第53話 プラチナコンサート 潜入
プラチナコンサート二日目は何事もなく開催された。ルナティは予め
雄也の周りには、耳の長い人、人型だが、猫の顔の女の子、全身真っ白の毛だらけの人。横にはリンク、優斗とルナティ、和馬とファイリーの姿があった。
「みんなーー! いっくよーー!」
アイドル妖精、プラチナ・ルーミィはとても可愛らしい妖精だった。オレンジ色と白が基調のフリフリな衣装。亜麻色ショートのツインテールはステップを踏む度に揺れて弾む。お尻の大きなピンクのリボンも可愛らしく、可憐な歌声に会場の盛り上がりも最高潮となった。雄也達もしばし任務を忘れ、コンサートの盛り上がりを楽しんでいた。やがて虹色のスポットライトが消え、ステージが明るくなる。次が恐らく時間的に、昨日問題が起きた曲だろう。気を引き締める雄也達。
「―― それでは聞いて下さい。『
……
♪夢のかけらを集めて いま君に会いに行こう
君と共に夢を渡り 虹の舞台で踊るダンス
明日へと繋ぐ君とのステップ 君と僕とで創る未来♪
……
それはとても綺麗な歌声だった。
会場は静まり返り、みんな凛とした歌声に聞き入っている。
聞いた事のない曲の筈が、既視感を覚える雄也。聞いていて気持ちが安らかになる曲……。何度も夢に出て来た光景がそこにあった。
…… 助けて。
そうだこれだ。やはり、プラチナ・ルーミィが助けを求めているんだ。歌声はホール全体へと響き渡り、思わず聞き入ってしまう。しかし同時に、なぜか冷たく背筋が凍るような空気を感じ、雄也は鳥肌が立っていた。
…… 助けて!
歌声とは別の悲痛な声が頭の中へ聞こえて来る。
「このままプラチナ・ルーミィの夢へ飛ぶわよ?」
ルナティが皆へ促したその時、
―― それは困るんだよね。
目の前のプラチナ・ルーミィは歌っているはずなのに、違う女の子の声が聞こえたのだ!
次の瞬間視界がぐるんと回転し、急に頭が重くなる雄也。
「ま、まさか! 私の
遠くでルナティの声が聞こえる。瞼が重い。だめだ、頭がぼーーっとする。視界はぐるぐる回っている。薄れていく意識の中……雄也には、蒼い瞳と緑色の瞳が一瞬見えた気がした。
―― みんなの夢、叶えてあげるねー。
そんな声が遠くに聞こえ……。
再び世界は暗転した ――――
★★★
―― ……斗 ねぇ、優斗!
「ん……んん……ここは……え!?」
どうやら眠っていたらしい。優斗が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。
「起きたわね。もう、うちの店手伝っている最中に倒れるもんだからびっくりしたわよ!」
このちょっと強めの口調……黒髪ショートボブにキリっとした二重の瞳。間違いない、目の前に居るのは、優斗の幼馴染である
「……あれ、おかしいな……俺コンサート会場に居た気がするんだけど……」
「なに寝ぼけてんの! ここは私の部屋よ! 心配したんだからね。私が介抱してあげたんだから、感謝しなさいよ」
そうなんだ。目をこすりながら優斗はゆっくり起き上がる。
「へぇー、
ピンクの花をあしらったフリフリの布団にくまのぬいぐるみ、部屋には高校の制服がかけられていた。
「なによ! こんな美人の女子に向かって何を言うかと思えば」
そういうと
「ぐはっ、やめ、やめっ、美優くすぐったいからー分かった、ギブ! ギブ!」
突然くすぐられて悶絶する優斗。ベットの上で転げまわる。するとそのまま勢い余って優斗の目の前に美優の顔が迫る形になる。
「もう、優斗……ちょっとは女の子として私を見なさいよね」
急に恥ずかしそうな表情をする美優。
「え? どうした? 美優?」
美優の瞳から視線を逸らそうとするがじっと見つめられて逸らす事が出来ずに居る優斗。
「優斗……私ずっと……待ってたんだから……」
美優にじっと見つめられる優斗。
「美優……俺……」
優斗も考えが追いつかないまま目が虚ろになって来る。美優の瞳が紅く光っている。
「いいのよ優斗、もう何も考えなくていいからね……私に身体を委ねなさい……」
美優は口を広げ笑みを浮かべながら優斗に顔を近づけ……。
―― はーい、そこまでーー!
「!? 誰!?」
突然横から聞こえた声に振り向く美優。そのまま優斗から離れ飛び起きる。そこには、レオタードのような服装に白いシルクの羽織を羽織ったブロンド髪の夢妖精が立っていた。そう、ルナティだ。
「私の優斗から離れなさい。優斗の幼馴染ならまだしも、
「いや、だって美優から迫られるなんてチャンスないし。唇柔かそうだったし……」
そして、優斗もベットから起き上がる。一瞬術にかかりかけていたなんて言えないのである。
「もう優斗! 柔らかい唇くらい私がいくらでもあげるから我慢しなさい」
「いやぁールナティはルナティやん? 美優は美優だし……」
ルナティと優斗のやり取りに怒りを露わにする美優の偽物。
「貴様らーー馬鹿にしやがってーー!」
次の瞬間、美優の爪が伸び、ルナティに襲いかかる。ルナティは素早く飛び上がり、鞭で美優の身体を一閃した。バチンという衝撃と共に服が引き裂かれる美優。美優の身体から血が飛び散ったが、それは赤い鮮血ではなく、紫色のドロリとした液体だった。美優の身体そのままに、もぞもぞと美優の顔だけが蠢き、二本角の生えた青白い顔の女悪魔が姿を現した。
「獲物は渡さんぞー!」
女悪魔はあろうことか、優斗の唇を奪おうと優斗へ飛びかかる! ……が、しかし!
「――
優斗から放たれた光弾により刹那吹き飛ばされる女悪魔。そのまま壁に激突する。
「馬鹿な……なぜ人間が魔法を……!」
女悪魔の疑問に答えられる事はなく、ルナティがとどめの一撃を与える。
「終わりよ、愛の一閃、
そのまま女悪魔の肉体は真っ二つに引き裂かれ、部屋の壁と、かけられていた制服に、紫色の液体が飛び散ると共に消滅した。そして、美優の部屋であった空間が夢見の回廊へと変化する。
「やった!」
自身の両手を見つめながら優斗が手応えを感じる。どうやら優斗は、
「ナイスよーーさっすがぁー私の優斗。やっぱり十六夜のところで特訓していて正解だったわねー」
そういうとルナティが優斗を抱きしめる。二つのメロンに埋もれる優斗の顔。
「んぐ……埋もれる……ルナティ……埋もれるからー」
「あ、ごめんごめん! 優斗喜ぶかなと思って」
解放されて肩で息をする優斗。
「いやぁ、そういうの趣味じゃないから……」
「そう言いながら、優斗顔真っ赤よ?」
「それはルナティ……昨日の
「えぇー? 優斗ー喜んでたくせにぃー?」
昨日ルナティと優斗に何があったかは、あえて突っ込まないでおこう。
「さて、ここからが本番ね。雄也君と和馬君にも作戦は伝えてあるから、自力で
ルナティの表情が変わる。
「ルナティ、道のりはわかるの?」
岩場と岩場、クリスタルの階段、コンサート会場にあった椅子や機材が宙に浮かぶ空間、ここからリリスの下へと辿り着けるのだろうか?
「ええ、大丈夫よ。雄也君や和馬君。それにプラチナ・ルーミィらしき夢も視える。まずは皆合流して、目的地へ向かうわよ」
「おーけー」
―― キェエエエエエ!
突如、目の前に黒い影のような化物が現れる。
「愛の一閃、
ルナティが鞭の一閃を放ち、黒い影は奇声と共に消滅する。
「ル、ルナティ! い、今のは?」
驚きながら優斗がルナティへ尋ねる。
「夢見の回廊が不安定な時に出てくるナイトウィスプよ? あ、そっか。優斗は初めてみるんだっけ? 言ったでしょ。精神攻撃か、魔法しか効かない敵が居るから
「あ、そういう事ね……こりゃあ簡単な道のりじゃなさそうだね」
「はい、喋ってる暇あったら手を動かす」
ルナティが再び鞭の一閃を放つと、ぐしゃあという引き裂かれる音と共に、黒い液体が優斗の顔に降りかかった。顔を触るとぬめっとした液体が手についた。
「うげ……気持ち悪い……雄也に後で水鉄砲かけてもらおう……」
ルナティと優斗は、雄也達と合流すべく先を急ぐ――――
★★★
「雄也さーん、もう私、我慢出来ません……」
マウントポジションを取られ、身動きが出来ない雄也。リンクの可愛らしい蒼色の瞳がウルウルしている。いつもとは違う艶めかしい表情でゆっくりと雄也へ顔を近づけるリンク。思わずドキリとする表情に、一瞬我を失いかける雄也。リンクの口元が一瞬ニヤリと歪む。
――!?
次の瞬間、雄也はリンクのお腹へ思い切り蹴りを入れる。リンクが後ろへ飛び上がり、ベットの下へ着地する。
「やめてくれ……リンクの真似事なら他でやってくれよ」
雄也がゆっくり宿屋のベットから起き上がる。目の前に居るリンクは、ゴルの宿屋で起きた出来事を再現しようとしていたのだろう。しかし、雄也は目の前に居る
「雄也さん……酷いですぅ……どうしたんですか? ……私です! リンクですよー」
泣き笑いの表情で近づくリンク。泣いているリンクを見るのは偽物だとしても心が痛い。
「じゃあ、試してみようか?
雄也の目の前に青白く光る魔法陣が出現し、光とともに、本物のリンクが出現する。目の前に居るリンクが本物なら、こうして使役する事で本物のリンクが出てくる筈はない。舌打ちをして後ろに飛ぶ偽物。
「うわぁー凄いですー。私そっくりですねー雄也さん!」
いやいや、そんな感心している場合じゃないから、そう思う雄也だが、本物のリンクが出て来た事に安堵していた。やはり目の前に居るリンクは偽物だった。優斗やルナティさんの言う通りだったと雄也は確信する。
「確かにリンクにそっくりだけど、俺を
「へぇー、雄也さんを誘惑したんですか……」
――あれ? いつも笑顔のリンクが笑ってないぞ……何か下を向いてるぞ?
「貴様らー死ねーー!」
偽物が爪を伸ばし、リンクへと飛びかかるが……。
「サヨナラ ――
「雄也さん、もう、誘惑になんか負けないで下さいね!」
リンクがぷくーっと膨れた顔を近づけ、雄也に訴える。
「いや、大丈夫だよ、誘惑に負けてないからリンクを使役出来たんだし」
雄也はリンクの頭に手を当ててナデナデするのだった。
「えへへ……そうでした……」
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