第56話 リリスとアリス
透明の扉を開け、中に入る雄也達……。
「リリスの罠があるかもしれないわ、気をつけて!」
ルナティが警戒しながら先陣を切り、皆後に続いたのだが……
「え? これは?」
「え……どうして? 凄く……綺麗です……」
雄也とリンクが感嘆の声を思わずあげた。
眼前に広がる光景は、うねうねと渦巻いた夢見の回廊ではなく、見上げると
「これも敵の能力なのかな……」
優斗が星空を見上げながら呟く。
「みんな下がって!」
優斗の疑問へ答える前に、ルナティが皆の前に立ち、下がるよう促した。広い広い星空の下へ浮かぶ舞台。前方からお姫様のようなピンクと白が基調のプリンセスドレスを身につけた女の子がとことこ歩いて来た。女の子は警戒する一同の前でわざとらしく右手を前に出し、お辞儀をする。
「ようこそ!
にこっと笑うアリス。敵の本拠地に潜入したとは思えない空間と女子の出現に戸惑いを覚える雄也達。しかし、皆警戒を解いてはいない。ルナティがアリスへ話しかける。
「騙されちゃだめよ! コンサート会場で私の
「うーん……そんなまとめて聞かれても困るなぁ……
何事もなかったかのように、先に進もうとするアリス。
「え……案内って……」
優斗が思わず反応する。
「攻撃する意思は全く無さそうよ。どういうつもりかは知らないけれど、ここは大人しく付いていきましょう」
心を読んだのであろうか? ルナティがそういうと皆アリスの後に続いた。
「この星空のステージ素敵でしょう? これ私が作ったんだよー? 夢見の回廊って凄いよねー。
歩きながら笑顔で話し続けるアリスに対し、逆に不信感を覚える雄也。それに気になる事があった。妖精が出している妖気力というか、独特な雰囲気を全く感じなかったのだ。それに、
「アリスって言ったね……君……もしかして……人間?」
「えー、その言い方やだなぁー。これでも夢みる乙女だよー? みんなの夢を叶えるためにここに来たんだからー! それに人間なのは、雄也さんも優斗さんも同じでしょー」
ふいに振り返って笑顔になるアリス。星空の光にアリスの金髪がキラリと煌めき、蒼い瞳と緑色の瞳をしたオッドアイが雄也達をまっすぐ見つめた。
「今なんて言った?」
「!? どうして俺の名前を」
アリスの発言に思わず反応したのは雄也と優斗だ。どうして名前を知っている。リンクは舞を舞う態勢、ルナティは鞭に手をやり構えている。
「知ってるよー。だって雄也さんも優斗さんもせっかく私が用意した
無邪気さしか見えない笑みだが、この時雄也は、アリスの瞳が笑っていない気がした。
「そんなものはまやかしだ。結局はただの夢でしかない。それに作られた夢なんて、そんな偽物には騙されないぞ」
「あんな女悪魔とラブラブになんてなりたくないやん! 夢なんて自分で叶えようとするから人生面白いんやん? まぁ、俺はそんな大した人生まだ送ってないけどさ。それでも幻想の中で生きるなんて、俺は嫌だよ」
雄也と優斗がアリスの意見に異論を唱える。
「おかしいなぁ……みんな喜んでくれると思ったんだけどな……」
アリスが困ったような表情に変わる。全く悪気がないような仕草に恐ろしさを覚える雄也達。
「やっぱりこいつ……ここでやるしかないわね」
「雄也さんを騙すなんて許せないです!」
すぐさまルナティとリンクが迎撃態勢を取る。ルナティが放つ鞭をかわしながら、両手を前に出し、アリスが弁明する。
「え!? ちょっと待って待って! どうしてそんなに怒るのー? あ、そうか、分かった! リンクさんとルナティお姉さんにも夢を見せてなかったから? ごめんなさい、それは怒るよね」
「清き水よ、閃光となり、悪しき壁を突き破れ!
アリスの言葉を無視して、リンクが右手の人差し指と中指を突き出し、
「もうー、そんなに焦らないでよー。もうすぐステージで宴の本番が始まるんだから!」
アリスの声だけが辺りに響き渡り、やがて前方に少し高台になっているステージが現れた。ステージの上で何かが激しく動いている様子が見える。
「アリス! 出て来なさい! 私達が相手してあげるわ!」
ルナティが『アリスの声』に向かって叫ぶ。
「やだよぉー。私戦いたくないもん! それにそんな事言ってる場合じゃないと思うよ」
アリスのその言葉を聞き、なんとなく前方のステージを見る。すると、見た事がある赤い髪の女妖精と紫色の髪をなびかせゴスロリのような衣装を身につけた女悪魔が激しく戦っているのが見えた。さらにもう一人、青年の姿も見える。
「ファイリー! 和馬!」
雄也達は急いでステージへと向かう――
激しく金属がぶつかりあうような音が辺りに響き渡る!
「あれがリリスさんですね。それにしてもファイリーさん、さすがですー」
リンクがファイリーの動きを見て称賛する。
「あれが……女悪魔リリス……」
「なんか……明らかに危険な香りがするやん……」
雄也と優斗は、初めて対峙するリリスを見て思わず呟いた。ゴスロリの姿に長い紫髪、服の隙間からは溢れんばかりの胸、短いスカートから網タイツを履いた細い脚が伸び、黒いヒールを履いている。それだけだと、男を誘惑するセクシーな女性といった印象だか、青白い肌と紫の瞳と細く広がった口、頭から生える二本の角が、悪魔を彷彿とさせていた。ナイトメア程の妖気力は感じないが、何か近寄ってはいけない、全てを見透かされているような気配を感じ、雄也と優斗は寒気を覚えた。
「さて、アリスはどこに行ったのかしら……」
周りを見渡してもアリスの姿はない。恐らくどこかで見ているのだろう。中央舞台には何もなく、舞台脇に、大きな鳥籠のような、光る檻のようなものも見えた。
「リンク、ルナティさん! あれ……!」
雄也が指差した先には、光る檻の中にプラチナ・ルーミィの姿が見えた。背後に何やら眼鏡をかけた女の子も見える。プラチナ・ルーミィは気を失っているのか、下を向いたまま佇んでいる。
「あれはプラチナ・ルーミィと……きっと行方不明の女の子に違いないわ!」
みんなどちらへ行こうか迷ったその時……。
「火の神よ……
正龍の力を纏った強力な炎がリリスへ向けて一直線上に放たれる。
「無駄よ! 貴女の攻撃は見えているもの」
すぐに今まで閉じていたアンブレラを開くリリス。そのままリリスの姿が炎に包まれ見えなくなる。
「へぇー、それ、盾にも矛にもなるんだな!」
炎に包まれたままのリリスへ向けてファイリーが話しかける。最初から、今の炎で倒したとは思っていなかったらしい。
「便利でしょう。このアンブレラはね、攻撃も防御も出来るのよー。この間は今そこに居るルナティにも披露したのよ?」
やがて炎が消え、リリスの姿が見えると、リリスはアンブレラを閉じ、指差す代わりにアンブレラの先をルナティヘ向けた。
「リンク、ルナティ! 遅かったな! 先に始めてるぜ!」
ファイリーがリンク達に気づき、リリスを見据えたまま声をかける。
「雄也、優斗! どうやら俺たちが先にたどり着いたみたいだ」
和馬も雄也、優斗に声をかけた。
「先日はよくもやってくれたわね」
ルナティがそのままステージへと上がり、リリスへ笑顔で話しかける。
「あら、あの時殺したと思ったのに、よく生きていたわね」
アンブレラを肩に乗せ、リリスがルナティへと視線を送る。
「まぁ、私も死んだと思ったけどね。もうこの前みたいには行かないわよ」
ルナティが鞭を構えて対峙する。
「何度やっても同じよ。何ならみんなでかかって来てもらってもいいわよ?」
リリスは余裕の表情だ。
「じゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ!」
ファイリーが再びリリスへ向けて斬りかかる! そのままリリスがファイリーの攻撃を受け止めるが、ファイリーの勢いに押され、少しずつ後退する。
「リンク、雄也君はプラチナ・ルーミィのところへ! アリスの動きを警戒して! 優斗! ファイリーを加勢するわよ!」
ルナティがすぐさま指示を出す。
「え、あ、了解!」
優斗が俺も参戦するのねーって顔でそのまま舞台へとあがる。
「雄也さん、光の檻へ向かいましょう!」
「リンク了解!」
雄也とリンクはプラチナ・ルーミィの下へ向かった。
「力だけは強いっ、わねっ! でもそういうの好きよ!」
ファイリーの炎を纏った攻撃をアンブレラで弾きながら左手を口へ当て、投げキッスを送るリリス。何か来ると警戒したファイリーがそのまま上体反らしで回避する。
「なっ! 今のは!」
「回避したのは正解よ! でも、これならどうかしら?
アンブレラを横にし、両手に持った状態で何かを放つリリス! しかし、ファイリーには何も見えなかった。剣を構えたまま防御の態勢を取ろうとするファイリー。
「ファイリーだめよ!」
そのままファイリーに飛びかかり、一緒に押し出したのはルナティ。だが、舞台上に変化は見られない。
「な、どうした? 今のは何だったんだ! ルナティ!」
押し出されたのに対し、訳が分からず困惑するファイリー。
「リリスの攻撃は
ルナティがファイリーに説明する。
「ああ、確かに今のは厄介だな。今まで使って来てなかったという事は、やつも少し本気を出して来たという事か……」
今まで手加減されていたと知り舌打ちするファイリー。
「ちょ! ルナティ! 今の
優斗がルナティの横にやって来る。
「え? 待って……優斗……
まさかの優斗の発言に驚いたのはルナティだ。
「
頭にハテナマークを浮かべる優斗。
「あたいには何も見えなかったぜ?」
ファイリーが優斗にそう告げる。
「あら? そこの眼鏡君ー凄いわねーーー私の攻撃が
そのまま投げキッスを送るリリス。優斗は横に飛んで何かを避ける。ファイリーには何も見えていないのだ。
「えぇーー、ハート飛んで来たしー! い、いえ、間に合ってます。……お姉さん怖そうだし」
優斗は誘惑に屈しないよう警戒していた。どうやらハートが飛んでいる絵が優斗には見えたようだ。
「怖くないわよーこっちへおいでー」
リリスが甘声で優斗を誘惑する。
「優斗は私とラブラブだから誘惑しても無駄よー」
胸を優斗に押しつけてアピールするルナティ。優斗はしゅ、趣味じゃないからーと言いながら鼻の下を伸ばしている。
「じゃあ、そちらの女戦士さんはー?」
リリスがファイリーに視線を送る。
「あたいも間に合ってるぜ!」
そのまま再び走り出すファイリー! 突き、回転しながらのなぎ払い、低い体勢から突き上げ、そのまま飛び上がった状態からの斬りつけと、連続攻撃を放つ。その度に炎が舞い、火花が飛び散る。ファイリーは素早い動きで魔法詠唱させない算段だ。事実リリスはアンブレラでファイリーの攻撃を打ち払い続ける必要があったために、投げキッスを送る余裕すらないようだった。
「
優斗の肩に手を置いたルナティ。優斗が叫ぶと、桃色の光がファイリーに向け放たれる、瞬間ファイリーの姿がリリスの視界から消え……。
「な、何をしたの!?」
突如視界から消えたファイリーを探すリリス。すると、背後から声が聞こえる。
「こっちさ ――
今まで以上の業火がリリスを襲い、アンブレラでガードしようとするが、そのまま吹き飛ばされるリリス。かろうじてアンブレラでガード出来たのか、そのままゆっくり立ち上がるリリス。ゴスロリ衣装が少し焼け焦げていた。
「残念ね、このくらいじゃあ私にダメージは与えられ……」
「―― 熱くなれ!
その瞬間、さらに
「くっ、こんなもの!」
そのままアンブレラで短剣を弾き返すリリス。が、眼前の短剣を弾いた時、目の前にはもう一本の短剣が飛んで来ていた。
「ぎゃあ!」
リリスの身体に突き刺さった
「よっしゃ! やったぜ!」
そのままファイリーの下へと駆け寄る和馬。
「凄いやん! 今の!」
優斗が驚いて和馬に尋ねる。
「ハンドダガーと同じ軌道に
いつもと違う手応えを感じ、満足な表情の和馬。
「……欲しい……欲しいわ……その力……」
焼け爛れた身体をそのままに、リリスが腕をだらんとし、緑色の血を流しながらアンブレラを捨てた状態で、ゆっくり歩いて来ていた。
「もう、あんたはここで終わりだぜ! 意外と呆気なかったな!」
ファイリーが止めを刺すべくリリスへ対峙する。
「それはどうかしらね……もう準備は整ったわよ」
リリスが不敵な笑みを浮かべる。
「あら、この期に及んで何をするつもりかしら……」
ルナティもリリスを見据える。
「欲しいのよ、その力……全て……全て! 私のモノになるのよ! さぁ、時は満ちたわ! 宴を始めましょう! ここからが本番よー!」
リリスがわざとらしく両手を広げる。
「ファイリー気をつけろ……何かする気だ……」
「嗚呼、大丈夫だ相棒……」
和馬とファイリーも警戒する。
―― サァ、乱レ狂イナサイ
紅く細い口を広げ、女悪魔はニヤリと嗤う。
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