第26話 休息の刻

 ……


―― 綺麗な歌声が聞こえる。


 会場は静まり返り、みんな凛とした歌声に聞き入っている。

 聞いた事のない曲だが、聞いていて気持ちが安らかになる曲だ。


 よく見ると、耳の長い人、人型だが、猫の顔の女の子、全身真っ白の毛だらけの人……

 仮装イベントだろうか……。

 ……いや、そうではない。既に妖精界の存在を知った今の雄也は、ここは人間界ではないのだろうと悟った。


 ……


 ……助けて。


――!?


 頭の中に声が聞こえた気がした。


 横に目をやると、優斗に和馬、そうか……リンクとファイリー、もう一人大きな胸の妖精が居る。


―― 一体どういう事なのだろうか……


 ホールの真ん中にはアイドルの衣装を身にまとった少女。

 そして少女の瞳に吸い込まれるように視界がズームしていき……


 ……助けて。


――!?


 再び世界は暗転する ――


★★★


「ん……んん……ここは……?」


 目を覚ますと見知らぬ天井があった。


 ―― ここはどこだろう……さっきのは夢だったのだろうか……あまり思い出せないけど、綺麗な歌声を聴いた気がする……。


 どうやら、白いシーツのベットに寝かされていたようだ。


「あら、雄也さんお目覚めですね! よかった。傷も癒えたようですね」

「えっと……レフティさん……ですよね? ここは?」


「ここは光の国ライトレシア首都〝ブライティエルフ〟の魔導連結部アークリンクユニットが管理している王宮の光治療施設です。皆さん傷だらけの状態で転送されて来た時には本当びっくりしましたよ」

「傷だらけ……転送……そうか……あの時俺達はナイトメアに……」


「本当エイト様とレイア先輩が居なかったら、皆様全滅していましたよ。ちゃんと反省して下さいね」

「すいませんでした……」


 あの時、雄也達は何も出来なかった。リンクの決死の結界術がなければ、そして、エイトとレイアが助けに来なかったら、確実に死んでいた。


「いえ、皆さん全員還って来る事が出来たのでよかったです」

「そうだ、リンクは? みんなは?」


「優斗さんはライティが隣の部屋で看ているはずです。和馬さんは既にお目覚めでファイリーさんと特訓してますよ。これじゃあ勝てないって相当ショックだったみたいで。リンク様は傷が酷いようで、レイア先輩が看てます。ブリンク、パンジーさん両名はご飯を食べてますね」

「そうですか、何よりみんな無事でよかった」


「落ち着いたら隣の部屋とその隣に優斗さんとリンク様が居ります故、様子を覗いてみてはいかがですか。特にリンク様は雄也さんの顔を見ると喜ばれるでしょう。奥の食堂で食事の準備もしておきますので、いつでもいらして下さいね」

「ありがとう。ちょっと隣の様子見てくるよ」


「皆さんお食事終わってその後、準備が出来たら、エイト様と現魔導連結部アークリンクユニット隊長のまほろば様が研究室にてお待ちですので、みんなで行きましょう」


 まほろばさんは聞かない名前だったが、隊長って事はエイトさんの後に隊長になった人なんだろう。ナイトメアの事で何かあるのかもしれない。



 王宮の光治療施設は、病院のような造りになっていた。とりあえずリンクや優斗の様子が気になったので隣の部屋から順番に様子を見に行く事にした。


 優斗は既に目を覚ましているのだろうか? スライド式の扉の隙間から何やら声が漏れていた。どうやら優斗とライティが話しているようだ。


――優斗ーーどうーー? 気持ちいいーー?


――あーー気持ち……いいです……。


――ずっとこのままこうしていてもいいのよー?


――ライティさん、俺でよかったら喜んで!


――じゃあ、ここもほぐしてあげようかな?


――あぁ、そこは!?


――そこは、なぁにーーどうして欲しいのかしら?


――あぁ! ライティさん!



 ガタン!?――


 雄也が見えそうで見えない隙間から中を覗こうか迷っていたところに、『あれ、雄也さん? 中に入らないのですか?』とやって来たレフティさん。中から聞こえて来る声を聞くなり物凄い勢いで扉を開けたのだった。


「ね、姉さん! 何やってるんですか!? ……ってあれ?」

「え、何ってマッサージしてたのよ!? 優斗、肩と背中がとっても凝ってるから揉みほぐしていたのよ? ほら、ぐりぐり」

「うぉおおお! ライティさん気持ちいいです!」


「…………」

「あら、レフティ? どうしたのー? 小刻みに震えてるわよ……?」


「紛らわしい事やめんかい!!」





――うん。優斗は全く問題なかったね。


 あの後、レフティがライティを説教していたのだが、ライティはどこ吹く風だった。


『なーに想像してたのーー?』とレフティをからかう始末。仕舞いには『もしかして、こんな事想像してたのー?』と、後ろから優斗に胸を押しつけるものだから、レフティさんの雷が落ちていた。優斗とライティはこの後のご飯は抜きだそうだ。


 リンクの部屋は扉の取っ手の部分に何やら魔法陣がついていた。鍵の代わりだろうか? 扉が開かないのでノックしてみる。


 ……コン コン コン――


「雄也です、リンク、レイアさん居ますかー?」

「雄也様! お目覚めになられたのですねー。レイアです、今開けます!」


 扉を開けると、リンクが奥のベットで横になっていた。


「雄也さーん、よかったですー。回復したんですねー。嬉しいですー。シャキーンです!」


 リンクが起き上がって雄也の傍へ行こうとするが……。


「お嬢様! 横になっていて下さい! まだ完全ではないのですから」

「えーレイアーーー私はもう動けるよー? ほらーーぴんぴんですーー」


 口を尖らせて腕をふりふりするリンク。


「いえ、お嬢様は五日後の戦闘に備えて貰わなければなりません。これ以上私を心配させないで下さい! 次は私も一緒に参りますからね!」


 強い口調で言うレイア。


「わかったよーレイアー。でも次はあんなナイトメアなんかやっつけちゃいますから、安心して!」

「その件で、今日この後エイト様がみんなを集めるみたいですので私が行って参りますね。お嬢様は絶対安静ですので休んでいて下さい」


「えーーそんなーーレイアーー」

「俺も代わりに聞いて来るから大丈夫だよ、ゆっくり休んでてリンク」

「雄也さん、優しいですーー涙が溢れますーーありがとうなのですよ」


 涙を袖で拭くリンク。やがて蒼色の瞳に笑顔が戻り、キラキラと煌めいていた。


「でも、皆さん無事でよかったですー。雄也さんもよかったですー」



 食事の後、雄也とレイアは魔導連結部アークリンクユニットの隊長が居る研究室へと向かう。


 戦闘訓練をしていた和馬とファイリー、相手をしていたクレイ、優斗、ブリンクとパンジー、ライティとレフティも合流し、研究室へと入る。


 中には、研究用の妖精が一人入れるような謎の液体が入ったいくつものカプセルや、色々な色の結晶が並んでいたり、何の研究に使うのか分からないようなものがたくさんあった。


 研究室奥の机の前に、現隊長の魔法使いのような格好のまほろばと、エイト、そして、お付の人であろうメイドさんが待っていた。


「何はともあれ、皆無事に還る事が出来たのでよしとしよう。まず集まってもらったのは他でもない。ナイトメア討伐に関する僕らの作戦をみんなに伝えようと思ってね」

「その前にひとつ聞いていいか?」


 口を開いたのは和馬だ。


「あん時、エイトさんはどうやって俺達をここへ連れて来たんだ?」

「それはあたいも気になるな? あんたが持ってたあの水晶みたいなやつ、あれ魔水晶だよな? でもあんな力聞いた事ないぜ」


「そうだね、あれは魔水晶で本来魔力を溜めたり、溜めた魔力で魔法や結界術を発動させる事によく使うものだけど……」


 そういって、エイトはその魔水晶を取り出した。透き通った透明の魔水晶はヒビ・・が入っていた。


「この魔水晶は特別製でね。ある妖精から貰ったんだけど、見た目は魔水晶だけど、夢妖精の夢渡りの力ドリームポーターの魔力、しかも結界を打ち破る程の強力な魔力がこもっていたんだ。使えるのは一回切りだからもう使えないんだけどね」

「それでみんな還って来る事が出来たんですね」


 雄也も反応を示す。


「次回はこの技は使えない。だから、もうナイトメアから逃げる事は出来ないよ」

「おーけーにゃー、次は負けないにゃー」

「ブリンクと次は結界をちゃんと作るよ」

「僕も今度は頑張って役に立つよ」


 ブリンクと優斗、パンジーが反応する。


「ああ、分かってるさ」

「あたいもあんな負け方して黙ってはいられねーからな!」


 和馬とファイリーは覚悟を決めた顔をしている。

 皆の決意も固いようだ。


「その作戦なんだけど、決戦まであと5日しかない。今から各々には忙しく動いてもらうことになるからよろしく。それから、ファイリーさんと和馬君、君たちはナイトメア討伐には行かないでもらいたい!」


「な!」

「!?」


―― エイトからのまさかの発言に、一同が驚愕した!

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