第43-2話 突然の転移(後編)

「いや、お姉さん、俺は何もしてないから!」


 シーツ片手に下半身を隠しつつ、もう片方の手を前に出し、弁解をしている男。その対面には……。


――え、これバニースーツ?


 雄也が驚くのも無理はない。女性が着ている格好は、あのカジノとかでよく見る格好だったのだ。上は白と黒の若干ワンピースっぽくも見えるが、ボタンと首筋のリボン、後ろの丸い尻尾はまさしく兎のものだった。黄緑色でポニーテールの髪と淡いピンク色の耳には、カチューシャのようなヘッドドレス、若干顔も兎っぽいのは気のせいだろうか? 赤い瞳が余計にそれっぽく見せる。


「何が何もしてないよ、私みたいなか弱い女の子をその鍛えた肉体で襲ったんでしょ。朝起きたら君が裸で一緒に寝ていたのが何よりの証拠だわ。だって……私……今、下履いてないし……」


 途端に顔を赤らめ手で隠す。脱ぎ散らかした網タイツと可憐なピンクのおぱんつ・・・・がベットの下と横に落ちていた。メイドさんや猫妖精も手を口元にあてて、赤くなっている。


「ウ、ウインク! そいつに襲われたのか! よし、俺様がとっちめてやろう! このチビ野郎が!」


 筋肉ムキムキの男が詰め寄る。


「いや、俺は何もしてないですから! 家のベットで夜寝ていて、朝起きたらここに居ただけで……」

「そんなの通用しないよ。責任取ってくれるんでしょうね!」


 顔を赤らめたまま詰め寄るウインクと呼ばれた女妖精。

 

「待、待ってください!」


 そこに間を割って入った男が居た。


「ゆ、雄也!」


 そう、止めに入ったのは雄也だ。そして、問い詰められているのはもちろん……。


「そこの男は俺たちの仲間です! 彼は熱血で人情肌な男です。そんな女の子を襲うような事をするやつじゃありません!」

「俺からもお願いします。俺達隣の部屋に泊ってたんです。きっと部屋を間違えて寝てしまっていたんじゃないかと思います」


 雄也に続いたのは優斗だ。


「じゃあ、裸なのはどう説明するんだ?」


 ムキムキのおっさんは今にも和馬に飛びかかりそうだ。


「いや……俺、寝る時全裸なんすよ、いつも。自然に還るというか、その方がよく眠れるんです」


 ムキムキのおっさんからの質問に和馬が答えたのだが……。


 ――いやいや、それ初耳だし。和馬いつも全裸で寝てるの? せめてパンツ履こうよ……てか、何気にスポーツやってただけあって和馬って、筋肉あるし体格がいい。ムキムキのおっさんに対抗出来るんじゃね? いい身体だけあって裸が映えるのだ。いや、むしろ高校生で腹筋割れてね? 事の成り行きを見守っていた猫妖精とメイドさんも心なしかウットリしている気がするんですけど。


 雄也が心の中で突っ込みを入れる。


「そうか、わかった……」


 ムキムキのおっさんが目を閉じ、そして……腕を振り上げた。


「和馬危ない!」


 雄也と優斗が止めに入ろうとすると……。


 ――あれ?


「いやぁ、実は、俺様も夜は全裸で寝るタイプなんだよ。おお、こんなところで同士・・に巡り合えるとはな。それにあれだろ、君を誤解していたようだ。君はそっち・・・の趣味なんだろ?」


 殴りつけると思いきや、両手で握手をするムキムキのおっさん、後半は小声で和馬に耳打ちしていたようだがよく聞こえなかった。


「おいおい、ガスト。その辺にしとけ。ガキが青ざめてるじゃねーか」


 宿屋の主人がおっさんに向かって声をかける。そして、なぜか和馬が青ざめている気がする。


「ちょっとちょっと、私が嘘をついてるって言うの?」


 宿屋の主人に今度は詰め寄るウインク。


「お前、昨日相当酒に酔っていただろ? いや、むしろお前が隣の部屋で寝ていたそこのガキを連れ込んだ可能性もあるだろ?」

「そんな事あるわけ……」

「無いと言い切れるか?」


 宿屋の主人に聞かれ、うーんとしばらく考え込むウインク。


「もしかしたら私が……襲った・・・のかも?」


 『な、なんですとー』と心の中で叫んでいるのは優斗。『優斗よ、表情に出てるから……』と、その様子を横目で見ている雄也。


「客人達よ、茶番に尽き合わせたな。それからみんな、うちのかみさんが朝飯作ってるから、下で先にみんな食べててくれ。今日の朝飯分は俺が奢るぜ」


 おぉー、やったーと、各々歓声をあげ、部屋へと戻っていく。ガストは和馬に『また後でな!』とひと声かけて部屋の外に出る。私は仕事に戻りますねとお辞儀をしてメイドさんが後に続いた。


「うーん……確かに昨日お酒飲んで帰って来たのは覚えてるけど……覚えてないな、てへっ!」


 途端に可愛らしいポーズを取るバニーちゃん。林檎サイズの果実が二つ、服の隙間から、ぷるんと揺れている。


「ああ、やっぱりな。客人……面倒かけたな……ウインクはしばらくこの宿に泊めてやってるんだが、男連れ込んだのは今日が初めてじゃないしな。まぁ、許してやってくれ」


 宿屋の主人が代わりに謝ってくれた。


「あ、いや、わかってくれたらいいんです。こちらこそお騒がせしました」

 

 雄也が宿屋の主人に謝罪する。


「俺もこんな格好ですいません。色々たぶん話さなきゃいけない事もありそうなんですが、まずは謝らせてくれ。申し訳ない」


 和馬も続いて頭を下げていると……。


「バニーさん、初めまして! 俺、そこの新井和馬の友人で、森山優斗って言います! で、こいつが友人の三井雄也です。和馬が迷惑かけたお詫びに俺がバニーさんをエスコートしますよ!」


 ウインクと無理矢理握手をする優斗。


「エスコートって……面白い子ね君。でも、もういいよ、怒ってないし。朝起きたら知らない男の人が全裸で隣に居るなんて思わず悲鳴も出ちゃうわよ」


「す、すまん、ウインクさんでいいのか?」


 お詫びを入れる和馬。


「いいのよ。私、ウインク・ピッピーって言うの。属性は風妖精ウインドフェアリー、種族は羽根妖精と獣妖精のハーフよ」


「え、じゃあその耳って?」


 雄也が気になったので口にする。


「ええ、これは本物よー。私、羽根妖精であり、兎妖精なのよ」


 頭に生えている耳をピクピクさせるウインク。お尻をふりふりすると小さな丸い尻尾もふりふりっとなる。


「凄い! 本物のバニーガールじゃないですかー! 俺、今からウインクさんについていきますー!」


 お尻のフリフリ攻撃を受け、途端に目がハートになる優斗。


「だめよ、坊や。……私にはもう、心に決めた人が居るの」


 口調が突然甘声に変わり、飛びついてきた優斗の口元を指先で止めるウインク。


「そうなんですか……やっぱり妖精の彼氏ですか? 種族の壁は厚いという事ですね……」


 下を向いてショボーンとなる優斗。感情の起伏が激しいやつだと溜息をつく雄也。よし、レイアさんに今度また、優斗の事をお仕置きしてもらうとするか……。


「いや、相手、妖精じゃないわよ?」

「ほ、本当ですか……?」顔をあげる優斗。


「相手なら……そこに居るわ……」


 顔を赤らめて、ウインクが指差した先……そこにはシーツをぐるぐる巻きにして身を隠した和馬の姿が……。


「いやいやいやいや、ウインクさん!?」

「だって……昨日あんなに熱い夜を過ごしたじゃない……和馬くぅん」


 目がハートになって和馬に近づくウインク。もう一夜を共に過ごした事になっているが、真実は夢の中だ。身体のしなやかな曲線を向けて近づく姿は、まさにバニーガールの誘惑だ。


「和馬……まさか本当に……!?」


 雄也まで和馬を疑おうとする。


「いやいやいや、俺何もしてねーから!」


 懸命に否定しようとする和馬。


「和馬君。私は一夜で君の虜になっちゃったの。これからよろしくね! はぁと!」


 お尻をクネクネしながら和馬に飛びつくウインク。尚、みんな忘れていそうだが、ウインクは今履いていない。バニースーツが捲れたら大変な事になるだろう。


「忘れているなら、思い出させてあげてもいいのよー。風妖精の情熱と快風が届けるナイトショーの続きをやりましょう」

「や、やめ、ウインクさん」


 和馬をベットに押し倒すウインク。てか意外と力強いんですね……。


「こらウインク……人前でやめなさい。朝飯抜きにするぞ!」


 すかさず宿屋の主人が制止する。


「えーー、今からいいところなのに……しょうがないな。じゃあ和馬君、今日の夜に続きしよ! これからよろしくね」


 前途多難とはこの事だ。と再び溜息をつく雄也。


「いやぁ、楽しくなって参りましたな」


 優斗だけはノリノリだ。


 こうして、三人の新たな妖精界冒険の旅が幕を開ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る