師匠の飼い方!

矢田川怪狸

OHUPAKO~すべてはここから始まった~

OHUPAKO~すべてはここから始まった~

 俺と師匠の出会いは、オフパコだった。


 オフパコ 男女がオフ会と称してリアルで顔を合わせ、肉体の関係に及ぶ、通称『肉欲のオフ会』――


 なんだかエゲツナイ言い方なのはご容赦願おう、なにしろ俺だってオフパコなんて経験がないのだから、その実態を詳しくは知らないのである。

 しかし、あの状況が『オフパコ』でないことだけは理解している。なにしろ俺は奮発して入ったおしゃれなラブホテルの豪華なベッドの上……ではなく、固い床の上に正座させられて、ベッドに座る若い女性の罵りの言葉を聞かされていたのだから。もちろん『プレイの一環』などではない。女性経験のない――つまり新品ピカピカまっさら童貞の俺が、言葉責めなどという高度なお遊びを要求できるわけがない。つまりリアルに罵られているという、なんとも色気のない状況だったのだ。

 なぜにどうしてこんなことになっているのか、それを語るには、俺がネット小説家であるという話から始めなくてはなるまい。

 ネット小説家とは、小説家と冠はついていていても小説を本職とする作家というわけではない。ネットには誰でも手軽に小説を投稿することのできるサイトがいくつもある。

 筆頭は老舗小説サイト『小説家をやろう』――『やろう』の略称で良く知られるここは、ネットで小説を書く者のすべてがアカウントを持っているとまで言われるほどの利用者数を誇る超大手サイトである。トップをとれば即出版につながるコンテストが毎月のように開催されており、出版界各所が注目しているということもあって、最近では『やろう出身作家』の書籍が書店の一番目立つところに平積みになっていることも多い。

 他にも老舗ならば『ケムリスタ』もある。ここはネット小説がケータイ小説と呼ばれていたころから出版界に深く食い込んできたサイトであり、一獲千金を夢見るネット作家たちの登竜門ともなっている。

 他にもパーメルン、パクシブ、アレハポリスなど、小さいところまで合わせればそれこそ無数のサイトが『無料で書ける、無料で読める』を謳いとしてひしめく、いまはネット小説戦国時代と言っても過言無いだろう。

 俺がアカウントを持つ『カケヨメ』もそうした小説サイトの一つである。ここは開設こそ新しいが、運営は大手出版社であるのだから、ここで注目を集めれば即出版!を夢見て集まるネット作家たちのおかげであっという間にトップクラスの小説サイトとなった、いわば盤石の活気を獲得しつつあるサイトだ。

 とはいっても、俺は自分の作品が出版に届くとは思っていない。あと十年も早ければ、ネッ若手として虎視眈々、全身全霊を傾けて書くこともできただろうが、すでに若くない俺にはそんな野心も気力もない。何しろ今年で三十を迎えようというのだから、何かに意欲的に挑戦するにはいささか年を取りすぎているのだ。

 それでもしばらく活動していれば同行の士というものが集まってくるわけで、俺の作品を読みに来てくれる『ファン』もできた。感想を交換し合う『友人』もできたのだから、これ以上を望むのはぜいたくというものだろう。何しろ俺は自分の身の丈というものを良く心得ているのだ。

 さて、ベッドの上で俺を罵っている女性は『カミガカリ』、もちろんこれはネットでの通り名――つまりはアカウント名である。

 彼女は一か月ほど前に俺のツイッターアカウントをフォローしてきた。俺からフォローしたのではない、彼女から俺をフォローしたのだ、ここ大事。

 俺の小説を読んだという彼女とは、ツイッターのDMを通じて何度かやり取りをした。誤解のないように言っておくが、最初は下心があったわけじゃない。プロを目指しているわけではないと言ってもやはりそこは作家、自分の作品が読まれればうれしいし、感想が聞きたくもなる、つまりはファンとの交流だったわけだ。

 その彼女が急に「会いたい」と言い出したのが一週間ほど前、俺はこれをオフパコのお誘いだと思い込み、二つ返事で日程を決めた。

 ああ、だがしかし! 待ち合わせ場所に来た『カミガカリ』の格好を見た時に、もっと疑ってかかるべきだったのだ!

 彼女は普通のご家庭ならばとっくの昔に雑巾にされてもおかしくないようなボロボロのジャージを着ていた。足元は裸足に便所スリッパをひっかけて、まるで引きこもり女子が部屋着でふらふらと迷いだしてきたような姿であった。

 それでもオフパコに目のくらんだ俺は、引きこもりの女性にはありがちなことだろうと目をつぶった。きっと引きこもりゆえに性欲を持て余していて、ベッドの上では相当エロいにちがいないと……てかぶっちゃけ、穴さえあれば目的は果たせるのだから、細かいことには目をつぶろうと。

 さらにめちゃくちゃ本音をぶっちゃけると、『カミガカリ』が若くて巨乳だったということが何より大きい。彼女の胸は分厚いジャージ生地さえものともせずに大きく盛り上がり、その存在を誇示していた。

 彼女の巨乳とオフパコにつられて、食事もそこそこにこのホテルに連れ込んだのが三十分前、そして今はこのざまである。

 彼女が延々と垂れ流しているのは俺の小説に対する酷評だ。俺はカケヨメに『転生紀行~異世界の車窓から~』という小説を連載している。この文章的な弱点から構成上の大きなミスまでを微に入り細をうがってダメだしされ続けているのである。

 ネット小説家というのは繊細な生き物だ。自分の作品に対する感想は欲しいが、だからといって酷評はノーサンキューである。

 俺はとりあえずこの女の口を塞ごうとかばんを引き寄せた。この中にはオフパコに向けて女性心をつかむうもろもろの準備が仕込んである。

「あ、あのさ、もっと早く渡そうと思ってたんだけど、君にプレゼントがあるんだ」

 ベッドに座る女性は、眉間に思いっきりしわを寄せて怪訝そうな顔をした。

「プレゼントぉ?」

 場の雰囲気を和やかにするには至らなかったが、罵りの言葉が止まったのだから五割がた狙い通りというところか。俺は急いでバッグを開け、カラフルな包装紙でかわいらしく包まれたブツを取り出した。

 本来なら出会ってすぐ、最初に食事をした店でこれを渡すつもりだった。つまりオフパコに向けてまずは女性の物欲を満たし、エッチまでの主導権を握ってしまおうという作戦だったのだ。しかし現れた女性がジャージにひっつめ髪の女を捨てたような見た目だったため、これを侮った俺はプレゼント作戦を先送りにしてしまったのだ。

 しかし、ケチはよくない。俺はそれを彼女に向けて恭しく差し出した。

「どうぞ、お納めください」

「中身は? 食べ物?」

「いいえ、ぬいぐるみです」

「そんなかさばるもの、いらない」

「ええと、じゃあ、これはどうですか」

 俺が次に取り出したのは、手のひらに乗るくらい小さな包み、これは包装紙も赤に金を散らした高級そうな見た目だ。

 これは相手の女性が今後もお付き合いをお願いしたいぐらいに美人だった時に使おうと思っていた餌、ジャージ女に差し出すことになるとは不本意だが、とりあえず彼女の気をなだめるためには致し方ないところ。

「好みに合うかどうかわからないけど、ネックレス。ちゃんと純金だからモノは悪くないし、これならかさばらない!」

「いや、いらないってば。さっきから何なの?」

 俺はここでやっと、彼女と俺との認識にかなりのずれがあることに気づいた。

「あの~、カミガカリさん?」

「なに?」

「これって、俗にいうオフパコというものでは無いんですか?」

「オフパコってなに?」

「え……」

 この言葉に凍り付いたのは俺の方だ。彼女の言葉はやんわり断るためにとぼけてみせたとか、知らないふりをしたとかではなく、本当に『オフパコ』という単語を知らぬがゆえの疑問の響きが存分に含まれていた。

 俺はできるだけソフトに説明しようと言葉を探す。

「『オフパコ』っていうのはですね……」

 しかし彼女はそんな俺を片手で制し、愛タフの手で自分の眉間を押さえた。

「いい、『読んでくる』から、五分だけ静かにして」

「『読んでくる』って?」

 すでに返事はない。彼女はうつむいて、口の中で何かの言葉をブツブツと食んでいる。

「?」

 彼女の口元にそっと耳を近づけた俺は、それがきちんと文章として成立した、何かの小説の一節であることに気づいた。

「『ネットで知り合った男など信じた自分がバカだった、と美津子は思った。しかし時すでに遅し、彼女はその男とラヴ・ホテルの一室にいるのである』」

「それ、もしかして官能小説?」

 俺の言葉には答えず、目を開いた彼女はぐるりと室内を見回す。

「なるほど、ラヴ・ホテル……」

「今さら気づいたんですか」

「いやあ、だって……ホテルで打ち合わせって、よくあることだから……」

「よくはないでしょ! 普通はないでしょ!」

「そうね、普通はないかも。でも私の場合、絶対的に秘匿性が必要となるお仕事ってのもあるから……」

「何者なんすか、あんた、何者なんすか!」

 激高する俺を、彼女が一喝した。

「うるさい! 私が何者かとか、どうでもいいの!」

 なにしろ彼女はいまだベッドの上にで~んと大きく構えて座っており、対する俺は地べたに正座なのだから、精神的な上下関係というものがきっちり出来上がってしまっているのだ。俺は首をすくめて小さな声で返事をする。

「は、はい……」

「いま大事なのは、あなたがカケヨメにあげている『転生紀行~異世界の車窓から~』の今後についてなの!」

「それは、はい」

「もう一度言うわね。今の文章ではダメ、まずはそこからなの」

 この一言が、俺の心に火をつけた。

 確かに俺の書く小説は素人小説の域を出ないものだ、自覚はある。だが、俺なりにPV獲得のための努力と工夫をして、それなりに固定の読者もついているのだから、素性のしれない小娘ごときにとやかく言われる筋合いはない。

 そう、相手は小娘だ。どれほど小説に精通しているのかは知れないが、しょせんは小娘、小説を書くのに必要な人生経験というものが圧倒的に不足しているに違いない。ふてぶてしく上座に座る姿に圧倒されて俺の方が下手に出てしまったが、しょせん相手は小娘、ビバ・下剋上!

「文章なんて個人の好みの問題でしょ。あんたの好みには合わなかったかもしれないが、俺の文章がいいってついてきてくれる読者はいくらでもいるんだ」

 しかし彼女は、俺の言葉ごときでは揺らがなかった。

「ふうん、いくらでも?」

「いや、いくらでもは言い過ぎかな……でも、星はけっこうついてるし、レビューだって……」

 弱気になって、言葉の刃を引いたのが良くなかった。彼女の言葉は少しも迷うことなく、すべてを容赦なく切り刻む。

「文盲ばっかりなんでしょ、あんたの読者」

「君なあ、年上に『あんた』言うなよぉ!」

「あんた呼ばわりされたくなかったら、私を満足させる文章を書いてみなさいよ」

 彼女は人差し指を立てて、くるくると空中をかき回すようなしぐさを見せた。先ほどからこのポーズを何度か見ていることから推測するに、これは話に夢中になったときのクセなのだろう。

「私がざっと見るに、あなたの作品に書かれているレビューで褒められているのは『何が書かれているか』よね。つまり異世界に電車ごと転生して、テレビの紀行番組をそのままやってしまおうっていう、そのアイディアを褒められているの。当たり前よね、私もこのアイディア、ちょっと唸ったもの」

「小説なんだから、それが一番評価されるべきところだろ」

「いいえ、違うわ。小説は総合芸術、いくらアイディアが良くてもそれだけじゃバランスはとれないの」

 彼女は大きく両手を広げ、まるで天空を抱きしめようとしているかのように天井を仰ぐ。

「『何が書かれているか』に並び立つ大事なもの、それが『どう書かれているか』なの」

 まるで舞台のセリフのように抑揚とリズムをつけた言葉、それに合わせてさらに天高く差し伸べられる両手……訂正しよう、話に夢中になると人差し指のみならず、全身の動きで大げさに語って見せるのが彼女のクセらしい。

「面白いアイディアであればあるほど『なぜ面白いか』を読者に理解させなくてはならない。どこで面白がるべきか、どの気持ちで読めばいいのか、誰に注視して物語を読み解けばいいのか、すべてを作者がコントロールして、読者を導く……もちろん、読者がそれと気づかぬうちに、巧妙に!」

「すいません、いま言われていることが理解できません」

「そうね、かいつまんで言うと、読者が無意識のうちに理解できるように書いてあげるのが上手な文章ってことなのよ」

「ますますわかりません」

「あたりまえよ、そんな簡単にわかるようなことじゃないもん」

「で、それをどうしろっていうんですか!」

 俺は怒りのすべてを込めて叫んだ。

 それはそうだ、俺が勤めているのは残業代が出るゆえにブラック企業ではないというだけの弱小企業、残業だって当然あるわけで、そのあと帰宅して風呂に入り、ちょっと一杯を楽しんだら小説など書いている余裕はない。だから俺は休日をつぶしてせっせと小説を書いているわけで、そんな思いをして書いた作品が否定されることが面白いわけがない。

 ところが彼女は余裕しゃくしゃく、振り上げていた両手を下げて静かな声で言った。

「私の弟子になりなさい」

 俺にとっては晴天の霹靂のこのひとこと、とっさの反応などできるわけがなく、俺はぽかんと口を開けて立ち尽くす。これを見た彼女は、さっきより少し大きい声でもう一度。

「聞こえなかったの? 私の弟子になりなさい」

「いや、いやいやいや、おかしいでしょ、それ!」

「どうしておかしいのよ」

「どうみたって俺が年上だよね、普通なら君が俺に弟子入りするんじゃないの?」

「年は関係ないでしょ。私の方があんたよりだんぜん文章がうまいもん、だから私が師匠」

「いや、俺より文章がうまいとか、何基準よ」

「はあ? 私、文章見本に作品データ送ったよね? 読んでないわけ?」

「いや、その、単なるオフパコのお誘いだと思ったんで、ごにょごにょごにょ……」

「きこえな~い、読んだんですか、読まなかったんですか~?」

「す、すみません、読んでないです!」

「マジか」

「マジっす!」

 眉間を押さえてうなり始める彼女の姿が俺にプレッシャーをかける。

「うっそでしょ、過去最悪の弟子だわ」

 俺はこらえかねて、そっと囁く。

「あの、カミガカリさん?」

「何よ」

「俺、趣味で書いてるだけなんで、弟子入りとかする気、無いんです」

「うっそ、マジ? じゃあ、なんでここに来たの?」

「オフパコのために……」

「ちょっと待って、私、DMでちゃんと言ったよね? 思い出してみ」

「ええ……言いましたっけ?」

 最初にDMを送ってきたのは彼女の方だった。簡単な自己紹介と俺の身辺(主に収入と住居関係)についての探りを入れられた、あれですっかりオフパコのおさそいだと思ったのは、確かに俺の方だ。

「その後、ちゃんと私の目的を話したはずだけど?」

 その後……次のDMは俺が今書いている作品ではなく、過去に書いたさらっとした短編に対する大絶賛だったはずだ。すでに脳内がオフパコモードになっている俺は、この大絶賛を俺の気を引くためのかわいらしいおべっかだと……あ。

「わかりました、三回目のDM、確かにどこかのサイトのURLが貼ってありましたね」

「それがそうなんだけど? 読まなかったの?」

「よくある評価目的の読んでくれちゃんだと思ったんで、その……」

「うっわ~、超傷つくわ~」

 これですべて解決した。女性からの個人的なコンタクト→オフパコ目的に違いない→ヤルことしか考えられなくなる→その後のコンタクト全てをオフパコにつなげるためのコミュニケーションだと思い込んで流し読みした俺が悪いわけで……。

「本当にすいません!」

 都合よく正座しているのだから、頭を下げればいいだけだ。俺は床に額が擦りつくまで頭を下げて謝り倒す。

「許してください、何でもしますから!」

「それって、なんでもするとは言っていないやつよね」

「いや、本当に何でもするし……なんなら、このプレゼント二つとも、よろしければご査収ください!」

「いらない。そんなものが欲しいわけじゃないし」

「じゃあ、何が欲しいんですか!」

「あんたが書く文章、すべて」

「へえっ? それってどういう?」

「つまり『弟子になれ』」

「ああ、やっぱりそういう流れ……」

 彼女は少し不敵に微笑んでいた。

「まあまあ、あんたにとっても悪い話じゃないし。プロになれるレベルまで鍛えてあげるからさ」

「俺、プロとか興味なくて……本当に趣味で書いてるだけだし……」

「へえ、じゃあなんで意地汚くコンテストのタグなんかつけてるの?」

「それは……」

『コンテストのタグ』とは、カケヨメ内部で行われる公募に参加するという印である。

 ネット小説の内部で行われる公募は、実に参加が簡単だ。公募のように規定文字数内で物語を完結させる必要もなく、期間中に目標文字数に到達する見込みがあるのならば連載中の作品でも構わない。参加の意思表明として『コンテスト参加』のタグをつけるのだが、これも難しい操作や長ったらしい文字の打ち込みもなく画面内にある参加ボタンをクリックするだけ。

「せっかくだから、タグだけでもつけておけばいいかなって、単なる賑やかしだけど……」

 歯切れ悪く言う俺に向かって浴びせられるのは、彼女の容赦ない一言。

「うそばっかり。あわよくば誰かの目に留まって、あわよくば出版のチャンスがあるんじゃないか、そう思ってるんでしょ? 意地汚いわねえ」

「っ!」

 見抜かれた! 薄々気づいてはいたけれど、無意識のうちに避けていた俺の本音を、こんなにもはっきりと、しかも他人の口からきかされるなんて、この上ない屈辱だ。

 しかも彼女は、さらにズバリと俺の本心を射抜いた。

「何が意地汚いって、その中途半端な根性が意地汚い」

 俺はもはや涙目で、それでも彼女に食って掛かる。

「アンタになにがわかるんだよ! 日常の生活や会社勤めで神経をすり減らして、それでも文章くらいなら一発逆転のチャンスがあるかもしれないって、そんなちっぽけな夢のために休日をつぶして、そんな……そんな夢さえ見ちゃいけないっていうのかよぉ!」

 それを聞いた彼女は、実に楽しそうにコロコロと声をあげて笑った。

「逆よ、逆。夢を見るなら中途半端にちっぽけな夢じゃなくて、でっかい夢を見なさいって言ってるの」

「でっかい……夢?」

「あんたはいずれプロになる。それも人気作家といわれる部類の、成功者にね。その時に恥ずかしくないように、私が持っている技術のすべてをあんたに教えてあげるって、そう言ってるのよ」

 びっくりしてぱちぱちと目をしばたたかせる俺に向けられた彼女の顔は、とろけるほど優しい笑顔だった。

「師匠である私が保証するわ」

「いや、まだ弟子になるとか決めたわけじゃないし……」

「そうね、じゃあ、お試し弟子ってことでどう?」

「お試しって、どういうことですか?」

「とりあえず三か月、私をあなたの家に住まわせてよ。それでどんな指導をされるのか、実際に肌で感じるといいわ」

「つまり、同居? おまけに肌でって……」

「エロい妄想しない! あんた、こんな小汚いジャージ女に欲情するの?」

「そりゃあ、オフパコしようと考える程度には……」

「それは私の見た目を知らずに、オフパコするための女だという先入観をもって見た時の話でしょ。今はどうよ?」

「そっすねえ」

 良く見ると彼女が着ているジャージ、首の周りが垢じみて不潔極まりない。地の顔はそれなりに美人だが、ろくに手入れもされていないせいで眉は太いし髪はぼっさぼさだし、トータルして小汚い。

「いや、ないな」

「でしょ、じゃあ、決まりね」

 こうして、俺と師匠の奇妙な同居生活が始まったのだった。

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