスルヤツハスベテコロス」
白目を剥いた状態でゴルゴンが最後は棒読みになりながら手に力を籠めていた。
「ご主人、失礼します!」
素早く動いたのはレイアだ。ゴルゴンの首を掴み、そのまま強引に首投げをしてゴルゴンを倒す。女将が咳き込み座り込む。
「ジャマスルヤツハコロス」
瞳が赤く光ったゴルゴンは倒れている態勢にもかかわらず、レイアの脚を掴み物凄い力で投げ飛ばす。そのままレイアは後方へ投げ飛ばされるが、回転しながら咄嗟に受け身を取った。
「女将さん、大丈夫ですか!」
シャムの一撃から復帰したトレビィが女将さんを避難させる。
「嗚呼……大丈夫だよ。まさか夫に首絞められるとはねぇ……」
苦笑する女将の瞳には涙が浮かんでいた。
レイアと対峙するゴルゴン。宿の受付横に立てかけられていた斧を手に持っている。斧をそのまま投げつけるゴルゴン。レイアは飛び上がり避ける態勢を取るが、そこに現れた大男によって斧は弾かれる。そこには様々な刃物をベルトへ収めたガストの姿があった。
「メイドのお嬢さん、ここは俺様に任せて外の様子を見て来てくれ! どうやら只事じゃあないみてーだ。俺様とゴルとは長い付き合いだ。ゴルを止められるのは俺様しかいねぇー」
「分かりました! ガストさん、ありがとうございます!」
ガストにお礼を言うと、宿屋の外へとレイアは駆け出した。
レイアが外へ出る同時に、食堂の窓から何かが飛び出して来た。レイアが確認すると、激しくガラスが割れる音と共に、ブリンクが丸くなった状態で外へ投げ出されていたのである。
「ブリンク様!」
レイアがブリンクへと駆け寄る。割れたガラスの破片が手足に刺さったのか、手足の切り傷から少し赤い血が出ていた。そして、割れた窓から続けて猫妖精ならではの、しなやか且つ俊敏な動きでシャムが飛び出して来る。
「だ、大丈夫にゃー! いざとなったら回復魔法使うにゃー! こいつはうちが止めるにゃー!」
「分かりました! ここはお任せします!」
レイアはそのまま走り出す。この異変が起きているとすれば、原因はただ一つ、リリスが何か仕掛けたと考えるべきだ。咄嗟の判断でレイアはコンサート会場へと向かっていた。
―― お嬢様……皆様……ご無事で居て下さい!
レイアはリンク達の無事を願い、走る ――
「行くにゃー!
ブリンクの光る爪がシャムへと向けられる! シャムは同じく猫の爪で受けるが、光の力により弾かれ後方へと飛ばされる。そのまま回転しながら手足を地面につき、四つん這いの態勢のまま、毛を逆撫た様子で睨みつけるシャム。
「プラチナちゅわん……メノマエニエモノガイルヨ……
目に見える
「にゃ!?
「……
続け様に放たれる
「……
獲物を仕留めようと素早い動きで妖気を籠めた爪でブリンクを連続で引っ掻こうとするシャム。数撃受け止めきれずに引っ掻き傷が出来、赤い血飛沫があがる。
「痛いにゃ……何するにゃ!
ダメージを受けながらもブリンクが放った
「
自身の傷を回復させながら相手を見据えるブリンク。どうやらシャムの爪による攻撃は、
「しょうがないにゃ……少し疲れるけど、あれをやるしかないにゃ……」
ブリンクは目を閉じ、両手を握り念じ始める。やがてブリンクの両手が光を放ち始めた。
「エモノ……エモノ……」
両手両足を地面につけ、四つん這いの状態でブリンクを見据えるシャム。爪は紫色の光を放ち、まさに獲物を仕留めるべく、迎撃態勢を取っていた。念じ始めて動かなくなったブリンクを見定めると、そのままブリンクへ飛びかかる。しかし、シャムが飛び上がった瞬間、ブリンクの閉じられていた両目が見開かれた!
「うちの
両手を指先をシャムへ向けた状態でブリンクが叫ぶと、ブリンクの爪が指先から放たれたのである! 爪は小さな光の刃となり、シャムへと突き刺さる。しかも一度ではなく、一瞬で生え変わる爪は無数の弾丸となり、シャムを一網打尽にした。
「……プ……プラチナちゃ……あ……あれ……私は……」
シャムの赤い瞳は元の白い猫目へと戻っていた。
「その様子は元に戻ったかにゃ? 今すぐ回復させるにゃー!」
ブリンクの笑顔を見たシャムはそのまま気絶した――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます