第45-2話 温泉と再会と(後編)

「で、本当にそんなんで使役出来る訳?」


 ウインクが疑いの目で三人を見る。和馬と契約すると言っても、妖精を使役するところを見た事もなかったため、今回は和馬がファイリーを使役する件を了承したようだ。


 和馬と契約するには使役具サモンファクターも居るし、どうやら契約には、妖精の巫女、或いは一定以上の妖気力を持った者の了承が居るらしい。


 確かに過去はエレナ王妃や光の国ライトレシアではブリンティス村の族長アラーダが立ち会っていた。夢の国ドリームプレミアにも夢見の巫女なる者が存在しているらしく、その巫女に頼もうなどと、ウインクは言っている。一般の者が巫女にはなかなか会えないぜとは宿屋の主人、ゴルゴンは言っていたが。


「まぁまぁ、見てなって!」


 和馬がウインクを制止する。ちなみに宿屋の中では目立つだろうと、宿屋裏手の路地へと移動している。野次馬が集まっても嫌だしね。ここに居るのはウインクと、雄也達三人だけである。


使役主マスター、マスターユウヤの名において、ここに示す。夢みる力ドリーマーパワー接続リンク! 出て来て、水妖精アクアフェアリー、リンク!」


使役主マスター、マスターユウトの名において、ここに示す。夢みる力ドリーマーパワー接続リンク! 出でよ、夢妖精ドリームフェアリー、ルナティ!」


使役主マスター、マスターカズマの名において、ここに示す。夢みる力ドリーマーパワー接続リンク! 出で来い、火妖精イグニスフェアリー、ファイリー!」


 三人が並んで同時に詠唱を始める。雄也の前には青白い光、優斗の前には桃色の光、和馬の前には赤色の光と共に魔法陣が現れ、やがて光が大きくなる。


 やがて、和馬の前には、深紅の長い艶やか髪と、戦乙女のような赤い鎧が特徴の火妖精イグニスフェアリーが……ってあれ?


 そして、雄也の前には水しぶき模様の羽衣を着た蒼眼妖精のリンクが……ってあれ?


――!?


 突然の光景に目をこする雄也。


――おかしいな……リンクを呼んだハズなんだけどなぁ。水色の装束はどこだ? いや、髪の色と顔、蒼色の瞳はリンクだよなぁ……あれ? その身体には豊かな双丘が……しかもなぜか水溜まり出来てますよ? どんな状況?


「ゆ、雄也さぁああん! ふぇえええ! 会いたかったですーー!」


 うるうるとした瞳のまま、雄也にダイブするリンク。そう、雄也はそのびしょびしょの身体を受け止めて気づいた。このはなぜか今、何も着ていないのである。


「リ、リンク! そ、その格好どうしたの!? ずぶ濡れだよ? それに、む、胸が当たってるから……」


 リンクの身体が暖かい。そして、柔らかな果実が雄也の胸に静かに沈む。何が起きたのか分からない雄也。しかも、普段なら恥ずかしがって身体をきっと隠すであろうリンクがそのままダイブして来たものだから様子が違う事が分かる。


「お、おい、ファ、ファイリー!? どうしたんだ! 誰かに襲われたのか!?」


 上と下を同時に隠したファイリーに向かって声をかける和馬。


「い、いや、違うから! どちらかと言うと襲われたというより、襲って……いやいや、タイミング悪いぜ相棒! 温泉浸かってるタイミングだったんだよ!」


「お、温泉! あ、嗚呼……そういう事か……それはすまん」


 鍛えている肉体とは言え、ファイリーも胸の膨らみと丸みのある身体は女の身体それそのままだ。さすがに目をそらす和馬。


「雄也さーん、私……身体があついんです……雄也さーん……もう、好きにして下さい」


 うっとりした表情のまま雄也を上目遣いで見つめるリンク。てか、この子こんな表情も出来るんだ。思わず唾を飲み込む雄也。でも、慌ててブルブルと首を振る。


「リ、リ、リンク! 温泉で逆上せたんじゃない? 取り敢えず服を着よう……って服は使役出来てないのか!? こういう場合どうすれば!?」


 なんとか理性を保っている雄也があたふたしている。


「なるほどー、あれが和馬の契約者パートナーね。確かに強そうだけど、胸の大きさとセクシーさなら私の勝ちね。それにしても、あの雄也とかいう子の契約者パートナーは大胆ね。子供っぽい顔であの行動! あれは侮れないわね!」


 勝手に一人納得しているウインク。しかし、そんな羨ましいような光景の中、一人憔悴した表情の青年が居た。


「くそ! なんで出て来ないんだよ、ルナティ! いつもみたく俺を誘惑していいからさ。 なんだよ! 返事してくれよ」


 いつもなら、身体を露にした女妖精が目の前に居るとくれば大興奮で飛び付くハズの優斗が、桃色に光ったままの魔法陣を叩いていた。魔法陣は出て来たのにルナティが現れない。優斗は彼女の身が心配だった。


 いつもなら、『あらー、みんな裸なら私も優斗とひとつになっちゃっていいわよねー。優斗、一緒に産まれたままの姿になりましょう』なんて、優斗に迫るのがルナティなのだ。やがて、魔法陣が静かに地面から消えていき、元の土が現れる。


「エロ斗君……大丈夫? 契約したの、夢妖精なんでしょ? その妖精に何かあったん……」

「そんなハズないよ! まだ短い付き合いだけど、そう簡単にられる妖精じゃないから! ルナティ! 俺だよ、優斗が夢の国ドリームプレミアまで会いに来たんだから、返事してくれよ!」


 ウインクが言い終わる前に、いつもより強い口調で愛の指輪セクシングリングに向かって話しかける優斗。


――ザザ、ザザ……。


 愛の指輪セクシングリングに一瞬反応がある。


「え? ルナティ!? 無事なの?」


 指輪に向かって話しかける優斗。


森山優斗もりやまゆうとさんですね。私は夢見ゆめみ巫女・・十六夜いざよい』です。よくぞこの国にかかる結界を破り、夢の国ドリームプレミアまで足を運んで下さいました」


「え? え? 嘘でしょ、夢見の巫女がどうして?」


 驚きの反応を見せているのはウインクだ。夢見の巫女というだけあって有名な方らしい。


「どうして俺の名前を? ルナティはそこに居るんですか?」


 優斗が声の主へ投げかける。


「心配は要りません。ルナティは生きています。貴方の事はずっと視ていました。貴方がルナティと契約するずっと前からです。ルナティは今、私が居る夢見御殿ゆめみごてんに居ます」

「ゆ、夢見御殿?」


 夢見の巫女の言葉に反応する優斗。


「貴方がルナティを強く呼び掛けてくれたお陰で気づく事が出来ました。まずはそちらの妖精さん達の服を取りに戻った後、夢見御殿へおいでなさい。それから、結界の内側から使役して下さった事で夢渡りの力ドリームポーターを一時的に繋いでいます。に気づかれる前に他の妖精達も連れておいでなさい。それから、そこのウインクさん」


「え? は、はい! 私?」


 突然名前を呼ばれて困惑するウインク。思わず周りを見渡す。


「貴女もどうやら素質・・をお持ちのようです。一緒に来るといいでしょう」


 夢見の巫女が提案する。


「凄い! 夢見の巫女に会えるんですね! 行きます! すぐ行きます!」


 ウインクが姿勢を正してなぜか敬礼している。ウインクが敬語なあたり、夢見の巫女はきっと相当の力を持っているのであろう。


 その直後、地面ではなく、ワープゲートのような渦が空中に浮かんで出て来た。


「さぁ、リンクさんとファイリーさん。先ほどいらっしゃった場所へ一時的に繋げました。よろしくお願いします」


 夢見の巫女がリンクとファイリーに話しかける。


「お、おう、助かるぜ。和馬、ちょっと待っててくれ!」

「おう、分かったぜ」


 お互いばつの悪そうな表情のまま、言葉を交わすファイリーと和馬。


「雄也さん、す、すきですー」

「ちょ、リンク! ほら、リンクも行くよー!」


 ほわほわした表情のまま、雄也へうっとり話しかけるリンク。最早、十六夜いざよいの声は届いていないのではないだろうか? 雄也は、リンクの代わりに女性の大事なところを隠しつつ、リンクを抱き寄せたような状態で――柔らかい部分が触れる度に理性を必死に保ちながら、ゲートへと連れていってあげた。


「え、ええええ!? リンクとファイリーさんの美しすぎる女体が露にぃーー」

「いやいや、エロ斗君……エロ斗君の癖に、気づくの遅すぎでしょ!」


 ルナティが無事と分かり安心した優斗が、ようやく周りを見渡したところで、今更リンクとファイリーの女体に気づいたのであった。




 こうして、雄也達とリンク達はようやく再会を果たす。レイア、パンジー、ブリンクも合流し、いよいよ夢の国ドリームプレミアに雄也達パーティーが足を揃える事となる。尚、正気を取り戻したリンクが、しばらく雄也の前で顔を真っ赤にしていたのは言うまでもない。

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