第5話 観察者(セクシー妖精)と水妖精の舞

「お、雄也順調だね、このまま行けば使役なしで最上階まで行けるやん?」


 バリバリボリボリ――

 そう呟きながら青年はソファーに横になりながらポテチを口にする。


「いやぁ、やっぱりポテチはうすしおだよね。うんうん」


 ロッジのようなレンガ調の小屋、部屋にはベットとソファーにテーブル、そして使われていない暖炉、そんなロッジに似つかわしくない形で壁に吊るされたモニターには何かの映像が映し出されていた。


「やっぱなんだかんだで雄也ってそこそこ出来るんよね。さすが俺が見込んだだけあるよ」


 感心したように青年は呟く。

 ――あ、ポテチなくなったわ。と。

 起き上った青年はロッジっぽい小屋の扉を開ける。扉を開けた先は、森の中……ではなく、なんとも説明出来ないような空間・・だった。よくゲームやアニメで、異次元の空間と表現されるような空間、空間それはうねりを伴いながら様々な色に変化し、現実世界のタンスやテーブル、食べ物から洋服まで……あらゆるものが宙を漂っている。小屋の外は二メートル範囲で切り取られ、そんな空間に浮かんでいるのだった。


「お、ペットボトルゲット!」


 手慣れた様子で小屋の近くに流れて来たペットボトルをキャッチし、青年は再び小屋の中へ入る。


「一週間もここに居れば、そりゃあ慣れますよっと」


 再びソファーに座ると、青年は再びモニターへと目をやる。

 そう、映し出されていた映像には雄也が映っていたのだ。

 おもちゃの兵隊へ水鉄砲を放ちながら、順調に上の階へと上っていく。ダメージを受けたのは、一階でのおもちゃからの襲撃、三階での耳の長いうさぎのひっかき攻撃くらいだった。治癒源水ヒールウォーターはまだ三つ残っている。このペースなら最上階まで順調に行けるのでは? と青年は考えていた。


「―― すっかり寛いじゃってるわね」


 ソファーに横になった青年に向けて後ろから女性が声をかけた。


「いや、この状況楽しまないと勿体ないやん? てか、どうしようもないやん、ここから出れない訳やしさ」

「雄也君ばっかり観られると私嫉妬しちゃうわよー。ほらほら、あなたの大好物のメロン・・・が二つ目の前にあるわよ?」


 レオタードのようなセクシーなピンクの衣装にシルク生地のように艶やかな白のカーディガンっぽい服を羽織っているブロンド髪の女性。青年の頭の上で、溢れんばかりの〝二つのメロン〟を揺らし、誘惑するかのように近づく。


「いやね、ルナティ、そりゃあさ、俺も異世界物だとハーレム的な妄想もしたし、お姉さんの巨乳が大好物なのは認めるよ。でもちょっと違うんだよなー、見せるか見せないかの絶対領域というかね、純粋っぽい子のギャップっていうかねー、こう全面的にセクシーさを出して誘惑されるのは違うんよね」


「はぁ、あなたの趣味・・はわかったわ。出逢ったばかりの時はもっと動揺していたのに、随分とつれないわねぇ。私と契約したんだから、もっと興味をもって欲しいわね」


 ルナティと呼ばれた女性はそう言うと、興味をなくしたのかベットに座る。


「てか、最初が衝撃過ぎて、少しの事にも驚かなくなったっていうのが現状やね。それにこの雄也の行動が運命を握ってるんやろ? あと視る・・事に意味があるとも。そういったのはルナティだよ」


「まぁ、それは間違いないわね。私もあなたもここから出られない訳だし。もう一人の和馬君? あっちは『炎刃えんじん赤眼妖精レッドアイズ』がついてるから誰も助けはいらないでしょうし。恐らく鍵を握っているのは雄也君で間違いないわよ。そして、『あなた』もね、優斗」


「俺はとりあえずここから出られるようになれば……あと二人が無事ならそれでいいよ」


 ため息をつきながら、青年……優斗はモニターを見つめるのであった。




 おもちゃの兵隊を撃破した後、雄也は順調だった。

 各階には予想通りおもちゃの兵隊や、積み木の妖魔など、おもちゃ軍団が雄也の行く手を阻んだ。途中耳の長いうさぎが出てきたのだが、動きが素早く鋭い爪の攻撃には少し焦ったが、渡されていた治癒源水ヒールウォーターもあり、事なきを得た。


 そして今、雄也は最上階の階段を上るところだった。


「雄也さん、いよいよおもちゃの兵隊を操る妖魔がそこに居るハズです。出てきたら私を使役して下さい!」

「了解!」


 各階を攻略していくに連れ、雄也は落ち着きを取り戻していた。自身を過信している訳ではないが、最初のピンチを乗り切った事で経験を積んだようだ。そして、彼は意を決して最上階へと足を踏み入れる。


……次の瞬間、


 パンパパパーン パンパンパンパンパパパーン!

 突然最上階の空間に、ラッパの音が響き渡る。


「最上階到達、おめでとう」


 突然巻き起こる称賛の拍手と管楽器が奏でるファンファーレの音に困惑する雄也。雄也が音の鳴った方向を見ると、おもちゃの楽団が両サイド一列に並び、最上階の真ん中の豪華な椅子にちょこんと黒いマントにフードを被った猫の顔をした魔物が座っていた。


「ようこそ、我が居城へ。よく我が試練を乗り越え、ここまでたどり着いた。我が名は玩具操士トイマスターキャッツバーン。お主に敬意を表し、我よりこの勲章をさずけよう」


―― なんだかよくわからないけど、キャッツバーン? こいつが妖魔? 確かに喋る猫だけど。メダルっぽい物を持っている。くれるって事かな?


 雄也が警戒しながら近づくがサイドのおもちゃが攻撃してくる様子はない。


「首からそのメダルをかけるがよい」


 見ると猫の顔が描かれた金色のメダルだ。

 なんとなしに雄也が首からメダルをかけようとしたその時……。


 強い静電気が起きた時のような音と共に、何かがメダルを弾いた。見ると首からかけていた水鈴が光っている!

 そして、弾かれたメダルは宙を舞い……なんと! 空中で小爆発を起こしたのである。


「くっ! 騙したな!」キャッツバーンと名乗った猫の顔をした魔物を睨みつける。


「そんな単純な罠に引っ掛かるやつが馬鹿なのだーー馬鹿ーーマヌケ、アホーー!」


「こいつ……」

 ――どうやら相手をイラつかせるのが得意な魔物らしい。


『雄也さん、こちらからも強い負の妖気力フェアリーエナジーを感じました! 大丈夫ですか?』

「大丈夫、水鈴が守ってくれたみたい! あとリンク、準備はいい?」

『はい、大丈夫です! いつでも準備オーケーです! シャキーンです!』

「シャキーンはよく分からないけど、行くよ」


 練習でやった通りに雄也が詠唱する。


使役主マスターユウヤの名において、ここに示す。夢みる力ドリーマーパワー接続リンク! 出でよ、水妖精アクアフェアリー、リンク!」


 雄也の目の前に青白く光る魔法陣が出現する。そして、光とともにリンクが現れた。


「じゃじゃーん、お待たせしましたー、リンクの登場ですー!」

「いや、出方は普通なのね」


 ちょっと笑みがこぼれる雄也。


「貴様! なぜここに妖精が! そもそも塔に入れる者が居る時点でおかしいと思ったのだ! お前等、ってしまえー!」


 キャッツバーンがそう言い放つと、両サイドに居た楽団達の楽器が武器に変わり、一気に雄也達に迫って来た、同時にキャッツバーンは後方へと下がっていった。


「雄也さん、ここは私に任せて下さい。使役主マスター命令コマンドを!」


 そう言うと雄也の前にリンクがかしずく。


「えっと……じゃあ攻撃だ、リンク」

「はい、使役主マスター


 取り囲むおもちゃの兵隊へ向けて雄也とリンクが対峙する――


「悪しき者に水の洗礼を与えん! 水爆砲アクア!」


 リンクが手のひらを向けた方向に強力な水球が放たれ、大きな衝突音と共におもちゃの兵隊を吹き飛ばした。塔の入口で放った水球より数倍の威力を感じる。


 ――使役の効果だろうか?


 仲間が吹き飛ばされたのに反応したのか、兵隊の弓矢部隊からリンクへ向け矢が放たれ……たのだが、いつの間にか雄也とリンクの周りに大小のシャボンが浮かんでいだ。矢はシャボンを割ると同時に威力をなくして雄也の前に落ちていく。


「何をやっているんだ! 我が玩具兵隊トイアーミーの名に恥じぬ攻撃をするのだ!」


 興奮した様子で叫ぶキャッツバーン、しかしおもちゃの兵隊の攻撃くらいではリンクに傷ひとつつける事は出来なかった。

 リンクは舞を舞っているかのような優雅な動きをしている。その舞の動きに合わせシャボンが雄也とリンクを包む。やがて兵隊周囲の視界はシャボンに包まれ遮られた。


「水の戯れ<カーム>」


 舞い終わると同時にリンクがそう言うと、いつくかのシャボンがパチンと割れる。弾けたシャボンに触れた兵隊が力をなくして次々に崩れていったのだ。


「な!? 貴様! なにをした!?」

「負の妖気力フェアリーエナジーを遮断するシャボンですよー。私の舞には水妖精アクアフェアリーの力が籠っていますからその舞によって色んな事が出来るんですー。水の戯れ<カーム>は舞うと同時に周囲をシャボンで包むんですけど、負の妖気力を遮断しちゃうので、攻撃にも防御にもなるんですよー。あなたの兵隊さん、負の妖気力で動かしていたでしょう? だからシャボンに当たる事でただのおもちゃになっちゃったんですねー。あとはキャッツバーンさん、あなただけですよー」


 笑顔のまま、相手を見据えるリンク。


「く、くそー、だがな、俺を倒しても、この奥にある灯台の光は灯らないぞ? 見ろ、あそこに眠っているガキがな、灯台の光を消してるのさ、あのガキが目を覚まさない限り無理な話ってもんだ」


 キャッツバーンが指差した蜀台の前には男の子が横たわっていた。どうやら眠っているようだ。てかなぜ、人間の男の子がここに居るんだ。そんな疑問がよぎったが、その前に今こいつ、重要な事言ったよね?


「ん? じゃあ、あの子を起こせば灯台に光が灯るって事?」


 雄也がボソっと呟く。


「なななな! なーぜわかったーー!」

「今、あなたが自分で言いましたよー。キャッツバーンさん」とリンク。


「くそー、知られてしまったからには生かしておく訳にはいかないな。死ねー!」


 片手にはめたおもちゃの大砲を放つが、残っていたシャボンに弾かれる。


「無駄ですよー。あなたの攻撃は見切っていますからー」

「ちっ、そのようだな……だかな、我には奥の手があるのだ。おい、ガキ! お前のおもちゃをこいつらが壊してしまったぞ!」


 キャッツバーンがそう言うと、なんと眠ったまま・・・・・の男の子が赤い光を放ちながら宙に浮かんだ。


「え? どういう事?」

「僕のおもちゃをいじめるなーー!」目を閉じたままの男の子が叫ぶ。


 次の瞬間、赤い閃光がキャッツバーンに向けて放たれた!


「ぬぬぅおおおおお、ぐ、ぐわーー!」


 小さな猫の大きさだったキャッツバーンの肉体が巨大化する。

フードとマントは破れ、三メートルほどの大きさの筋肉隆々な化け猫姿に変身したのだった。


「負の妖気力フェアリーエナジーが増大しました。雄也さん、でもやるしかありません」

「分かってるよ……それにあの男の子を助けないと……」


―― なぜだか分からないが、人間の男の子がそこに居る。あの子を起こせばクリア。そのためには目の前の化け猫を倒すしかない。


―― さぁ、どうする……。


 雄也とリンクvsキャッツバーンとの戦いが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る